第400話 『悪夢(おもいで)』 side:アリン・モルダーク





※今回のエピソードは若干重めです。


・血の描写多数、暴力描写有り。

・狂ったような笑み。

・子供の日記の様な怪文章。


 といった奇妙さ満載のお話となっていますので、苦手な方はご無理なさらずにブラウザバックをしてください。

 久しぶりの投稿でこんな重めのお話になってしまい申し訳ないです……。


 以上、セルフレーティングは掛けていますが、念の為のご忠告でした!







↓↓↓↓ほんぺんかいし↓↓↓↓














 アリン・モルダーク。


 それが、私の名前だ。


 父上と母上に愛され育てられた。一応、兄上にも……。

 そして、エルヴィス大国を守る両親の姿に憧れて、いつしか私も剣を手に駆け回る様になった。父は頭を抱えていたが、母は頬に片手を当てて笑っていた。兄上は「俺の可愛い妹が」とか言っていたが面倒なので無視した。


 それが私の日常。


 剣を握り、家族に愛され、いつしか栄光騎士団に所属し国を守る事を夢見る幼子。


 それだけだった筈なのに……どうしてこうなってしまったのだろうか?


 もしも、もしもあの時、貴族の虚言を信じなければ……私の日常は壊れなかったのに。



 ――――血統魔法。



 それは一族の血を重んじる事を定められた特殊魔法。


 当時は何も知らなかった。

 父上にも母上にも教えてもらえなかった。


『大人の仲間入りをしたら、嫌でも知る時が来る。せめて今だけは、私たちの可愛い娘で居て欲しい』


 五歳の時。

 私の小さな頭を撫でながら、父上は願いを乞うように私にそう言った。

 何も知らなかった私は、父上に頭を撫でられた事で上機嫌になり『わかった!』と返事をした。


 そしてこの後――――私は側仕えの一人と一緒に誘拐されたのだ。


 犯人は私たちモルダーク家の待遇に不満を抱いていた男爵だった。

 私が王宮で仕事中の父上に届け物があり、馬車で向かっている最中の襲撃。今振り返ればあまりにも杜撰で愚かな計画だった。


 だが、それでも私は誘拐されてしまった。

 付いていた護衛が王都ならば魔物の危険性も無いという上司の判断で新人のみで構成されていた。

 その為、襲撃時に足として守らなければならない馬の守りが手薄になり馬車が横転。

 襲撃者が煙玉を使い目くらましをした瞬間に側仕えの女性と私は馬車の中から引きずり出され、そのまま路地裏へと連れ去られた。


 裏路地を右へ左へ何度も何度も曲がり続けながら走り抜け、襲撃犯たちは王都の外へと続く抜け道を使い王都から脱出。隠していた馬を使い、私たちを連れたまま魔物が蔓延る森の中へと入った。


 犯人が何を言っていたのかは分からない。

 断片的な記憶。


 痛かった。

 私の腕に切り傷が幾つも出来た。血が、流れていた。


 怖かった。

 側仕えの女は足首を切られて、絶叫が響く中で前方へと投げられた。血の跡が、私大に大きくなっていく。


 悔しかった。

 助けに行こうと立ち上がると殴られた。

 その間にも側仕えの女の近くに獣が、血の匂いに気づいてやって来て……。歩もうとした足が震えて、頑張って歩いてもまた殴られて……。


 悲しかった。

 狼に嚙みつかれて叫んでいた。血が溢れていた。

 狼が逃げたと思ったら熊が来た。もう、側仕えの女は息絶えていた。

 熊は私を一度だけ見たが、側仕えの女の方が楽だと判断したのか動かなくなったその足に噛みついて引きずって行った。赤い、赤い血だまりが残っていた。


 恐怖。狼の遠吠えが聞こえる。


 絶望。一頭だけじゃない。沢山の遠吠えと足音が近づいて来る。






 まっかなち。ありんのひだりてが、おおかみにかまれちゃった……。





















 


 ――――いたい。こわい。いやだ。なんで。どうして。ぱぱ。まま。おにいちゃん。たすけて。たすけて。たすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけて助け…………………




















 た す け な ん て こ な い 。


 ま も ら な い と 。


 い き る た め に 、 あ り ん は あ り ん を ま も ら な い と 。






 ち が き れ い 。


 あ め が ふ る 。


 あ か い あ め 。


 い た い の が き え た 。


 お お か み さ ん が き れ た 。


 き れ い に あ し を き れ た 。


 あ と は あ た ま だ け だ よ 。


 き れ い 。
















 きれいきれいきれいきれいきれいきれいきれいきれいきれいきれいきれいきれいあはははははははははははははははははははははは!!!!!!!

















「――――だいじょうぶ。ありんがちゃんと、まもってあげるからねぇ?」
















♢♢♢










「――長。モルダーク副隊長!」

「ッ!?」


 大きな声で名前を呼ばれて、私の意識は覚醒する。

 目を開けソファから上体を起こすと、直ぐ側に使用人服を着ている女性の姿があった。


「ようやくお目覚めになりましたか……大丈夫ですか? 酷くうなされていましたよ?」

「……ああ、大丈夫だ」


 最近は見なくなったと思っていたんだが……やはり、そう簡単には消えてくれないか。


 寝ぼけていた頭の中が少しずつ整理されていく。


 確か、ここは王宮の使用人が使う休憩室の一室。昨晩は魔物の駆除で眠る時間が取れず、お客人のお迎えまでの空き時間で少しでも仮眠を取っていたんだったな。


 甲冑をテーブルに置いて、外泊用のアイテム袋から取り出した簡素な寝間着に着替えて眠って…………っ!?


「いま、何時だ!?」

「え、えっと……15時を過ぎた頃かと――――えっ!? モルダーク副隊長!?」


 ま、まずい!!

 思いっきり寝過ごしてしまった!!

 私は使用人の女性が話し終わる前に飛び起きてそのまま扉を開け放つ。


 うぅ……今日という日を楽しみにしていたのにこの体たらく、全く以て情けない!!

 一応、部下たちが居るから大丈夫だとは思うが……しっかり案内をこなせているのだろうか?


「……って、考えるよりも今は足を動かさないと!!」


 ”身体強化魔法”を脚全体に掛けてから、私は王宮の廊下を駆け出した。




「お待ちくださいモルダーク副隊長!! 甲冑! 甲冑を忘れてますー!!」




 …………ん? 今何か聞こえた様な? ま、良いか。




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