第380話 かつて、世界の天敵と呼ばれていた少女①
「――カカッ、どうじゃ? これがお前の聞きたかった物語の全てじゃ」
「……」
それは、フィストレアの言う通り長い長い物語だった。
ただ、確かに長い物語ではあったが、その内容のどれもが衝撃的で強く印象に残っている。
主にフィストレアの視点で語られた物語。
元はファンカレアとフィストレアの間にある大きな溝について教えて貰うつもりで聞いていた話だったが……俺が想像していた内容とは全く異なり、一つの言葉では言い表せない程に複雑なフィストレアの想いが詰まっていると思えた。
これは、どうするべきなんだろうか。
いや、俺なんかが口を出していい事ではないなんて重々承知してはいるが、それでも……過去について語るフィストレアから時々感じる寂しさや悲しさと言った感情が頭から離れなかった。
「ファンカレアに、話さなくていいのか?」
「……五万年もの間、儂はあの小娘に嘘を吐いて来たのじゃ。それにお主も見たであろう……あの小娘の儂に対する態度を」
「それはッ……それは、事情を知らないからでちゃんとフィストレアの気持ちを伝えればきっと――」
「カカッ、今更だな。本当に、今更じゃ……」
説得を試みたが、フィストレアの意思は固い。
分かってはいたんだ。
聞かせてもらった物語の中で、ファンカレアがどれだけ強く説得しようとも……揺らぐ事はあっても、最後までフィストレアの意思が変わる事は無かった。
今日、初めて話を聞いただけの俺が何を言っても無駄に終わってしまうのかもしれない。
でも、それならどうして。
どうしてお前は、そんなに悲しそうな顔をしてるんだ?
「……なんで、俺には話をしてくれたんだ?」
「まあ、最初は暇つぶしのつもりじゃった。儂は見ての通りお主の所為で指の一つも動かせぬ。カカッ、あの小娘以外にも儂が抗えぬ存在がおるとは思わなかったのぅ…………いや、じゃからかもしれぬ」
「え?」
「……のぅ。いまだけ、いまだけじゃ。儂の愚痴を聞いてはくれぬか?」
その縋るような言葉に、俺は思わず息を呑む。
フィストレアの隣に腰掛けていた俺が視線を左へと向けると、そこには相変わらずローブを纏い顔の見えないフィストレアの姿がある。
だが、動かせない筈のその小さな体は……微かに震えている様にも見えた。
「……俺で良ければ幾らでも聞くよ。それと、暴れたりしないのならその拘束も解く」
「カカッ……もう暴れたりするつもりはない。それに、仮にここで暴れ回ったとしても、お主には勝てぬだろう」
フィストレアの言葉を聞いてから、俺は漆黒の鎖をフィストレアの両手から消し去った。
漆黒の鎖がなくなった事で、フィストレアの体内に魔力が宿っていくのを感じる。流石は神格を保有している女神と言った所だろうか。無尽蔵に生み出される魔力は、神に相応しい量だと思った。
「フィストレアって女神なんだろ? 漆黒の鎖を消した後に言うのもなんだけど……俺に勝てないって事は無いんじゃないか?」
ウルギアと同等くらいの魔力量に加えて、神と呼ばれる存在には神格に宿る特別な権能が存在する。
フィストレアのそれがどんな力を宿しているのかは不明だが、神と呼ばれる存在であるフィストレアが俺より弱いと言うのは有り得るのだろうか……?
そんな疑問が浮かびフィストレアに聞いてみると、フィストレアはゆっくりとその上体を起こして両手を上へと伸ばしながら愉快そうに笑い声を上げた。
「カカカッ! 確かに儂は強いが、それはあくまでフィエリティーゼにおいてでしかない。儂はフィエリティーゼの厄災、フィエリティーゼと言う世界の敵じゃ、儂の強さはフィエリティーゼに生きる全ても生命に対して有効じゃが、それ以外の存在に関しては違う」
「んん? えっと……」
「分かりづらかったかのぅ……そうじゃな、簡単に言えば儂はフィエリティーゼで生まれた生命からの攻撃では死ねないのじゃ。当時、儂を殺す事が出来たのはファンカレアのみ。我ながら便利な肉体じゃと思ったのぅ」
ううん、そう言うスキルなのかな? それとも、神としての権能か?
ちょっと気になる。
そうだ! ステータスを見せて貰えばいいのか!
そう思った俺は早速フィストレアに【神眼】を使ってステータスを見てもいいのか聞いてみた。
しかし、俺の提案を聞いたフィストレアは唸る様な声を漏らして腕を組み始める。
何か見られたら不味い事でもあるのかな?
