第395話 別れの握手のその後で
――パリンッ。
ガラスが幾重にも砕け散る様な音と共に、視界がぐにゃりと歪み始める。
やがて歪みは渦を作る様にグルグルと回り始め、モノクロームに染められた世界に色を付け始めた。どうやら無事、フィエリティーゼに戻れたらしい。
いやぁ……本当に疲れた。
俺の消し去りたい過去を大声で話し合う三人に対して、漆黒の魔力を纏わせた両手で鷲掴みにして淡々とお説教をしていた。
俺の行動に、黒椿・ファンカレア・ウルギアの三人は顔を青くして見るからに狼狽えていた。三人にお説教をしていた最中には、視界の端にはフィストレアの姿も映っていて、フィストレアに関しては信じられないものを見たと言わんばかりに目を見開いて驚いている様だった。
これはお説教の後でグラファルトから聞いた話ではあるが、三人の会話を中断させた時の俺の顔は、今までで一番怖い顔をしていたらしい。
自覚は無かったのだが、まあ確かに知られたくない過去ではあったので、自分が思っていたよりも嫌だったのかもしれないな。
お説教の後で三人には謝罪したが、出来れば俺の過去についてはあまり大声で話さないで欲しいとお願いした。普通に恥ずかしいし、自分以外の人に自分の過去を晒されるのは……幾ら黒椿たちだったとしても、ちょっと嫌だったから。
別に過去を暴露されるくらいでとか思われるかもしれないけど、その内容がよりにもよって黒歴史中の黒歴史……”妄想の果て”へと至った自分だからたちが悪い。あれ、こんな事を考えてる時点で俺はまだ抜け出せて……いいや、考えるな。忘れるんだ。
そんな一悶着があってから、俺達一同は無事にフィエリティーゼへと帰還した。黒椿とトワとウルギアの三人は既に俺の中へと戻っており、現在は俺とグラファルト、そしてフィストレアとファンカレアの四人だけとなっている。
四人全員が”女神の羽衣”を纏い、外に漏れ出る魔力を遮断してその存在を極限まで無へと偽っていた。
本当ならファンカレアは、王宮の中に着いてから来てもらう予定だったんだけどな。少しでもフィストレアとの時間を大切にしたいと懇願されると、無下に断る事は出来なかった。
そうして、無事にフィエリティーゼへと帰還した俺たちは、そそくさとその場を後にして中店街へと移動していく。
停止していた時間が動き出して、ファンカレアたちの魔力を感知した国の騎士たちが原因究明の為にこっちへ向かって来る可能性があったからだ。
そうして中店街を少し歩き、ファンカレアの魔力が解放された場所から離れている路地裏へと移動する。
「カカッ、ランとグラファルトが纏っておったから知っていたが、このローブの効果は凄いのぅ。全く気づかれなかったのじゃ」
フィストレアが自分のローブ……”女神の羽衣”を見てそう言った。モノクロームの空間を出る前に、ファンカレアがフィストレアへ渡したやつだ。
ちなみにフィストレアはフィエリティーゼに戻る前に全員の名前を憶えて、現在は名前で呼んでいる。それに伴いグラファルトもまた”フィストレア”と呼ぶようになっていた。
しかし、フィストレアに”女神の羽衣”を渡した時は驚いた……。元々着ていた汚れたローブを脱ぎ捨てたら、その下には何も着てなかったんだもんなぁ。
まあ、今は”魔力装甲”で丈の短いズボンとシンプルなシャツを纏っているから問題は無いんだけど。今までほぼ裸の状態だったと想像すると、ちょっとびっくりである。
「見た目は普通のローブなんだけどな」
「本当にのぅ。それにしても……本当にファンカレアはフィエリティーゼへと降り立つ事が出来るようになったのじゃな」
「はいっ! ですから、フィストレアの傍に居る事だってできます!」
フィストレアの言葉にファンカレアが自己アピールをする様に声をあげる。どうやら、ファンカレアはまだフィストレアの手伝いをする事を諦めてはいない様だった。
「ファンカレア……すまぬが、これは儂の使命なのじゃ」
「うぅ……分かってますー! ちょっと言ってみただけですから」
申し訳なさそうに謝るフィストレアの言葉を聞いたファンカレアは、その頬を膨らませてプイッと外を向いてしまう。そんなファンカレアの姿を見て、フィストレアだけではなく俺とグラファルトも苦笑を浮かべてしまった。
「もう行くのか?」
「うむ、場所は何となくだがわかっておるからのぅ。それに、早いところ終わらせなければ、このお転婆女神がいじけてしまう」
「わ、私はいじけたりなんかしません!」
「カカカッ、冗談じゃ冗談じゃ。じゃが、早く終わるに越したことはないからのぅ……」
不満げに抗議するファンカレアの右腕を叩きながらフィストレアは笑みを浮かべてそう言った。
そうして、フィストレアは俺の前へと移動すると、右手を差し出して来る。
「お主には本当に世話になったのぅ。感謝する」
「いや、俺は何もしてないよ。ファンカレアとフィストレアが仲直り出来て、本当に良かった」
「カカッ、お主は本当に……気持ちの良いくらいに優しいやつじゃな」
差し出された右手を握りながら答えると、フィストレアはその顔に笑みを浮かべながら言う。
そこで会話は終わりかなと思い、俺は握っていた右手を放そうとしたのだが……フィストレアは俺の右手を握ったまま放そうとはしなかった。
「あ、あれ?」
「うむ……まさか、この様な感情がまだ残っておったとはのぅ……」
「フィストレア?」
「……えい」
「うぉっ!?」
何かを呟いていたフィストレアに声を掛けると、不意に握られた右手がフィストレアの方へと引き寄せられた。油断していた事で、俺はそのままフィストレアの方へと体を倒してしまう。
そうして、フィストレアの顔が目の前にまで接近したと思った直後――フィストレアは、俺の唇に自身の唇を重ねるのだった。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!
ご感想もお待ちしております!!
作品の投稿に関してはTwitterでお知らせしていますのでプロフィール欄からTwitterに飛んでいただけるとご確認できると思います!!
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます