第359話 王都だ!迷子だ!観光だ!①






「――なあ、流石に遅すぎないか?」

「そうだな。それに……周囲の人間の数も増えている気がする」


 グラファルトとミラ達を待ち続ける事しばらく……幾ら待てども、ミラ達は門からやって来ることはなかった。

 そしてグラファルトの言葉通り、何故か俺達の居る南門の周囲には徐々に人が集まり出していた。


「何かあったのかな? とりあえず、門の目の前まで行ってみるか?」

「うむ、状況確認は大事だからな」


 そうして俺達は一緒に南門まで歩き出そうとしたのだが……突如沸き上がった悲鳴の様な声に思わずその足を止める。

 その悲鳴はどうやら南門の向こうからしている様で、嫌な予感がした俺はグラファルトの方へと顔を向けた。すると、そこには俺の方へ顔を向けるグラファルトの姿があり、俺を見上げるグラファルトは怪訝そうな顔をしている。


 うん……俺も多分、同じような顔をしていたと思う。


「……もしかして、ミラ達か?」

「いや、うむ……可能性はあるが、騒ぎを起こすような奴らではないだろう? ”女神の羽衣”も纏っているのだ、気づかれる訳がない」

「だ、だよな……あはは……」

「ははは……」


「「……」」


 いや、不安すぎるだろ!?

 ミラ達ならうっかりミスとかありそうで滅茶苦茶心配だ……。

 言葉にはしていなかったグラファルトも心配そうに南門を見つめている。

 とりあえず、早いところ悲鳴の原因を探らないとな……。


 そう判断した俺はグラファルトの右手を引いて南門へと近づいていく。

 そして、もう少しでミラ達の姿が見えそうな場所まで辿り着いたのだが、どうやら俺達が少しだけ躊躇している間に人集りが出来ていた様で、中々前に進むことが出来無かった。


「うーん、これ以上は進めないみたいだな」

「うむ……仕方がない。周囲の人間の声に耳を澄ませ情報を集めるしかないな」


 人壁が出来ているせいで、門の外がどうなっているのか分からない。

 無理やり押し通れば勧めそうではあるが、今の俺が一般人である人々に力技を使うと上手く加減できるか分からないので憚られた。

 その為、俺もグラファルトと同じように周囲の声に耳を澄ませる事にする。


 すると、やはりどの世界でも野次馬と言うのは変わらない様で、周囲に集まっていた男女の声が各所から聞こえて来た。



「――誰か倒れているぞ?」


「――どうやら国仕えの魔法師様らしい。長い間スキルを酷使していた所為で倒れてしまったそうだ」


「――今は代わりの魔法師様が来るのを待っているんですって。魔法師様も大変なのねぇ……」


 どうやらこの騒ぎは魔法師のオーバーワークが原因らしい。


 よ、良かった……倒れた魔法師さんには申し訳ないけど、とりあえず騒ぎの原因がミラ達では無かった事に安堵した。

 

 周囲の声に耳を傾けていると、俺達の左側の人壁が急に割れ始める。そして、南門方面からこっちに向かって意識を失って倒れたと思われる白いマントの男の人が、長蛇の列の対応をしていた二人の若い門番に抱えられて運ばれていた。


「あー、そう言えば顔色悪そうだったな。白いマントの人」

「我の対応をしている時にはもう危ない感じだったな。だが、わざわざこっちが"大丈夫か?"と声を掛けてやったのだが、恐らく若い小娘に心配されたく無かったのだろう。鼻を鳴らして顔を背けていたぞ? 素直に我の忠告を聞いていれば良いものを……無様なものだな」


