第361話 王都だ!迷子だ!観光だ!③
路地裏に居た俺達はひとまず大通りへと出て周囲を見渡す。
適当に人を見つけてここが何処かを聞こうかと思ったのだが、何故かあまり人が居なかった。
いや、正確には居るんだけど……とても話し掛けづらい人達しか居ないのである。
全身を高そうな赤いドレスで着飾り日よけ用のつばの広い白い帽子をかぶった人や、毛皮だと思われる厚手のコートを羽織り、両手全ての指に大きな宝石の付いた指輪をはめているちょっと太ったちょび髭の人など、大通りに居る人間はどう見ても”お金持ち”と言った風貌の人しかいない。
もしかして、此処って中心地に近い場所だったりするのかな? それとも北側か東側だったり?
とりあえず絡まれたりしたら面倒そうだと判断したので、俺はグラファルトと相談をしてから”女神の羽衣”の能力を使って一時的に俺達の姿が見えない様にした。
グラファルトと歩いてみれば、王宮が割と近くにある事が分かった。
ついでに門番さんと同じ格好をした人を見つけたので少し影に隠れて”視認阻害”などを解除してから話し掛けると、門番さんは丁寧に今俺達が居る場所について話してくれた。
「ここは中心地と呼ばれる区画だよ。中心地には高級店が多いけど、此処は位置的には北に近い東側だから貴族様の居住区が圧倒的に多いんだ」
「なるほどな、道理で周囲が金持ちそうな奴らしか居ない訳だ」
「はははっ、お嬢ちゃん、あんまり大きな声で言わない方が良いぞ? 貴族様の耳に入ったら何を言われるか分からないからな」
そうして門番さんにおすすめのお店を教えて貰った後、俺達は門番さんと別れて再び少し影に隠れて”視認阻害”を掛けてから遠くに見える王宮を背に歩き出す。
しばらく歩いているが貴族の居住区と言うのも頷けるくらいに一つ一つの住居がでかい……。門や庭があるのが当然だし、更に豪華そうな装飾がしてある門の前にはエルヴィス大国の騎士とは違った鎧を纏っている兵士が立って居たりしていた。
うーん、確かにこんなに広々とていて豪華そうな家々が並ぶ所にお店を作っても、貴族の家の方が目立つし商売もしづらいよな。
そうして俺は周囲の家々を眺めたりして居たのだが、グラファルトはそこまで興味が無いのか俺が足を止めたりすると急かす様に手を引っ張って来る。
どうやらグラファルトにとっては門番さんに勧められたお店の方が楽しみの様だ。
「~~♪」
陽気に鼻歌を歌うグラファルトに手を引かれる事しばらく、門番さんから教えて貰った中心地から少しだけ離れた区画へやって来た。
歩いていて分かった事ではあるが、中心地……特に貴族の居住区や高級店が立ち並ぶエリアは王宮と同様に区画わけされている様だ。
王宮みたいに深い堀ではないが、幅数m程の凹みがぐるっと一周して作られており、そこには川の様に水が流れている。平たんに見えるのに水が流れている仕組みはいまいち分からないけど、水の中から微かに魔力を感じるから多分魔石を媒介とした魔道具を使っているんだと思う。
ただ、別に隔絶されている訳ではなく、水が流れる凹み部分には短めの石造りの橋が等間隔で設置されていた。
そうして石造りの橋を渡り中心地から出ると、一気に雰囲気が変わったように思える。
「おお……賑わっているな!」
思わずグラファルトが目を輝かせるのも無理はない。
石造りの橋を渡り、細い道を抜けた先の大通りには大小に関わらず並び続く様に様々なお店があった。
当然その分人の数も多く、中心地よりも賑わいを見せている。
「多分、門番さんの言っていた”中店街”って言うのはここだな」
「うむ! お店がたくさん並んでおるし、それに見ろ! 歩く人間が食い物を持っておるぞ!!」
「……そうだね」
テンション爆上がりだな……この後にシーラネルのお誕生日会があるのを忘れてないだろうか? 涎を垂らして道を歩く人達を見ているグラファルトを見てちょっと心配になる。
「分かってるとは思うけど、誕生日会でも食べるんだから程々にしておけよ?」
「うむ! 程々にな?」
「……銀貨一枚まで」
「なっ!? 少ないだろう!? せめて金貨10枚が良い!!」
「多すぎるわ!!」
両手を開いて懇願するグラファルトの願いを即刻却下した。
フィエリティーゼに来て初めて食べた暴れ牛のサンドイッチが一つ大銅貨1枚、銀貨1枚もあればその暴れ牛のサンドイッチが100個も買えるんだから、金貨なんて使う必要はない。
「もしも銀貨1枚よりも食べたら……今後三日間は手料理無しだ」
「ぐっ……」
俺の言葉にグラファルトはその顔を歪めてこっちに向けていた両手をゆっくりと下げ始める。
そして盛大な溜息を溢すと、渋々と言った感じで「わかった」と小さな声で呟いた。
「まあとりあえず銀貨1枚と制限するが、食べ過ぎなければ多少は目を瞑る。だからそんなに落ち込むな」
「そ、そうか……!」
思っていたよりも落ち込んでしまったグラファルトを見て、ついそんな事を言ってしまった。
俺の発言を聞いたグラファルトは、落ち込んだ様子から一転して花が咲いたように笑顔を作る。そんなグラファルトの笑顔を見て、俺は心から安堵した。
うん……俺はつくづくグラファルトには甘い気がする……。
「なあなあ! 時間もあまりないのだろう?」
俺が肩を少しだけ落として苦笑していると、ソワソワと落ち着きを失くしたグラファルトがそう声を掛けて来た。どうやら早く買い食いがしたいらしい。
「わかったわかった。じゃあ建物の影に隠れて”視認阻害”を解除するとしよう」
「うむ! 早く行くぞ、藍!!」
別に急ぐことは無いと思うのだが、グラファルトは嬉しそうな笑みを浮かべた後で俺の手を引き建物の影へと向かって走り出した。
そんなグラファルトにしょうがないなと思いながら俺も後に続く。
さっきまでの退屈そうな様子とは違い、嬉々として楽しんでいるグラファルトを見て……俺もまた心が躍る気持ちであった。
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【作者からのお願い】
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