第387話 悠久の時を経て、終わり始まる物語。⑤







「儂は封印が解かれてから数日、お主らに出会うまでにこの世界を見て回った。僅かな期間であったが、それでも世界が大きく進化を遂げているのは見て取れる。儂が居た時代とは大違いじゃ」


 自分の生きてきた時代とは変わったと言うフィストレア。

 その足で様変わりした世界を見て歩き、フィストレアは何かを感じ取っていたらしい。


「人の生活は豊かになったんじゃな、それに建物や魔道具の技術も向上しておる。もしかしたら儂は……人類の成長の妨げになっていたのかもしれないのぅ。人は常に壁をよじ登る生き物だ。高い壁を上る為に試行錯誤を繰り返し、やがては壁を乗り越えて進化を遂げる。儂がしていたのは進化の壁を壊す行為であり、本当に儂がするべき事は壁を上る人類を少しだけ支えてやる事じゃった」


 ――もしも、儂があの時それをしていたら……。


 戻る事の出来ない過去を想ってかフィストレアの表情に憂いが混じる。

 自分が封印された後に劇的な変化を遂げた世界は……フィストレアの目に強く焼きついていた様だ。

 数日と言う短い期間ではあれど、その変化に驚き自分のしてきた事を思い浮かべて後悔を募らせる。


 そんなフィストレアの嘆きにも似た話を……俺とファンカレアはただただ黙って聞いていた。


「儂は……ただただ世界を良くしたい一心じゃった。ファンカレアの愛する世界を守りたかったんじゃ。守護神として働いて、働いて、働き続けた。じゃが、それは本来の役目とはかけ離れていたのかもしれないな。人類を進化を停滞させて、儂と言う便利な神に依存させてしまったのじゃ」

「フィストレア……それは――「のぅ、ラン」――ッ」


 自分を責め続けるフィストレアに声を掛けようとした俺だったが、その直後にフィストレアが俺を見ながら名前を呼んできた。

 フィストレアの表情はなんて表現すればいいのだろうか……寂しい? 悲しい?

 自分と言う存在が守りたかったものの邪魔になっていたかもしれない。そんな事実に直面したフィストレアは今にも壊れてしまいそうなくらい悲痛な微笑みを浮かべて俺を見ていたのだ。


「儂は……儂は本当に必要じゃったのか? 儂と言う存在は、この世界において必要じゃったのか?」

「フィストレア、落ち着いて――「五月蠅いッ!!」――ッ!?」


 混乱した様に自身の顔を両手で覆い隠すフィストレアの肩に両手を置くと、思いっきり払われてしまった。

 そうして驚いていた俺の胸元の服を掴み、フィストレアは尚も叫び続ける。何かに怯える様に、縋る様に俺の顔にその小さな顔を近づけて……今にも泣きそうな目と笑みを消そうとしない口元と言う歪つな表情で、その胸のぐちゃぐちゃとした感情を吐き出し続けるのだった。


「もう、何もかも分からなくなってしまった……儂は一体何をしていたのじゃ!? 何故……何故じゃ!? 何故世界はここまでの発展を遂げる事が出来たのじゃ!? 儂が封印される前と後では、一体何が違ったんじゃ!? 統治者が違うのか!? 人類の数が違ったのか!? 神の手出すけは不要だったと言う事か!? 儂のしてきた事は全て無駄だったのか!? 必要のない事だったのか!? これでは……これでわぁ……ッ、今まで頑張って来た儂がぁ、馬鹿みたいではないかぁぁぁぁ!!」


 最後の叫びと共に、ついにフィストレアは堪えきれずに泣き出してしまう。

 現実を受け入れられなかった。全ては世界の為にと身を粉にして動き続けたフィストレアにとって、自分が居なかった間に進化を遂げた世界が認められなかったのかもしれない。


 五万年……五万年だ。

 フィストレア以外の全てが五万年もの月日を重ねていて、彼女だけが五万年前に囚われたままだったのだ。

 在るのは新たな世界のみであり、フィストレアと言う神の歴史は人々の記憶には残っていない。


 もしかしたらフィストレアは我慢していたのかもしれない。辛かったのかもしれない。全ては自分が蒔いた種であると言い聞かせて堪えてきた感情が、限界を超えてこうして外へと吐き出されたのかもしれない。


 フィストレアの気持ちを理解するのは無理だろう。俺には想像もできない事だから、簡単に”分かるよ”なんて言ってはいけない。

 俺に出来る事は、いま彼女を一人にしないことだけ。こうして涙を流すフィストレアを受け入れてあげる事くらいだ。


 俺には、これくらいしかしてあげられない。だけど……。


「――何ですか……それ」


 フィストレア以外にも、五万年もの歳月を過ごして来た女神がここには居る。


「ふざけた事を言うのはやめてください……フィストレアのしてきた事が無駄だった訳がないじゃないですか!!!!」


 創世の女神ファンカレア。

 フィストレアを生み出した存在であるファンカレアはその怒りを隠すことなくフィストレアに向けて叫ぶ。


 悠久の時の中を過ごして来た二人の女神はいま、その胸に秘めた感情をぶつけ合う。







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 【作者からの一言】


 悠久の時を経て、終わり始まる物語。は後一話か二話で幕を閉じ、その後はちょこっとフィストレアとの話を挟みつつもシーラネルの誕生日会へと移ります。


 【作者からのお願い】


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