第384話 悠久の時を経て、終わり始まる物語。②






 泣き続けていたファンカレアの瞳が大きく見開かれる。

 儂が謝罪の言葉を口にしたのが、そんなに意外じゃったのだろうか?


「そんなに驚く事ではないじゃろう?」

「い、いえ、その……今までフィストレアとの生活の中で、謝られる事なんて殆ど無かったので…………寧ろ私の方が謝ってばっかりだったから」


 最後の方だけ小さく口篭りながら、ファンカレアは儂にそう呟いた。

 カカッ、そう言えばそうじゃったかもしれないのぅ。儂はいつもお主を叱るばかりで、叱られるなかった。


 じゃが、今日くらいはその立場が逆転してもいいじゃろう。

 儂はお主に叱られる様な事をしてしまったのじゃ。儂らしくないなどとは言わずに、お主には聞いて欲しい。


 そんな事を思いながら儂がファンカレアを見つめると、ファンカレアは何かを悟ったのかその背筋を伸ばし儂の言葉を待つ体勢をとり始めるのじゃった。


「……儂は、ファンカレアの事が好きじゃ」

「~~ッ!?」

「創造主であるからとか、そんな薄い気持ちではない。勿論、儂と言う存在を生み出してくれた事には感謝しておるが、それだけではなく……儂はお主の傍で、お主が幸せそうに笑う姿を見るのが好きだったんじゃ」


 ファンカレアと言う女神の精神は、生きてきた年数からは想像も出来ないほどに幼かった。それは確かに世界を管理する上では良くない事なんじゃろうが……幼いからこそ、世界を純粋に見ることが出来る。


「進化を続ける世界を二人で見守っていたあの日々は……かけがえのないものものじゃった」

「フィストレア……」

「じゃが、そんな日々を儂が壊してしまったんじゃな……」

「ッ!?」


 何よりも守りたかったファンカレアの笑顔を、愚かにも儂自身が壊してしまったんじゃ。


「儂を崇める者が増え続けた事で、お主が作り笑いを浮かべる様になった。お主にそんな笑顔を作らせたくなくて、儂は人類から守護神の記憶を全て消し去り悪神であると知らしめた。それがお主の笑顔を取り戻す為に最も最適な選択じゃったと信じて……じゃが、結果はどうだ? 確かにお主は再び人類から崇められる神へと戻ったが――肝心のお主は元通りにはならなかった」


 最期の最期、敗北した儂がファンカレアに封印される時。

 儂はランにファンカレアの表情については”分からぬ”と言ったが……それは違ったのじゃ。”分からぬ”と言う事で隠し逃げておっただけじゃった。儂はしっかりと覚えておったんじゃ。


「――すまなかったのぅ、ファンカレア」

「ッ……ぅぅ……」


 そうじゃ、こんな顔じゃったな。

 涙を必死に堪えようと目に力が入り、下唇を強く噛んで震えた顔……あの時、達成感に浸りながら最期を迎えようとしていた儂を、絶望の淵に叩き落とした顔じゃ。

 そんな顔をさせたくて、儂は悪神と成った訳じゃなかった。儂はただ……元通りに、儂の好きな笑顔を浮かべるファンカレアに戻って欲しかっただけだったんじゃ。


「今更になって自らの過ちに気が付いたんじゃ……儂は全てが元通りになれば良いと思って悪神になった。じゃが、元通りになる訳がなかったんじゃ。そうじゃろう? そこには儂が居ないのじゃから。お主の涙を堪える顔を見て、初めてその事に気づいたんじゃ」


 馬鹿者は、儂の方じゃった。

 こんな遠回りな方法を選ばなくても、もっとお主と話しておればよかったんじゃ。


「すまなかった……儂は、儂がッ!! 一番お主を傷つけてしまった……」


 いかんのぅ。

 泣くつもりは無かったのに、溢れる涙を堪える事が出来ぬ。

 咄嗟に頭を下げて隠したが……恐らくバレておるじゃろうな。


 これで儂が伝えたかった事は伝え終わった……。これから先の事は分からぬが、後の事は全てファンカレアに委ねるしかない。


 ……儂はもう満足じゃ。

 許されようが許されまいが、もう伝えるべきことは伝えた。本心を話す事が出来た。最後の時に吐いた”大嫌い”と言う大嘘を訂正する事が出来た。十分じゃ。


 儂の気持ちは永遠に変わる事は無い。


 儂はのぅ、ファンカレア。

 お主の事がずっと、ずっと大好きじゃ。


「…………うぉっ!? なんじゃ!?」


 そうして儂が瞳を閉じて頭を下げていると、不意打ちの様に前方から強い衝撃を受けてバランスを崩し倒れてしまう。


 そのまま儂は勢いよく仰向けの状態で倒れてしまった。

 何が起こっておるのか理解が出来ず、恐る恐る顔を上げてみると……そこには儂の腰に両腕を回し、しがみ付いているファンカレアの姿があった。


「い、いきなりなんじゃ!? 危ないじゃろう!?」

「…………」


 思わずそんな声を上げてしまったが、ファンカレアから言葉が返って来ることは無かった。

 儂の腹部に顔をうずくめてその体を震わせるのみ。儂はどうすればいいのか分からず顔を上げた状態のままファンカレアを見続ける事しか出来なかった。


 すると、数秒もしない内にファンカレアはうずくめていた顔をゆっくりと上げ始める。


 そこで儂が見たのは……大粒の涙をポロポロと溢し、子供の様に泣きじゃくるファンカレアの姿じゃった。












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 【作者からの一言】


 すみません。今日は短めです…………。


 【作者からのお願い】


 ここまでお読みくださりありがとうございます!

 作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!

 ご感想もお待ちしております!!


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