 ククッと面白がるように笑うグラファルトの頭に、俺は右手を軽く置いてわしわしと撫でる。


「な、なにをする!?」

「一生懸命働いていた人を笑うんじゃない」

「ふんっ、あいつが先に我を見下したのだ。我よりも年下の若造め……」


 お前からしたら殆どの人間は年下だろうに……絶対言えないけど。


 その後もグラファルトと話していると、今度は王都の中央側から南門に向かって別の白いマントを纏った魔法師と門番二人が駆け足でやって来た。


「通して下さい! 南門の入門作業を再開させます!」


 新しくやって来た門番の一人がそう叫ぶと、集まっていた人達が一気に道を開けようと左右へズレ始める。

 そうして出来上がった細い道を、三人は駆け足で進んでいき南門の方へと消えていった。


 三人が南門へと姿を消すと、騒動が気になり集まっていた人々は用が済んだと言わんばかりにバラバラに歩き出した。


 俺とグラファルトもとりあえず目的は果たせたので、もうここには用はない。


「じゃあ、俺達も戻るか」

「あぁ、そうだ――」


 グラファルトへ顔を向けて、その右手を握りながら声をかける。そしてグラファルトの返事を聞いていた……まさにその時だった。



「――あー!! そう言えば今日って"パティシエラ・ミナト"で新作のケーキが出るんじゃなかった!?」


 野次馬の中、四人グループで行動していた女性の一人が突然そう叫び出したのだ。


 "パティシエラ・ミナト"って……プリズデータ大国の噴水広場でやってたお店が、確かそんな名前だったと思う。

 フィオラの話ではエルヴィス大国では有名なお店で、国内に幾つも店舗を構えているけどそのどれもにいつも行列が出来てるとか。


 人気のお店の新作が今日発売か、本当はちょっと寄ってみようかなと思ってたけど、また並ぶのはなぁ……。


 そんな事を呑気に考えていると、何だか周囲の空気がピリつきだした気がした。


 そんな不穏な空気を感じて慌てて周囲を見渡すと、先程の女性の声を聞いていた野次馬達が鋭い視線で南門を正面にして俺達の後方……北側へと見つめ始めた。


 そして、俺達の前方にいる野次馬の集まりはゆっくりとした足取りでこっちへ歩き出す。



「……もうすぐで開店時間だな」


「新作のケーキ……絶対に食べたい!!」


「今から走って行けば、並び時間を短縮できる……!!」



 前方の集団からそんな声が聞こえてきて、俺は素早い動作でグラファルトを抱え上げた。


「ッ!?!? ど、どうしたのだ!?」


 急に抱え上げられたグラファルトが、顔を赤らめてそんな声を上げる。


 これが二人きりでもう少し落ち着いた場所だったら良かったんだけど……今はそれどころではない。

 何故ならば、俺達の前方に居る集団が今――こっちへ向かって走り出したのだから。


「逃げるぞグラファルト! ちょっとだけ我慢していてくれ! しっかり捕まっておけよ!?」

「う、うむ!?」


 状況を理解できていないグラファルトは混乱した様子ではあったがしっかりとその両腕を俺の首へと回してくれた。

 それを確認した俺は直ぐに後ろへと振り返り地面を踏み切る。


 後方の集団に追いつかれない様に、俺はグラファルトを抱えた状態で北側へと向けて走り出すのだった。








 ――だが、俺はこの時の行動を少しだけ後悔する事になる。


 もう少し機転を利かせて左右にズレるとかすれば、南門で待っているミラ達の事を少しでも思い出せていれば――俺は迷子にならないで済んだんだろうな……。









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 【作者からの一言】


 いつもお休み告知を本編を掲載しているサイトの方でしていたのですが、読者の皆様をがっかりさせてしまうのではと不安になってしまい、色々と考えた結果、おやすみ告知はTwitterでする事にしました。


 作者のTwitterは作者のマイページに掲載していますので、更新があるかどうかは作者Twitterをフォローして頂くと見やすいと思います。


 もし、以前と同じように本編を掲載しているサイトでしてもらった方が助かると言う意見がありましたら、戻しますのでいつでも言って下さいね。


 【作者からのお願い】


 ここまでお読みくださりありがとうございます!

 作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!

 ご感想もお待ちしております!!


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