第370話 あ、これ怒られる奴だ……!!
ミナトの家を後にした俺は、グラファルトと共に中店街へと向かって早足で歩き出した。
幸いなことにミナトの家は中央地とは言えど中店街の近くに建てられていたので、そんなに時間は掛からずに済んだ。
そうして辿り着いた中店街を一周する様に見て周り、品数も品質も問題なさそうな青果店へと立ち寄って店員さんと話し込む。
今の時期の美味しい果物、食後に食べるのに最適な果物、そのままより砂糖漬けにして食べるとより美味しくなる果物なんかを聞いていき数種類くらい選んでいく。
やっぱり自分の目で見るのと、買って来て貰うのとでは違うな。
これも【家事の心得】のお陰なのか、それとも普段から料理をし続けていた事で目が肥えているのかは分からないが、少し手に持って全体を見ただけでその果物がどれくらいの品質の物なのかを把握する事が出来た。
納得のいく果物にありつけたから特に思う所は無いけど……見ただけで分かってしまうからこそ、凄く慎重になってしまう。
その結果として、果物を買うだけで1時間も経過してしまっていた。
「おい、幾らなんでも掛かり過ぎではないか? 我が隣に居ると言うのに果物なんかに現を抜かしおって」
「現を抜かすって……そもそも果物を買いに来たんだから仕方がないだろ?」
「こんなに時間が掛かるとは思ってもみなかったぞ。買い物が終わったら我と食べ歩きをする約束だったではないか! もう王宮へ向かうまで一時間もないのだぞ!?」
1時間も果物と真剣に向き合っていた所為で、一緒に来てくれていたグラファルトは心底退屈だったみたいだ。
そんなに退屈だったら一人でその辺をぶらつけばいいのではとも思ったが、多分ミラから俺の監視を頼まれていたから動きたくても動けなかったんだろう。そう思うと少しだけグラファルトに申し訳なかったなと思う。
「わかったわかった。お詫びに一店舗だけなら好きなだけ買って良いから」
「す、好きなだけか!?」
「ただし、ちゃんと王宮へ間に合う様に時間は考えろよ? 出来れば持ち帰りが出来て食べながら王宮へ向かえる物にしてくれ」
「うむ! ならば早く探しに行くぞ!」
流石に店内で食べる形にすると、グラファルトは自分の気が済むまでその場から動こうとしないからな。
幸いなことに中店街は食べ歩きが出来る食べ物が多い為、グラファルトから文句を言われる事なく……寧ろ一店舗だけとは言え好きなだけ買える事が嬉しいのか俺の手を引いて急かして来る。
この子は一体どれ程買うつもりなのだろうか?
一応ロゼに鍛錬で倒した血戦獣の死体を買い取ってもらったからお金には余裕があるけど、無限にある訳ではないからちょっと不安ではある。
「頼むから、店員さんを困らせる様な注文はしないでくれよ?」
「はっはっはっ! 売り物を買うだけなのに店の者が困る訳がないだろう!」
やんわりと注意をしたのだが、グラファルトは笑うだけで特に気にも留めていない様子で、ぐいぐいと俺の右手を引っ張り歩き出す。
もしかしたら俺は……選択を誤ったのかもしれない。
果物を探していた時とは逆で、今度はグラファルトに引かれる形で中店街を歩いて行く。
てっきりぶらぶらと周囲を見渡しながらお店を決めるのかと思っていたが、グラファルトの足取りはしっかりとしていて、周囲の人達よりも早く足を進めている。
「あれ、もしかしてもうお店を決めたのか?」
「うむ! お前が果物を選んでいる時にな、道を歩く人間たちの中の一人が持っていた肉串が気になっていたのだ!」
どうやらもうお店は決まっていたらしい。
だけど、道行く人が持っていた肉串なんて、何処に売っているのか分からないと思うのだが……そう俺が聞いてみると、グラファルトはニヤリとした笑みを浮かべて答え始めた。
「ふっ……あの肉串の匂いはばっちり記憶しているから問題ない! このまま数分程歩けば、店に辿り着くぞ!」
「そ、そうか……」
食べ物に関してはこんなにも貪欲なんだな……まあ、俺が飯抜きって言うと泣くぐらいだし元からなんだろうけど。