「ごめん、見られたくないなら別に大丈夫だから」
「ああ、すまぬ。別にそういう訳ではないがのぅ……その”すてーたす”と言うのなんじゃ? 新しいスキルなのか?」
「え……あっ、そっか! フィストレアの頃にはまだ無かったのか!」
うっかりしてた……五万年と言う桁外れな歳の差がここに来て仇となるとは……。
いつ頃からあるのかは不明だけど、ファンカレアも地球上に存在するゲームの知識を参考にしたって言ってたし、そりゃあ五万年前には無いよな……。
そうして俺はステータスと言うシステムについてフィストレアにわかり易く説明した。
「なるほどのぅ、それにしてもやはり……お主は異界の人間じゃったか」
「あー、そう言えば俺についてもあまり説明してなかったな」
「気にするな。儂らは知り合ったばかりなのじゃ、互いに無知であってもそれは致し方のない事じゃろう。道理で儂が手も足も出ない訳じゃ。いや、元々お主の力が特別なのか……? カカッ、世界は大きく進歩を遂げたのじゃな」
「ッ……」
愉快そうに笑うフィストレアの方へ顔を向けた直後、フィストレアはおもむろに頭に被せていたローブを外した。
布一枚のローブの何処に隠れていたのだろうか、赤紫色長い髪がモノクロームの世界で煌めいて揺れる。
その体格と同様に幼さが残る顔立ちではあるが、その黄金色の双眸が少女に秘められた強さを象徴するかのように輝いていた。
「顔を見せぬのは礼儀に欠けると思ってのぅ。まあ、今はこんな子供と変わらん見た目をしておるが、昔はもっと良い身体をしておった。それこそ、あの小娘のようにのぅ」
「……」
……似ている。
髪型やその色は違うけど、初めて見るフィストレアの素顔は……何処となくファンカレアに似ている様に見えた。
「これ、女の素顔を見て感想の一つもないのか?」
「えっ、あ、ああ……ごめん」
「カカッ、まあお主の顔を見れば何を思っておるのかは分かる。儂はあの小娘に創造された存在であり、神と成った際にも少しだけ手を加えられておったようじゃからのぅ……」
どうやら俺が似ていると思ってしまったのはファンカレアの思惑もあった様だ。
「でも、今更だとは思うけどフィストレアにはフィストレアの魅力があって、その……綺麗だと思う」
「カカッ、うむうむ! 儂もこの身体は気に入っておるから、そう言って貰えるのは嬉しいのぅ」
嬉しそうに笑みを浮かべるフィストレアに、俺もつられて笑みを作った。
そうしてフィストレアの素顔が見れた所で改めてステータスの確認方法を伝えてまずはフィストレアがステータスを確認できるのかを試してもらう。
ここは黒椿の創造した世界ではあるが、俺が試しにステータスを確認してみると問題なく見れたのでこの空間でもステータスの確認は出来る。
ただ問題なのは、フィストレアが五万年前からここ数日まで封印されていた存在だと言う事だ。
一応、フィエリティーゼの人達は問題なくステータスを確認できるみたいだから多分大丈夫だとは思うけど……どうなんだろう……。
ちょっとだけ不安要素があるものの、俺は見守ることしか出来ないのでフィストレアの反応を見ながら隣で待機していた。
「どれどれ、確か”ステータス”と唱えるんじゃったか?」
「頭の中でイメージするだけでも良いらしいけど、フィストレアは初めてだし口に出して見た方が良いかも」
「分かった、それでは始めるぞ? ――”ステータス”」
フィストレアがそう唱えると、フィストレアの前方にステータスが表記される板が出現した。
俺にはただの板にしか見えないが、板を呼び出した本人であるフィストレアには自身のステータスが見えている筈だ。
果たして、五万年前に封印されていたフィストレアのステータスはどんな感じなのだろうか。ちょっとだけ落ち着きなくソワソワと動いていると、そんな俺の様子を見たフィストレアは苦笑を浮かべながら声を掛けて来た。
「分かった分かった、儂だけでは分からぬ部分もあるかもしれぬからのぅ……お前も【神眼】を使って確認すればよい」
「あ、あはは……じゃあ失礼して……うぉっ!?」
呆れられてしまったが、まあ気になっているのは事実。
と言う事で、許可を貰えた俺は早速【神眼】を使ってフィストレアのステータスを確認させてもらう事にしたのだが……そのステータスがまあ色んな意味で凄かった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
名前 フィストレア
種族 神
レベル ――
状態:”ステータス低下”、”成長逆行”、”表示不可”
スキル:(表示不可)
固有スキル:【禁獣化】【精霊魔法】【精霊言語】【人化】【魔神の種子生成】(その他表示不可)
特殊スキル:【消去】【
権能:【神器(悪童の籠手)】【奈落の戦場】【魂魄定着】【スキル創造】
称号:【――――】【フィエリティーゼの天敵】【死を受け継ぐ者】【災いの主】【世界の悪を背負う者】【ファンカレアに反する者】【悪神】
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「――カカッ、確かにこれは便利ではあるのぅ。儂自身が知らぬスキルもある。例えば、【神眼】や【精神汚染耐性S】なんかは始めて見る。まあ、所々表示されておらぬ箇所もあるが……概ね間違ってはおらぬな」
「いや、流石は神様と言うか……割と自分のステータスがおかしい事になってるから驚く事は無いかなと思ってたけど、見た事が無いスキルとか称号だらけで驚いた……」
「カカカッ! ならば時間があればお主のステータスも後で見せてもらおうかのぅ。まあ、とりあえず今は儂がフィエリティーゼにおいて何故強いのかを説明させてくれ」
そのステータスの異様さに思わず開いた口が塞がらない。
そんな俺を見て愉快そうに笑うフィストレアは、ゆっくりとステータスを確認しながらフィエリティーゼにおいて何故自分が最強であるのかを説明し始めた。
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【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!
ご感想もお待ちしております!!
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