第381話 かつて、世界の天敵と呼ばれていた少女②
フィストレアのステータスを確認した俺は、続けてフィストレアの強さについて教えて貰うことになった。
「さて、儂の強さに関する話をするにはまず――世界の仕組みついて説明する必要がある」
「世界の仕組み?」
「そうじゃ。まあ、五万年前の記憶を頼りに教える事になるが、恐らくは変わっておらんじゃろう」
そうしてフィストレアは一度ステータス画面を消すと、俺の方へと体を向けるとその右の掌を上へと返して見せて来る。俺もフィストレアの方へと体を向けると、フィストレアは右の掌の上に禍々しい血の様に赤いの魔力を纏わせた小さな種を出現させた。
「うわっ、なんだそれ……」
「これは"魔神の種子"と言う物じゃ。この小さな種を潰すと、どういう原理かは知らぬが必ず一滴の雫が垂れてくる。試しに潰して見るが……間違ってもお主は触るなよ?」
真剣な様子でそう告げるフィストレアの言葉に頷いて答えると、フィストレアは右の掌に乗せていた"魔神の種子"を左手の親指と人差し指で摘み……一気に押し潰した。
フィストレアが"魔神の種子"を押し潰した際にパキッという殻が割れる様な音がしたと思ったら、次第に"魔神の種子"を潰した場所から赤黒い液体が下へと向かって親指に垂れ始めた。
「こうして見ると何滴も採れそうに思えるが、不思議な事にこの液体は一滴地面へと垂れるとその姿を消してしまう。ほれ、見ておれ」
フィストレアにそう言われて赤黒い液体を見続けていたら、親指から一滴の雫が大地へと向かって落ちる。そして雫が大地へと吸収された直後、フィストレアの指に付着していた筈の赤黒い液体は綺麗に消え去っていた。
「種から生成されたこの液体は大地や空気、建物なんかに付着する分には問題ない。しかし、その優劣に関わらず何の耐性も無い知性のある生命に付着すると瞬く間に感染して行き……やがてその生命を"魔人種"へと変えてしまうのじゃ」
「魔人種……」
「魔人種へと進化を遂げた生命はその背中に骨の様に細い赤黒い翼を生やし、その肉体に秘められた魔力量が格段に上昇する。中には自らが得意とする分野において特別な能力を備わる者もおる。そして共通の能力としてあるのが――フィエリティーゼに生きる生命に対する圧倒的な防御力じゃ」
「それって、さっきフィストレアが言っていた”フィエリティーゼにおいては強い”って言う言葉と関係があるのか?」
俺がそう言うと、フィストレアはニヤリと笑みを浮かべながらも「そうじゃ」と答えた。そして再びステータス画面を開くとその黄金の瞳を微かに煌めかせて自身のステータス画面に目を通していく。
「……うむ、やはりこの”ステータス画面”と言うものは便利じゃのう。今までは感覚として捉えていた能力、その詳細が簡単に確認できるのは良い事じゃ」
「その圧倒的な防御力って言うのはスキルなのか?」
「いや、スキルでは無い。まあ見た方が早いじゃろう。お主も【神眼】を使って儂のステータス画面の【ファンカレアに反する者】と言う称号を見てみろ」
フィストレアに言われるがままに俺は【神眼】を使って改めてフィストレアのステータス画面を見た。
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名前 フィストレア
………
……
…
称号:【――――】【フィエリティーゼの天敵】【死を受け継ぐ者】【災いの主】【世界の悪を背負う者】【ファンカレアに反する者】【悪神】
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
うん、確かに【ファンカレアに反する者】って言う称号があるな……ええっと、今度はこの称号に集中してもっと詳しく知りたいと思えば良いんだっけ?
