第394話 消し去りたい過去






 フィストレアから特殊スキル――【消去】を貰った。


 ファンカレアが仲介役となって受け取り作業をしたのだが、【漆黒の略奪者】を使って奪った時とでは少しだけ違う事があるのに気が付く。

 それはスキルを手に入れた時……そのスキルの使い方が漠然と浮かび上がるかどうかの違いだ。


「んー……」

「どうした? 何か問題か?」


 俺が不思議に思い首を傾げていると、グラファルトが心配そうな顔をしてそう聞いて来た。そんなグラファルトの言葉を受けて、ファンカレアとフィストレア、途中から合流した黒椿やトワまでもが不安そうにし始める。

 ちなみにウルギアについてだが、どうやら既に俺の中に戻って居たらしい。黒椿からのお説教が終わって直ぐに戻っていた様だ。フィストレアとの話に夢中で全く気づかなかった……。


「ああ、ごめん。別に体に異常があるとかじゃないから大丈夫だ。ただ、ファンカレアを介してスキルを覚えるのと、俺が【漆黒の略奪者】を使ってスキルを覚えるのとでは、どうもスキルを覚えた後の理解度が違うみたいで――」


 そうして俺は、疑問に思っていた事について皆に説明する。

 俺の身体に異常がないと分かると全員が安堵の表情を浮かべ、その後でファンカレアが丁寧に説明を始めた。


「それは無理もありません。私はあくまでフィストレアからスキルを預かり、女神として藍くんに授けていますから。藍くんが【漆黒の略奪者】で手にしたものは、その……言い方が悪くなってしまうのであまり口にはしたくないのですが、奪って手にした事になりますよね?」

「あ、そうか……。つまり、奪ったスキルとかの場合は、スキルは奪えてもその使い方については分からないって事か」

「そうなります。そうですね……藍くんの過去の記録を基に例えるならば、”説明書のないゲームソフト”と言った所でしょうか?」


 おう……なんかさらっと、とんでもない事を告白された気がする。

 そう言えば、ファンカレアって俺が地球に居た頃の事も良く知ってるんだっけ?

 確かに俺はゲームが好きだったから中古のソフトも買う事はあった。その中に値段が安い代わりに説明書がないソフトがあった事も……うっすらと覚えている。


「よく、俺が説明書のないゲームソフトを持ってたのを覚えてたね?」

「当然ですっ、私よりも藍くんについて詳しい者は居ないと自負していますから!!」


 えっへんと腰に手を当てて、胸を張りそう宣言するファンカレア。

 すると、そんなファンカレアの言葉に異を唱える人物が現れた……黒椿とウルギアである。


「おっと! この黒椿ちゃんの存在を忘れて貰っちゃ困るな~!」

「……生まれて直ぐに藍様の中に宿っていた私こそが、藍様の事を良く理解していると言えるでしょう」

「むぅ……私は絶対に引き下がりませんよ!!」


 ファンカレアの前に立ちはだかる二人の女神……と言うかウルギアはちょっと神出鬼没過ぎないか? 俺としてはプライベートな時間も欲しいんだけど、もう諦めるしかないのだろうか……。

 いや、そもそもこの数年の間で俺が一人になれたことなんて無かったな……今更か。


 そうして三人は俺の事など気にする様子も見せず、俺の幼少期から現在にかけてのエピソードを話し合っていた。いや、正確には”ふふん、私はあんな事からこんな事まで知っていますよ?”と言うアピール合戦である。いや、ほんと火を噴きそうな程恥ずかしいからやめて欲しい。まあ、どうせ聞いてくれないだろうから放置するけど……。


 そんな三人のアピール合戦を、フィストレアとグラファルトがニヤニヤとした笑みを浮かべながら聞いている。あー……精神がゴリゴリと削られていく。

 俺はなるべく聞きたくなかったから直ぐに女性陣から距離を取り、三角座りをして待っていた。


「パパ~!」


 そんな俺の傍にとてとてと可愛らしく歩いて来るトワを見つけて思わず顔が綻ぶ。


「お~、トワ。どうしたんだ~?」

「パパって凄いんだね!」

「ん?」


 パァっと花が咲く様にその小さな顔に笑顔を咲かせたトワは、濁りのないキラキラとした瞳を俺へと向けてそう言った。あれ、なんか悪寒が……。


「トワね? パパとママの魔力から二人についての記録を読み取ってたの。だから、パパとママの事を知る事が出来たの」

「う、うん。それで?」

「それでね、それでね? トワはもうパパの事を全部知っていると思ってたから、ママたちが話している事もどうせもう知ってる話なんだろうなぁ~って思ってたの」


 どうやらこの小さな天使もあのアピール合戦に参加していたらしい。発言こそしないものの、内心では三人の話を聞いてほくそ笑むつもりだった様だ。うん、トワは相変わらず可愛い。可愛いのだが……どうして悪寒が止まらないんだろう?

