第362話 閑話 真実に近づく 前編
――闇の月25日 午前9時過ぎ。
制空藍とその一行がエルヴィス大国の王都―ヴィオラ―に向けて”死の森”を出た頃。
白色の世界に居る創世の女神――ファンカレアは自ら創造した椅子へと座り、映し出した世界の映像の中で楽しそうに話をしている藍の姿を優しい瞳で見つめていた。
数分の間そうし続けたファンカレアだったが、そっと右手を左から右へと横に振り目の前に出現させていた映像を消し去る。
「……さて、それでは行きましょうか」
先程の優しい目つきから一変して、真面目な顔を作ったファンカレアは椅子から立ち上がり映像と同様に消し去ると、白色の世界から転移した。
そうして転移したファンカレアを待ち構えていたのは、地球の女神――カミールとそのカミールが住んでいる地球の管理層だった。
転移して来たファンカレアを確認したカミールは礼儀正しくその腰を曲げて頭を下げると、鈴の音の様な綺麗な声音でファンカレアを歓迎する。
「お待ちしていました、ファンカレア」
「こんにちは、カミール。お忙しい所に用事を頼んでしまい申し訳ありません」
カミールにそう言葉を返したファンカレアは申し訳なさそうな顔を浮かべると、カミールと同様にその腰を曲げる。
そんなファンカレアにカミールは微笑みながら首を左右に小さく振り「大丈夫です」と答えた。
「ファンカレアからお願いされた事もまた、大きく見れば地球の管理へと繋がる大切なお仕事ですから。さあ、テーブルと椅子を用意したのでこちらへ」
カミールに招かれたファンカレアは、後ろを振り向き歩き出すカミールに続く。そうして数秒も歩けばカミールが用意したと言う円盤状の木目が綺麗なテーブルと、テーブルに合わせたのであろう木製の椅子が用意されていた。
先に着いていたカミールは二脚用意されていた椅子の片方を引くとファンカレアに座る様にと促した。
ファンカレアは一言お礼を言ってから座り、対面に置かれている椅子に向かうカミールを目で追って、カミールが席に着いたタイミングで亜空間から白い箱を取り出す。
「それは何ですか?」
「今回は急なお願いに答えて頂いたので、お茶菓子は私が用意しました」
テーブルに置かれた白い箱に興味津々の様子のカミールに、ファンカレアは小さく笑みを作りながらそう説明する。そして、ゆっくりと箱の蓋になっている横面を開けると、お茶菓子が乗せられている正方形のトレーをスライドさせた。
「わあ……赤くてキラキラしてます!」
「ふふふ、こらは試作品らしいですよ? "イチゴが好きな人が居るから、食べたら感想を聞かせて欲しい"と、藍くんが言ってました」
「ッ!? ら、藍の手作りですか!? おぉ……!!」
テーブルの上にはトレーに乗せられた6号サイズのイチゴのホールケーキが置かれている。
表面中央には半分に切られて砂糖でコーティングされた赤いイチゴが満遍なく敷き詰められていて、その周囲をホイップクリームが囲んでいた。
側面もホイップクリームを使って綺麗にデコレーションされていて、さながら芸術と言っても過言では無い完成度のケーキ。
そんなケーキを見つめるカミールの目は、表面で輝くイチゴよりも輝いている様に見えて、思わずファンカレアは笑ってしまうのだった。
「こ、これを食べてもいいんですか!?」
「勿論です。以前このケーキを受け取った時にちゃんと許可を貰ってますから。ただ、後で感想を聞きたいとも言っていたので、その事は胸に留めておいてください」
「う、嬉しいです!! 藍の手作りの食べ物はどれも美味しいので……!! 勿論、感想はしっかりと紙に記録します!!」
元気に返事をするカミールを微笑ましく見ていたファンカレアは、おもむろに右の掌を上へ向けるとその両目を黄金色に輝かせる。
その次の瞬間には、ファンカレアの右手にケーキナイフが握られていた。
それは、ファンカレアが"創世"の能力で生み出した特殊な効果が付与されているケーキナイフ。その効果は"このナイフで切ったケーキは必ず切り終わるでに型崩れしない"というものだった。
