第368話 同郷のパティシエ⑤





 何度もミラやフィオラに怒られていた俺は、何事においても報連相は大事だと言う事を理解していた。

 だからこそ、ミナト達に俺の事を説明する前に今の現状とそこに至る経緯なんかを念話でミラに報告したんだが……。


「はぁ……。あのねぇ、ちゃんと報告してくれるのは良いのだけれど、どうしてこう立て続きに問題を起こすのかしら?」

「も、申し訳ございません」

「まあ、ランくんが問題を起こした訳ではないのは私もミラスティアも十分に理解しています。だからこそ私達も困ってしまうのですが……」

「か、返す言葉もありません……」


 念話を飛ばした直後、俺の微かな魔力を辿って来たミラとフィオラが”転移魔法”を使って飛んでた。そして、俺とグラファルトはいまソファから地面へと移動させられて二人揃って正座をしている。


 フィオラが言っている様に今回の原因はグラファルトにあるので俺は厳しく叱責されなかったが、”俺が外に出ると何かしらが起こる”と言う不名誉なジンクスを植え付けられてしまった。


「というか、”転移魔法”は目立つから駄目なんじゃなかったか?」

「私達は王宮の敷地内にあるレヴィラの家に居たから、別に人目を気にする必要なないもの。流石に全員で来る必要はないと思ったから私とフィオラだけに留めたけれど……やっぱり他の子達は待機させておいて正解だったわね」


 軽く肩を竦めながらそう言うミラの視線は、ソファの前に正座している俺とグラファルトではなく……俺達よりも更に左側へと向けられていた。


「……こうやって見ると、ミラやフィオラがどれだけ敬われているのかが分かるな」


 ミラが視線を向けた方向へ俺も顔を向けて見る。

 左に視線を向ければ――そこには四人の人間が居間の出入り口である扉の前辺りで跪き祈りの姿勢をとっていた。この家の住人であるミナト、メルロ、ミケ、ミホさんの四人である。


 四人はミラとフィオラがやって来て直ぐに祈りの姿勢を作り、それからずっと俺達が話をしている間もその姿勢で待機していた。

 まあ、微かな魔力の流れを感じ取れていたから、念話で会話をしている様子ではあったけど。


「まあ、私にと言うよりはフィオラにって感じね。この国にとってフィオラは信仰の対象でもあるから」

「いえいえ、そんな……ミラスティアも私も同じ神の使徒ですから、きっとそのせいですよ」


 ミラに言われて照れてしまったのか、フィオラは少しだけ顔を赤くしてそう否定する。


 うーん、どうも俺は未だに二人の凄さを理解出来ていない気がするな。

 教えて貰って知識としては理解しているけど、実際にこの目で見ると凄く違和感を感じる。


 俺にとってはやっぱり家族で、近しい存在だからかな?

 もしくは、そう思いたいからこそ違和感を覚えているのかもしれない。

 この世界では不敬にあたる事なのかもしれないけど、俺は多分いつまでも変わらない態度で接していきたいな。








 ミラとフィオラによるお説教が終わったあと、フィオラがミナト達の前に立ち「話をしたいので、とりあえずソファへ座ってください」と言った事で、ようやくミナト達は祈りの姿勢を解いた。

 その際に一番大変だったのがミケであり、グラファルトの時と同様にガクガクと震えて祈りの姿勢を解いてからは、ミナトの背中に隠れるようにしがみついてしまっていた。


 ただ、ミナトがミケに「ここは安全だから、護衛はやめて【超感覚】も切っていいよ」と言うと、ミケの体の震えは小さくなっていきミラ達を前にしてもミナトの背に隠れるような事はしなくなった。

 どうやら今まではミナトの護衛という役目があったから【超感覚】と言う固有スキルを常時発動させていたようで、【超感覚】はオンオフが可能な固有スキルらしい。


 そうしてミケが落ち着きを取り戻した所で、四人は促されるままにソファへと腰掛け、俺達もまたミナト達と向かい合うようにソファへと座った。

 一応ここってミナト達の家なんだけどな……俺達の方が落ち着いてるし、これって心境的に逆なんじゃないか?