 

「でもね……トワ、全然パパの凄さを分かってなかった」

「俺の……凄さ?」

「トワ、知らなかった……パパって、地球にいた頃は"影に潜む王"、”深淵に足を踏み入れし者”って呼ばれてたんだよね!?」

「…………ん?」


 トワの言葉を聞いて、キラキラとした瞳で俺を見上げていた天使の頭を撫でていた俺の手が止まる。


 え、嘘だろ……まさか、あの話をしてるのか!?


 それは俺にとって消したい過去。

 いや、地球で暮らしていて、尚且つ二次元コンテンツに精通している男なら一度は経験がある……と、俺は信じているとある現象についてだ。


 俺が黒歴史とも言える過去を思い出して震えていると、トワは興奮した様子で尚も語り続ける。


「ママとグラファルトお姉ちゃんとウルギアお姉ちゃんが言ってたよ? パパはカルマ?によって支配された哀れな魂を救うお仕事をしてたんだよね!?」

「そ、それは……」

「あ、大丈夫だよ! これは世界にとっての秘密でもあって、内緒の事なんだよね? トワ、秘密は守れるから!!」

「…………」


 少しだけ身を屈めて口の前に右手の人差し指を持っていくトワ。どうやらトワは地球に関する知識は乏しいらしく、俺という存在は知っているものの、俺が地球で何をしていたかに関してはあまり詳しくないようだった。


 そんな純粋なトワの反応を見て……俺はもう”それは設定なんだ”とは言えなくなっていた。


 でも、このままでは将来、もしもミナト達の様に地球からやって来た転生者と交流を深める様な事があれば、トワが笑いものになってしまう可能性も……。


 それは困る!! いや、もしもトワの心を傷つける様な輩が現われでもしたら真っ先に始末するが、できればトワにはい正しい知識を持つ良い子に育って欲しい。

 やっぱり、ここは俺が恥をかくことになろうとも、しっかりと説明しておくべきだよな……。


「……あのな、トワ」

「ん?」

「三人が話してるパパの話なんだけどな? あれは――「本当の事だぞ」――なっ!?」

「あ、グラファルトお姉ちゃん!!」


 こっ……こいつぅ。

 顔を上げれば、そこにはニヤニヤとした笑みを浮かべるグラファルトが立って居た。グラファルトはトワの後方へと回ると、トワの小さな両肩を掴み顔を耳元へと寄せて話し続ける。


「藍は過去に”地球を守る為に悪の組織と真っ向から対立し戦っていた”そうだ。お前の父親は、根っからの正義の味方らしい」

「おおぉぉぉぉ~!!」

「あ、抗う者の全てをっ……一本の黒い木刀で薙ぎ払い、た、唯一人……っ……ち、地球をぉ、守る為に戦い続けていたそうだ……っ」

「か、かっこいいぃ~~!!」


 おい、言ってる途中で笑いそうになってんじゃねぇか!!

 これ以上トワに変な話をするのはやめてくれませんかね!?


 幸いなことにトワはグラファルトが笑いを堪えていると気づいていない様だけど……トワを騙してるみたいで本当に居心地が悪い。

 もう知られてしまった事に関しては仕方がないが、これ以上はトワに聞かせたくないな……。


「ん? どうやら向こうでまだ話をしているみたいだな。どうだ、トワ? 我と共に藍の武勇を――ッ!?!?」

「……パパ?」

「ごめんなぁ、トワ? 俺はちょ~っと黒椿達に話があるから、グラファルトお姉ちゃんとお話しててくれ」

「ん? はーいっ」


  元気よく返事をするトワの背後では、グラファルトが顔を青くして俺を見つめていた。

 それもそうだろう。グラファルトに対して俺は念話で”これ以上、俺の過去について話したら二度と料理をしない”と伝えたのだから。


 ゆっくりと立ち上がった俺はグラファルトの隣を横切り、その際にグラファルトの耳元へと顔を寄せて「よろしくな?」と声を掛けた。


「ッ……う、うむ。我が魂に懸けて!!」


 うん、良い返事だ。

 グラファルトの返事に満足した俺は数回軽く肩を叩いてその場を後にする。


 さあ……早急に片をつけるとしよう。

 自身の身体に漆黒の魔力を纏わせて、俺は三人の元へと向かうのだった。












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