第377話 神話 ―創世から生まれし終焉 人類の先導者―






 それは、今から五万年以上も昔の話。

 儂がまだ、神に成る前にまで遡る。


 ”創世”の力を持つ女神ファンカレアが創造したこのフィエリティーゼと呼ばれる世界が丁度一億年の歳月を迎えた時……儂はフィエリティーゼ初となる人類としてファンカレアに創造された。


 ここで言う創造とは、神の子として神格を宿し産み落とされた訳では無い。神格は宿すことなく、魔力量も平均より少し高いくらい、儂の肉体の構造は間違い無く人間と変わりのないものじゃった。


 生まれたばかりではあったものの、儂の身体は既に成人と呼べる程に成長していた。

 知識に関しても、事前に肉体を創造した際にファンカレアの持つ世界の記憶と肉体の動かし方、自我の形成に必要な要素を余すことなく脳に記録されていた為、儂は直ぐに自分の立場と、目の前にいる存在が崇めるべき創造神様であると理解することが出来たのじゃ。


 正直、生きた心地がしなかった。

 今でこそ強い力を宿してはおるが、当時の儂は目の前のファンカレアの気分次第で直ぐにでも消えてしまうくらいに弱い存在だったからのぅ……目の前のファンカレアに跪き、震えることしか出来なかったわい。


 ……しかしな、そんなに怯えることは無かったのじゃ。

 儂を生み出した女神は――何とも変わり者な女神だったのだから。


 跪く儂を見て、あの小娘は何をしたと思う?


 撫でたのじゃよ。

 恐る恐る、壊れやすい物を扱うかのようにゆっくりと儂の頭に手を乗せて、そっと撫で始めたのじゃ。


 儂は最初何をされておるのか分からなかった。

 特に何かを話すでもなく、ファンカレアは数分にも渡って儂の頭を撫で続けていたのじゃ。


 そうして頭を撫で続けていた手を離したかと思えば、今度は跪いていた儂を立たせて……そっと抱きしめてくれたのじゃ。


『……これが、温もりなんですね』


 生まれたばかりの儂ではなく、儂よりも長生きをしておる筈のファンカレアがそう言ったのじゃ。


 この時の出来事は、どれだけの月日が流れようとも忘れる事が出来ぬ。


 抱きしめられている儂よりも震えていた女神ファンカレア。

 そんな彼女の姿を見て――儂は思わず手に入れたばかりの体を動かして両手をファンカレアの背中へと回していた。


 目の前に居る"創世"の力を持った女神が……何故だかとても幼く思えてしまったのじゃ。


『わ、私が……貴女様の、傍にいます』


 生まれたばかりの儂が初めて発したのは、そんな言葉だったのぅ。


 離れる事無く、震える体で儂を抱きしめ続けるファンカレアは……儂の言葉を聞いて泣いておったのじゃ。

 儂には何としても顔を見せない様に頑張ってはいたが、堪えようとして漏れ出る嗚咽や、創造された際に身に纏っていた布切れが湿っていた為、直ぐに分かったがのぅ。


 そんなファンカレアの姿を見て……不敬ではあったと思うが、儂はこの幼い心を持つ女神を守ってやりたいと思ったのじゃ。


 生まれたばかりだと言うのに母性に似た感情を抱いたのは、きっとファンカレアから沢山の知識を授かった影響だったのだろうな。


 その後、ファンカレアが満足するまで抱きしめられていた儂が解放された時、ファンカレアはようやく儂を生み出した理由について話し出した。


『――貴女の名前は、フィストレアです』


 その一言から始まり、儂は自身が生まれた意味を知ることとなる。

 儂はフィエリティーゼにおいて初の人類であり、この命が尽きるその時まで先導者として人類を導く存在にならなくてはならない。


 そうファンカレアに言われたのじゃ。


 そして始まりの人類として十人の幼子を預けられたのだ。

 男女半々で既に立って歩ける程度には成長している幼子たちは、まだ言葉を話すことは出来ずその知識も年相応で無知である。儂の事は母親だと認識しており、言い聞かせればちゃんと言うことは聞いてくれる。

 儂の使命は幼子らの成長を見守り、やがて結ばれるであろう幼子たちの子孫の誕生を見届けることじゃ。


 その過程で住居や文化の発展も少しずつではあるが促していき、未来へと繋げる。

 それが儂がファンカレアから最初に託された使命であり、儂の人生の価値でもあった。



――人生の価値を決められて不満はあったかじゃと?



 カカッ、不満などはない。

 儂はその為にファンカレアにより創造された存在であり、その使命を果たす事こそが儂の幸せだと思っておったからのぅ。

 そもそも、与えられた使命ではあったが儂は幼子たちの成長を見守るのが好きじゃった。


 子らは可愛くてのぅ……儂を『かあさま』と呼び愛してくれておった。じゃから儂もあの子らを愛することが出来たのじゃ。


 それに、【神託】を通してではあるがファンカレアも何かと助けてくれはしたからのぅ。


 世界で生き抜くにはどうしても武力が必要不可欠じゃ、幼子たちを鍛えるために最適な場所を教えてもらったり、幼子たちの住居に相応しい場所を選んでもらったりと、何かと世話になった。


 じゃから儂は、幼子たちに毎日の様に教えていたのじゃ。


『この世界を創ったのは"ファンカレア"という名の創造神であり、ファンカレア様は常に儂らを見守って居て下さる』とな。


 儂は幼子たちに祈りの作法を教え、毎晩の様に祈りの時間を作り祈らせていた。



 これが儂が――フィストレアが人類として生まれた瞬間であり、人類として生きて来た物語の大枠じゃ。



 さて……次は儂が人類として迎えた"終わり"と、新たなる"始まり"について話すとするかのぅ。









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