念のために言っておくが、普通"創世"の力はこの様な使い方をすることは無い。
これがもし自分で創造したケーキだったならば、わざわざ自身の権能を解放してまで"絶対に崩れないケーキナイフ"なんて作らなかっただろう。権能を使わなくても、ケーキナイフくらいであれば簡単に作れるのだから。
これはファンカレアが藍の関わっているものに対してのリスペクトが高すぎるが故に起きている事態であり、藍の手で作られたケーキだからこそファンカレアはケーキナイフを”創世”の力を使って生み出したのだ。
以前までのファンカレアならこの様な奇行に出ることは無かった。ファンカレアの奇行が始まったのは、黒椿との特訓の成果で"創世"の力をある程度自由に扱えるようになってからだ。
"女神の羽衣"然り、"絶対に崩れないケーキナイフ"然り、ファンカレアは藍が関わる事に関しては惜しむことなくその力を使う。
ファンカレアにとって、藍の存在は何よりも大切にしたいものなのだ。
「それでは、早速切り分けましょう」
「はい!!」
右手に持ったケーキナイフで、ファンカレアはケーキを八等分にカットする。
ファンカレアお手製のケーキナイフはすんなりとケーキの中へと沈んでいき、カットが終わったケーキナイフには汚れが一切ついていなかった。
切り分けたケーキを小皿に移しファンカレアは小皿の一つをカミールへと渡した。
「ありがとうございます!」
「いえいえ、沢山食べて下さいね?」
「はい! あ、そうだ。先に渡しておきますね?」
ケーキを受け取ったカミールは早速フォークを使ってケーキを食べようとするが、直前でその手を止めてフォークをテーブルに置くと、右の掌を上へと向けた。
カミールがファンカレアと同様に黄金色の瞳を煌めかせると、右の掌に白く光る四角い模様が幾重にも描かれた黒い正方形のキューブが出現する。掌よりも小さなキューブが出現したのを確認したカミールがふぅっと息を吹くと、空中に浮かんでいたキューブがゆっくりと移動を始めてやがてファンカレアの目の前で停止した。
停止したキューブは白い光を更に強め、まるでスライサーに掛けられたかのように上から下に流れる形で薄い縦長の紙の束へと姿を変えていく。
白く光る縦長の紙の左側には二か所の穴が空いており、そこに黄金色の糸が入り込むと紙の束を纏める様に固く縛られた。
そうしてファンカレアの目の前には纏められた縦長の紙の束が浮かんでおり、ファンカレアがその束を掴むと、光は粒子となって霧散し表紙となる面にとある文字が浮かび上がった。
「これが、頼んでいた物なんですね?」
「はい。ちゃんとご希望通りに頼まれた人物に関しての全ての情報を掲載しておきました。私の管理する星――地球に刻まれた記録を基に作ったので、間違いは無い筈です」
「……わかりました。では、拝見させて頂きます。あ、ケーキはおかわり自由ですので、いっぱい食べて下さいね?」
「ッ!?!? あ、ありがとうございます! ……いっぱい食べて、感想をレポートにして纏めなければ……!!」
ケーキを前にしてむむむと唸るカミールを見て苦笑を浮かべたファンカレアは、瞬きを一度してから右手に持った紙の束へと視線を向ける。
それは、今から約二日前……ウルギアとの会話が終わって直ぐにファンカレアは行動に移した。
地球の管理層へと訪れて、カミールへある調査をお願いしたのだ。
「……ふぅ。これで、良くも悪くも全てが判明しますね……」
ファンカレアは真剣な眼差しで紙の束の表紙を見つめる。
そこには――”制空藍”と言う名前が書かれていた。
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【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
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ご感想もお待ちしております!!
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