第376話 世界の天敵と呼ばれる少女④








 そこは空も、大地も、全てがモノクロームで表現された世界。


 今まで俺達が居た王都とは全く違い、どこまでも続く草のひとつも生えていない地面と雲ひとつ無い空。その全ての色が失われた……寂しい世界だ。




 黒椿の考えた策を実行すべく、グラファルトは【神速】を使ってローブを纏った少女の後方へ移動して、俺とグラファルトでファンカレア、ウルギア、ローブを纏った少女の三人を挟み撃ちにすることに成功した。

 

 そして三人が今にも戦い始めるといったタイミングで俺とグラファルトはそれぞれ【漆黒の略奪者】と【白銀の暴食者】を発動して、三人のを奪い喰らう為に全力で魔力を解放する。

 それと同時進行で上空に待機していたトワが神装武具である【漆黒の封剣】の能力を使って、その場に居た7人を対象として半径5m圏内のエリアを神属性の魔力で作り上げた結界によって遮断した。

 最後に黒椿が”創世”の女神としての権能を行使して俺達を結界ごと纏めて新たに創り出した世界へと転移させて完了だ。


 この色のない世界には時間という概念が存在しない為、この世界でどれだけの歳月を過ごそうともフィエリティーゼでの時間が経過していると言う事はないらしい。

 まあ、急遽創り出したこの世界は不安定な状態らしいから、時間にして数日もすれば崩壊してしまう様だ。今回の為だけの限定的な世界である。



 と、言った様な説明を……俺は目の前で大の字になって寝っ転がっているローブを纏った少女――フィストレアへとしていた。


 フィストレアが抵抗なく横になっているのには訳がある。

 大の字になり寝転がるフィストレアの両手首には現在、漆黒の魔力で作った枷がはめられており、神格から際限なく生み出される魔力を枷に込められた【漆黒の略奪者】の能力が奪い続けている状態だ。

 これにより、常に魔力欠乏症を発症しているフィストレアは体に力を込める事が出来ず、指ひとつとして動かせないのである。


 ……ちなみに、漆黒の魔力で作り出した枷はファンカレアとウルギアの二名にもはめらていて、二人は黒椿に引きずられて何処かへと消えて行きました。

 多分、今頃は黒椿からお説教をされているんだと思う。

 グラファルトはトワの遊び相手になっていて、今はモノクロームと化した世界を見に行ってしまった。


 そんな訳で、黒椿の代わりに俺がフィストレアに現在の状況を説明することになったのだ。


 というか、俺としてはフィストレアについて説明して欲しい所なんだけどな……。

 漆黒の魔力で枷を作った時に名前と神格を宿す神であることは説明されたけど、それ以外が全く分からないからこっちとしても、どう接すればいいのか分からない。


 でも、ファンカレアの雰囲気から察するにあまり良い関係ではなかったのかなと想像できる。

 黒椿に引きずられて行った時にも、青い顔でフィストレアを睨みつけて、この場に残ろうと黒椿に嘆願していたし。


 うーん……その辺の話は、フィストレアから聞くしかないかな?


「――なるほどのぅ……儂が眠りについた後に、この世界には創造神以外の神が訪れる様になったのじゃなぁ」

「いや、まあ……俺の知る限りだと、それはごく最近の出来事ではあるけどね」

「そして、その中心にはお主が居ると言うことか……カカカッ、お主はなんとも稀有な運命を、その魂に宿しておるのじゃなぁ」


 や、やっぱり第三者から見ても、俺に原因がある様に見えるのか!?

 いいや、今回の件に関しては俺は無罪を主張したい!!


「今回は違うぞ!!」

「……お主、"今回は"などと言ってしまう時点で既に自覚しているのと同義じゃぞ?」

「うっ……」


 た、確かに、フィストレアの言う通りかもしれない……。

 そう考えるとやっぱり俺が原因なのかもしれないな……頭痛くなって来た。


 ここ数年の大きな出来事を振り返ると、必ず自分の姿が思い浮かぶ。

 そうして事態の中心に必ずいる自分自身の事を考えて、俺は頭を抱えるのだった。


 そんな俺の姿を見て、フィストレアは寝転がりながらも愉快そうに笑い声を上げる。

 くそぅ、他人事だからって面白がりやがって……。


「ふぅ、全く身動きが取れないと言うのに、しっかりと笑い過ぎて腹は痛むのじゃなぁ」

「……楽しそうで何よりですよ」

「カカッ、まあそう拗ねるな。儂とて全責任がお主にあるとは思っておらぬ。今回の発端を作ったのは儂じゃし、あのウルギアとか言う女神に関しては分からぬが……小娘――ファンカレアは間違いなく儂を抹消する為にやって来たからのぅ」


 最後の方だけ少し寂しそうな顔をして、フィストレアはそう話す。


 その寂しそうな顔が印象的で、俺は何も言わずにフィストレアの右隣へと腰掛けた後、おもむろにファンカレアとの関係性について質問していた。


「ファンカレアは、どうしてお前の事を……そもそも、どうして二人は仲違いをしているんだ?」

「何故、か……そう聞かれると、中々に難しい話ではあるのぅ」

「フィストレアは、ファンカレアの事が嫌いなのか?」

「いいや、嫌いではない」


 即答だった。

 ただ、その真意については未だに分からない。

 嫌いではないとは言いつつも、その言い回しには何処か含みがある様にも思えた。


 そんな俺の感情を察したのか、フィストレアは俺の顔を見ると困ったような笑みを浮かべてその口を開く。どうやら顔に出てしまっていたらしい。


「そう怪訝そうな顔をするな。お主が想像できぬほどに、儂とあの小娘の間には色々とあったのじゃ。……いいや、今思えばあやつも必死だったのかもしれないがのぅ……それでも、儂はどうしても許せなかったのじゃ」

「もしよかったら、話してくれないか?」

「カカッ、長い話になる。それに、お主には関係のない話じゃぞ?」


 確かにそうだ。

 五万年も昔の話だし、幾らファンカレアと結婚しているからと言って関係があるなんて言えはしないだろう。


 ただ、俺はそれでも知りたかった。


 黒椿に連れて行かれたファンカレアがフィストレアを見た時のあの悲し気な表情が忘れられないから。


 そして……ファンカレアとの関係について語るフィストレアの寂し気な表情が……どうしても気になってしまったから。


「それでも、どうか教えて欲しい。フィストレアとファンカレアの二人に何があったのか」

「…………そうか」


 口元に作っていた笑みを消し、フィストレアは隣に座る俺の顔を見つめる。そんなフィストレアに応えるべく、俺もまた隣で横になるフィストレアと視線を合わせた。


 やがて、フィストレアは小さく溜息を吐くと観念したかのように「わかった」と口にする。


「仕方がないのぅ。変わり者のお主の為に……長い長い昔話をするとしよう」


 そうして、フィストレアはその瞳を閉じて過去を思い出すかの様にしばしの間沈黙を作る。


 その沈黙が終わりを迎えた時、俺は遠い遠い昔の話を耳にする。



 それは――世界をより良くする為に、守護の神から終焉の魔神へとなった少女の物語。








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 【作者からのお願い】


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