第369話 果物を求めて、再び王都へ!






「――それじゃあ、そろそろ移動しましょうか」



 闇の月25日の午後1時過ぎ。


 そう話を切り出したのはソファから立ち上がったフィオラだった。

 俺についての事情を大体話し終わり、ミナト達からシーラネルを救い出したことに対しての感謝の言葉を受け取った後は他愛もない雑談をしていた。

 そうして気づけばお昼時を過ぎており、シーラネルのお誕生日会が開催される時刻まであと2時間を切っていたのだ。


 まあ、最悪遅れそうになったとしても”転移魔法”があるから、開催時刻の午後3時には間に合うんだけど……俺は”転移魔法”を使う事を禁じられているし、早く着いているに越した事はないからな。


「そうね、まあ変に急ぐ必要もないのだけれど、シーラネルも待っているだろうし」

「それでは、ミナト・カシワギ達も準備してきてください」

「「「「えっ!?」」」」


 フィオラに続きミラが立ち上がると、フィオラはミナト達の方へとその顔を向けてそう声を掛けた。

 すると、フィオラから声を掛けられたミナト達は揃って大きな声を上げた。


「ぼ、僕達がご一緒しても宜しいのでしょうか……?」

「わたくし達は、つい先程ご参加させて頂ける事になったので、直ぐに王宮へと迎えるのは助かりますが……」


 そう、実はミナト達の四人もシーラネルのお誕生日会へ参加することになったのだ。

 元々シーラネルとは姉妹関係にあるメルロはディルク王から参加しないかと誘われていたらしいが、初対面を果たした時に言っていた様に俺に気を使ってくれて参加を辞退していた。


 だけど、こうして折角知り合えたのと、シーラネルが喜ぶんじゃないかなと思ったので、俺から改めて参加しないかとお誘いをしたのだ。

 当然ながらメルロだけではなく、その夫であるミナトや、同じミナトの妻であるミケとミホも含まれている。


 ちなみにミホの呼び名に関してだが、『同じ転生者だけど、あなたに"さん"付けされるのは畏れ多いからやめて欲しい!』と言われて、ミナト達と同様に呼び捨てにする事になった。嬉しいような、悲しいような……。


 そんな訳で、急遽四人の参加が決まったタイミングでのフィオラからの提案。

 どうやらミナトとメルロの二人は、俺達と一緒に行くのを遠慮しているみたいだ。


 うーん、流石に敬うべき立場であるフィオラに連れて行って貰うのは気が重いのかな?

 フィオラは優しいからそこまで気にしなくてもいいと思うんだけど。


「目的地は一緒なのですから、遠慮せずとも大丈夫ですよ。私の"転移魔法"を使えば数秒で辿り着けますし、その方がメルロ第一王女も時間的ゆとりを持つことが出来るでしょう。家族と言えど、急な参加に関してディルク王に知らせない訳にはいかないでしょうからね」


 そんな風に俺が考えていると、フィオラは優しげに微笑みながら遠慮気味のミナト達へ再び声を掛ける。

 どうやらただの善意だけという訳ではなく、フィオラにはちゃんとした考えがあったらしい。


「「お気遣い、心から感謝いたします」」


 フィオラの説明を聞いた二人はそう言って深々と頭を下げた。












「――あっ!」

「どうしたのだ? 急に大声を出して」


 シーラネルのお誕生会へ参加する事が急遽決まってしまったミナト達は、俺達へ一礼すると身支度を整える為に早足で居間を後にした。

 それから俺達はミナト達の準備が終わるまで居間で待機している事にしたんだが……そこで俺はある事に気づいてしまったのだ。


「ま、まずい……王都を観光する時に買おうと思ってた食材を買うの忘れてた!!」

「あぁ、そう言えば第三王女の祝いの品はお前の手料理でと頼まれていたのだったな」

「そうなんだよ……まあ、殆どは朝のうちに作っておいたからいいけど、肝心のデザートの一つ……アイスだけは着いてから作ろうと思ってたからフレーバーに使う果物なんかは王都で買おうかと思ってて、すっかり忘れてた……」


 シーラネルへの誕生日プレゼントは正直悩んだ。

 地球でも家族以外にプレゼントを贈る機会なんてなかったから、異性の女の子にあげる物となるとお袋や妹が基準となってしまう。ただ、制空家の女性陣はプレゼントは自分で選ぶと言うタイプの人間だったので実質俺はプレゼントを選んだことが無かった。


 その為、どうするべきか本当に悩んでいたんだけど、そんな時にシーラネルから届いたのがプレゼントに関するリクエストだった。

 どうやら俺がシーラネルへの誕生日プレゼントについて悩み続けているのを見兼ねたミラが、フィオラを経由してシーラネルに何が欲しいのかを聞いておいてくれたらしい。これに関しては本当に助かった……!