そんなグラファルトについて行くこと数分が過ぎ、グラファルトの足取りが少しだけ早くなった事から俺は店の近くまで来たのかなと思い始めていた。
これから支払う事になるであろうお金を考えて溜息が出そうになるが、それを堪えて足を前へと進める。
すると、突然グラファルトがその足を止めて道の途中で立ち尽くしてしまう。
「うおっ!? ど、どうした?」
前を歩いていたグラファルトが急に立ち止まってしまった事で、俺はグラファルトの小さな体にぶつかってしまい危うく倒れてしまいそうになる。
なんとか転ばずには済んだ後、急に立ち止まってしまったグラファルトが気になり声を掛けると、グラファルトは何ともいえない顔をしながらこちらへと振り返りその視線を俺から見て右側へと向けた。
グラファルトの視線の先には網の上で肉串を焼いているお店があり、そこからいい匂いが漂っていた。
こんなにいい匂いを漂わせているのだから、さぞ人気のお店なんだろうと思うかもしれないが……お店には人が並んでいる様子は無く、寧ろ道行く人たちはお店を避ける様に道を歩いていた。
どうしてそんな事になっているのか、その原因は明白で……。
「――おい、嬢ちゃん!! いい加減にしろよ!? もうウチの肉串を10本も食べてるんだぞ!? それなのに今更払う金がねぇなんて言うんじゃねぇ!!」
「――うるさいのぅ……無い物はないのじゃ、しょうがなかろう?」
と言った風に、お店の店主らしき人物とお客と思われるグラファルトと同じくらいの身長の子が言い争っているからだ。
お客である子の容姿は全体を隠すようなローブの所為で分からないが、離れた場所からでも聞こえるその声を聞く限りでは女の子だと思われる。
ただまあ、その独特な口調から察するにただの女の子という訳ではなさそうだけど……。
「なあ、グラファルト。もしかしてだけど、お前が行きたいお店って……」
「うむ……あの店だ」
「そ、そうか……別の店にするか?」
「あの店の肉串が食べたかったのだが……うむ……」
俺が他の店にすれば?と遠回しに勧めると、グラファルトはあからさまに残念そうな顔をしてそう呟いた。
うーん、俺としてもグラファルトが楽しみにしていた肉串を食べてみたいけど、あの様子だとまだまだ言い争いは止みそうにないんだよな。
「――おい、肉串をもう一つ寄越せ」
「――はっ、金を払わねぇ客に渡す訳がねぇだろうが!」
「――ちっ……こんな事なら――を使っておればよかったかのぅ。二度目はないぞ? さっさと儂の為に肉串を用意しろ」
「――こっちこそ二度目はねぇぞ!? 金を払わねぇなら騎士団にひっ捕らえて貰うからな!!」
店先での言い争いが更にヒートアップして行き、ついには店主が店の外へと出てお客である子供の前へと立ち始めた。
……ちょっとまずいかもしれないな。
グラファルトもここの肉串を食べたいって言ってたし……あんまり気乗りはしないが、仲裁を――ッ!?!?
「――仕方が無いのぅ……さっさと終わらせて――「やめろ!!」――ッ」
「あ? なんだ兄ちゃん?」
それは一瞬の事だった。
店主が子供の肩を掴もうとした直後に、子供の方から何か不気味な気配が漂い始めたのだ。
上手く言えないけど、そのまま放置していたらきっと――いや、確実に店主の命が危ないと思った。
だからこそ俺は地面を思いっきり蹴って一気に二人の間へと割って入ってしまったのだが……そうして間に入った後で、俺は気づいてしまう。
あ、これ……ミラに怒られる奴だ……!!
俺を挟む様に立つ二人は、突然現れた俺に驚いている。俺が元居た場所では、グラファルトが大きく溜息を吐いて頭を抱えている姿が見えた。
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【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!
ご感想もお待ちしております!!
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