そうして俺は【神眼】の効果を使い更に詳しく調べる。
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【ファンカレアに反する者】……女神ファンカレアが創造した世界――フィエリティーゼで生まれし世界の厄災になりうる存在に与えられる称号。
・フィエリティーゼで生まれた生命からの魔法攻撃を90%カット。(但し、神属性の魔力を使用した攻撃の場合は適応外。)
・フィエリティーゼで生まれた生命からの物理攻撃を90%カット。(但し、神属性の魔力を使用した攻撃の場合は適応外。)
・フィエリティーゼで生まれた生命からの即死攻撃無効。(但し、神属性の魔力を使用した攻撃の場合は適応外。)
・神属性の魔法に対する耐性が200%減少。
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おお……確かにこれはフィエリティーゼで生まれた人たちにとっては中々に厄介な称号なのかもしれない。
と言うか、称号に関しても効果とかあったんだな。
そう言えば俺って、凄い量の称号があったような……後で調べてみよう。
「どうじゃ? 中々に厄介な能力であろう? この【ファンカレアに反する者】と言う称号は魔人種となった者達には必ず付与されるのじゃ。儂がまだ世界の守護神として健在だった頃は、小さな厄災の渦からちょっと放って置くだけで魔人種が生まれてのぅ……発見し次第、直ぐに排除しに行っていたものじゃ」
「へぇ……って、待て待て! よくよく考えれば、何でフィストレアが【ファンカレアに反する者】なんて称号を持ってるんだ!?」
言われるがままに今までの話を鵜呑みにしていたが、冷静になって考えればおかしい事に気が付いた。
どうしてフィストレアは”魔神の種子”なんて言う魔人種を生み出せる代物を生成できるんだ?
どうしてフィストレアは厄災の渦から生まれると言う魔人種が持っている称号を所有しているんだ?
それに……他の称号に関しても、何やら不穏な称号ばかり存在している。
フィストレアの過去の物語を聞いていた時の事を思い出してみるが、フィストレアが元人間であり、後に世界の守護神であった事しか本人に関しての情報が無い。
世界の守護神を辞めた女神――フィストレア。
それじゃあ……今の彼女は一体どういう存在なんだ?
「フィストレア、お前は一体……」
「……そう言えばそうじゃな。儂とファンカレアの間にある大きな溝について話すがあまり、世界の守護神を辞めた後の事について詳しく説明できていなかったのぅ」
「すまんすまん」と瞳を閉じながら軽く笑みを浮かべて言ったフィストレアは、ステータス画面を消した後……ゆっくりとその瞳を開き俺へと向けた。
「ッ……!?」
「――儂はのぅ……世界の敵に、ファンカレアの敵になると決めたその日から、世界の負を背負う事に決めたのじゃ」
黄金の双眸の中心に、赤黒い十字線が刻まれたフィストレアの瞳。
その禍々しい十字線がフィストレアの存在を悪だと知らしめる様に不気味な光を放っていた。
「儂には【
【死を受け継ぐ者】。
フィストレアはその称号が示す通りに、生命の死を【死出継承】を使い受け継いできたと言う。
「不幸な死を迎えた生命の負の感情は災いの種となり……やがて厄災の象徴である魔人種を生み、魔人種が進化して魔王に、魔王が進化して邪神へとなる。儂はその厄災の素となる負の感情の全てを受け継いだのじゃ」
不気味な光を放つ十字線が刻まれた双眸で、フィストレアは変わらず俺を見つめている。
ただ、その表情はとても儚げに見えて……俺はどうしてもフィストレアのその双眸から目を離す事が出来なかった。
「世界の負を受け継ぎ、己が世界の厄災となった。元が女神であった儂は悪神へと変貌を遂げ……文字通りの世界の天敵となったのじゃ」
「……」
「これで分かったじゃろう? 儂はもう……後戻りは出来なかったのじゃ」
寂しそうに笑いながら、そう呟いたフィストレア。
その姿を見ていた俺には、フィストレアが自身の選択を後悔している様にしか見えなかった。
もしかしたら、フィストレアが言っていた愚痴と言うのは……もう此処から始めっているのかもしれない。
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【作者からの一言】
遅れてしまい申し訳ありません!
なんとか書き上げました……!
【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!
ご感想もお待ちしております!!
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