 そうしてシーラネルからお願いされたのが、俺の手料理だったという訳だ。

 最初は本当にそんな物で良いのかと思ってミラ達にも相談したんだけど、誰からも否定的な意見は出ず、寧ろ賛成する人数の方が多かったのに驚きだ。


 そんな訳でプレゼントも決まり、後は作るだけとなったんだが……まさか王都の観光自体があんなに忙しない物だとは思ってもいなかった為、買う予定の果物が変えないとは思いもしなかった。


「あの、私達の家で育てている果物では駄目なんですか?」

「そうだぞ! それならばお前の亜空間にも入っておるし、味も問題ないではないか!」

「うーん……二人は食べなれているから忘れてるかもしれないけど、あれって元は地球産の果物なんだよね」

「「……あっ」」


 フィオラとグラファルトは俺の言葉を聞いて小さく声を漏らした。


 確かに二人が言う通り、我が家で育てている果物を使えば間違いなく美味しいフルーツフレーバーのアイスが完成するだろう。

 だが、二人に説明した様にあれは元々地球から持ってきてもらった果物の苗や種をこっちでリィシアが育てた物なのだ。


 一回試しにフィエリティーゼの果物と地球の果物を食べ比べてみたけど、やっぱり牛乳とかとは違って味の違いが明白だったんだよな……。


「今回のお誕生日会には俺の知らない人も居るみたいだし、なるべく不審がられる様な食べ物は控えようと思ってたんだよ。だから王都で美味しそうな果物をと思ってたんだけど……まさか立て続けにトラブルが起こるとは思ってもみなかったから」

「へぇ、あなたにしてはちゃんと他人への配慮とかを考えての事だったのね?」

「おいおい、それじゃあ普段は俺が自分勝手な奴みたいじゃないか」

「…………」

「おい、何故黙る?」


 ちょっと、ミラさん?

 普段の俺のイメージに関してちゃんとお話しましょうか?


「まあ、落ち着け。今は常闇を睨み付けている場合ではないだろう?」


 そうして俺がソファの左隣りに座るミラの事をジト目で睨み付けていると、俺の右隣りに座っていたグラファルトからそんな事を言われてしまった。

 くっ、まさかいつも自由奔放な振る舞いをしているグラファルトに止められるとは……。


 だがしかし、若干の不服はあるもののグラファルトの言っている事は正しい為、俺はミラを睨み付ける事をやめて座っていたソファから立ち上がった。


「ごめん、そういう訳だから俺は中店街に戻って買い物を済ませて来る。みんなは先に行っててく――「ちょっと待ちなさい」――え?」


 時間には余裕があったが、俺は食材選びにどれくらい時間が掛かるのか分からなかった為、早速王都へと出掛けようと歩き出したのだがミラによって呼び止められてしまった。


「どうしようかしらねぇ……あなたを一人で行かせても大丈夫かしら?」

「はい?」

「いえ、あなたって外に出すと何かと問題を引き連れて来るから……ちょっとねぇ?」


 疑う様な視線を向けるミラの言葉に俺は唯々困り果てることしか出来なかった。

 というか、ソファに座っているフィオラも強く頷いているのはなんなんだ!? 俺が一体何をしたというんだよ!?


「いやいや、偶々俺が外に出たタイミングで問題が起きてるだけだし……それに、俺自身は問題を起こしてないだろ!?」

「そうなのよねぇ……だからこそ、私も困っているのよ」


 そうしてミラは大きく溜息を吐いた後、少しの間だけ黙り込む。

 俺としては早く買い物に行きたいのだが、ミラ達の意見を無視してまで行く気にはなれなかった為、ミラの意見が出るまで大人しく待つことにした。


 そうして待つ事、数十秒後……。


「…………はぁ。凄く、凄く不安ではあるけれど……良いわ。行ってきなさい」

「ッ!! あ、ありが――「ただし!」――ッ」

「ただし、グラファルトも一緒に連れて行くのよ? もしも一人では対処できない問題が起きたとしてもこの子が居れば問題ないだろうし、あなた達は魂が繋がった状態でもあるからなるべく外に居る時は一緒に居た方が良いと思うわ」

「お、おう……」


 早口のミラにそう言われてグラファルトを見ると、グラファルトはやれやれと言った感じに肩を竦ませながらゆっくりと立ち上がった。

 なんだか監視役をつけられたみたいで釈然とはしないが、まあ買い物に行けるなら別に良いか。


「それじゃあ、行ってくる!」

「はいはい、ちゃんとシーラネルの誕生日会までには王宮へ来るのよ?」

「門番には話を通しておきますので、安心してください」


 そうして二人に見送られながら、俺はグラファルトを連れて居間を後にし、ミナトの家からも出て王都――中店街へと向かうのだった。


















 ――制空藍がグラファルト・ヴァヴィラ・ドラグニルを連れて居間を後にして数分後。

 居間へと残ったミラスティア・イル・アルヴィスは溜息を一つ吐いた後でソファへと座り直した。


「ふふふ、ランくんは嬉しそうでしたね」

「……そうね。あの子は外へ出られる事が何よりも嬉しいのかもしれないわ。今までは私達の都合で森に縛り続けていたから」


 ミラスティアがソファへと座ると、ミラスティアの右隣りに既に座り続けていたフィオラ・ウル・エルヴィスは淹れ直した紅茶をミラスティアのカップへと注ぎながら話し始める。

 そうして紅茶を飲み他愛もない会話を繰り広げながら寛いでいた二人だったが……どちらともなく揃って黙り込んでしまう。


 そして、数秒の沈黙の後に口を開いたのは、ミラスティアの方だった。


「……ねぇ、フィオラ」

「……はい、ミラスティア」

「正直、あなたはどれくらいの割合だと思う?」

「…………8:2。ですかね」

「そう……私は9:1だと思うわ」


 お互いにその意味については語らず、自分達の思う割合を答えた後……二人は揃って大きく溜息を吐いた。

 そうして、二人はこの先に起こってしまうかもしれない事態を想像して、苦い顔を浮かべてしまう。


「……お願いだから。これ以上問題を起こさないで欲しいわ」

「あはは……まあ、私達で解決できる事であるのを祈るしかありませんね……」


 そうして、二人の苦労人は今さっき王都へと向かった青年の姿を思い浮かべ……またしても大きく溜息を吐いたのだった。











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 【作者からのお願い】


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