 そんな事を思いつつも、俺はミラに言われるがままに人数分の紅茶を用意して、真ん中に手作りのクッキーを大皿で用意して置いた。


 あ、そう言えばグラファルトへの罰は結局無しにしました。

 俺の隣でミラとフィオラにお説教されて泣きそうになっているグラファルトを見たら、なんか可哀想に思えてきてこれ以上の罰は要らないんじゃないかなって。


 ソファに座るまで意気消沈していたグラファルトそれを告げると、嬉しそうな顔をして俺に抱き着いて来た。

 まあ、ミラやフィオラには「「甘い」」と怒られてしまったが、仕方がないと思う。


 "飯を抜くをは我だけにしてくれ!"なんて言ってたけど、恐らく内心では相当我慢していたのかもしれない。グラファルトの喜びようを見てそう思った。

 だからこそ、そんなグラファルトへのお詫びも兼ねてお茶請けを手作りクッキーにしたんだけどね。


 案の定、俺の手作りだと気がついたグラファルトは美味しそうにクッキーを食べ始める。


 ぐははは、これが最後の晩餐だとも知らずに……冗談です。



 俺がグラファルトの食事を見守っている間にも、ミラとフィオラによって俺の正体とその扱いについてがミナト達へ知らされる。

 まあ、話せない内容もあるので大まかにはなってしまうが、こればっかりは仕方がない。


 今回ミナト達へ伝えたのは俺が転生者である事、俺が転生者である事はしばらくの間伏せておく事、死祀を殲滅したのが俺である事、魔竜王であるグラファルトを邪神から解放し魂の契約をしている事、そして俺が王となり新たな国を作る予定である事などを伝えた。


 ファンカレアやウルギア、それに黒椿やトワの事はどうしようかと思ったんだが、今までの話を聞いていたミナト達の反応を見てまだ話すべきじゃないかなと判断した。

 だって、四人とも開いた口が塞がらない様子だったから……。


 ちなみに、俺がミラ、アーシェ、グラファルトと婚姻の儀を済ませている事は伝えてある。もちろん、その時には四人から凝視された訳だが……やめて、俺自身が一番驚いてるから。


「というか、ミナトだって三人も奥さんがいるじゃないか」

「そ、それはそうですけど……ランさんに関しては妻にする人物の全員が大物すぎて……どういう人生を歩んで来たらそうなるのか、同じ転生者として不思議でならないですよ」

「それに関しては俺にも分からない……」


 苦笑を浮かべるミナトに、俺はそう言って苦笑で返すことしか出来なかった。

 そして、王族を妻としてお迎えしているミナトにそう言われると、自分が規格外なんだと言われているようでちょっと困惑してしまう。

 まあでも、今更後戻りも出来ないしするつもりもないからどうしようもないんだけどさ。



 そうして俺についての説明が一通り終わった所で、話題はシーラネルについてに移る。


 どうやらミナトは、フィエリティーゼへ転生して直ぐの頃にエルヴィス大国の王宮でお世話になっていたらしい。寛大なディルク王が天涯孤独のミナトを気にかけて守っていた様だ。

 ちなみに、メルロとはその時に仲良くなったのがきっかけで結婚へと至ったらしい。


 王宮でお世話になっていた事もありメルロの妹であるシーラネルとも付き合いが長く、まだ幼かったシーラネルとよく遊んでいたらしい。


「血の繋がりはないですけど、僕にとってシーラネル様は妹の様な存在です。先程メルロが言ってましたが改めて……シーラネル様を救って下さり、本当にありがとうございました」


 その両手で拳を作り、ミナトは俺に深深と頭を下げる。その姿を見れば、ミナトがどれだけシーラネルの事を大事に思っているのかを理解することが出来た。


「当時は自分のことでいっぱいいっぱいで、誰かを救ったなんて実感する暇もなかったけど……こうしてミナトやメルロに感謝される事で、俺は誰かを救うことが出来たんだなって思う。シーラネルを救うことが出来て、本当に良かったよ」


 自分の力を呪った。

 同郷である転生者達を殺した事に罪悪感を抱いた。

 グラファルトの家族である竜の亡骸を見て、何もしてやれない不甲斐なさを感じた。


 思えばこの数年は、自分という人間の弱さを知って苛まれる毎日だったと思う。

 でも、過去の因縁を断ち切り前へと進むことを決意した今は違う。


 肉体だけではなく、精神的にも成長を遂げた事で、心に大きなゆとりが出来た。


 奪うだけではなく、喰らうだけではなく、誰かを救うことの出来るこの力を俺は――心から誇りに思う。









@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@


 【作者からの一言】


 これにて”同郷のパティシエ”は終わり、次の物語へと進みます。

 次回はもしかしたら閑話を挟むかもしれませんが、もうすぐちょくちょくと登場していたあの子と出会う予定です!


 【作者からのお願い】


 ここまでお読みくださりありがとうございます!

 作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!

 ご感想もお待ちしております!!


@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る