第388話 悠久の時を経て、終わり始まる物語。⑥






 自らの存在を否定し嘆くフィストレアに、ファンカレアは怒った様子で叫び出す。

 そんなファンカレアの叫び声を聞いて、フィストレアはビクリと体を跳ねさせるとその体をゆっくりとファンカレアの方へ向けるのだった。


「貴女がどれだけ世界の為に貢献して来たか、ちゃんと自覚しているんですか!? 自らが積み重ねてきた努力を、貴女自身が否定しないで下さい!!」

「ッ……だが、儂が居なかった方が世界は発展しているではないか!! 何の成果も得られぬ努力に、一体何の価値があると言うのだ!?」

「確かに貴女が封印された後……築き上げてきた物が崩壊しフィストレアと共に繁栄を続けてきた記憶も失くしてしまった人類はその絶え間ない努力の末に大きな発展を遂げました。しかし、それは当然の事だったんです。人類が更なる発展を遂げるように、私がフィストレアに教わった方法を用いて神託を授けていたんですから」


 フィストレアが封印されてからの五万年、その間に起きた世界の発展にはフィストレアが封印される前に行っていた発展技術が用いられていたらしい。


「衣食住の改革、魔法技術の向上、魔道具の生成、フィストレアが残したそれらの技術を少しずつ神託として授けていき……五万年もの歳月を掛けて発展していったのです。貴女が居たからこそ、ここまで世界は発展してこれたのですよ?」

「儂の努力が、無駄ではなかった……?」

「この世に無駄な努力は存在しません。その結果が例え成功であっても、失敗であっても、培われた経験は未来への架け橋となってくれるのです。私は、貴女を封印した後にそう学びました……」


 ファンカレアの言葉を聞いていたフィストレアは力が抜けた様にフラフラとした様子でその場にへたり込んでしまう。

 そんなフィストレアの側へとファンカレアは駆け寄り両膝を着くと、フィストレアの両手を握るのだった。


「私にとっての失敗は、自分の気持ちを伝えられなかった事です。その事に気づいた時には……大切な人を失った後でした」


 逃れようとするフィストレアの手を、必死に掴み離さないファンカレア。そんなファンカレアは真っ直ぐにフィストレアを見つめて、尚も語り続ける。


「ずっと、ずっと謝りたかった」

「ファンカレア……?」

「私がもっと早くこうしていれば……恥ずかしがらずに、怯えずに気持ちを伝えていれば……フィストレアを苦しめることは無かったんですよね?」


 フィストレアの左手を両手で包むように握り、ファンカレアは悲しげに微笑みフィストレアを見つめる。

 そんなファンカレアの表情に困惑するフィストレアに、ファンカレアは溜め込んでいた想いを曝け出すのだった。


「私が世界を見るのが好きな理由は、そこには私の家族が映っていたからなんです。私が初めて生み出した……大切な家族が」

「ッ……」

「私に触れ合う温かさを教えてくれた人、私の傍に居ると誓い対等な関係で接してくれた女神――フィストレア、貴女の事です」


 優しく微笑みを浮かべるファンカレアは、はっきりとした口調でそう言った。


「あの頃の私にとって、貴女は特別な存在でした。その生まれがと言う訳ではありません。私に対して臆することなく接してくれる貴女が特別だったんです。私は命を生み出せますが、その心は生み出せない……だからこそ貴女に惹かれて何時までも共に居たいと思えたのです」

「……すまぬ、儂は、お主の気持ちを考えずに大きな過ちを――「謝るのは私の方です」――ッ」


 ファンカレアの想いを知ったフィストレアは、その声を震わせながら過去の行いを悔いてファンカレアに謝罪をする。そうして顔を青くしていたフィストレアを見たファンカレアは徐にその体を動かして……優しく声を掛けながら、フィストレアの身体を抱きしめるのだった。


「貴女を孤立させてしまって、本当に申し訳ありません。辛かったですよね? 苦しかったですよね? 独りぼっちの寂しさは……私もよく知っていますから」

「ッ……ゥッ……」

「ごめんね……ごめんなさい、フィストレアぁ……」

「ばか、もの……あやまるのは、わしのほうだ……」


 抱きしめあった二人は、お互いに涙を流しながら謝り合う。


 ここでようやく長い物語が幕を閉じ、二人の新たな物語が始まったのだ。








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