第358話 門の先に広がる平和な世界







 長蛇の列をミラ達と喋りながら並んでいると、遂に俺達の番となった。


「――ん、ようやくか……全く、人が多い場所はこれだから好かんのだ」

「……それには同意する」


 待っている途中で俺の左右は順番に代わっていて、今は右にグラファルト、左にリィシアが立って居る。

 最初の方は特に文句も言っていなかった二人だったが、元々俺と一緒で人の多い場所が苦手な二人は徐々に元気をなくして行き、こうしてぼやき続ける様になっていた。


「まあ、気持ちは分からなくもないけど……ほら、前の人が居なくなったから俺達が先頭だぞ」


 肩を落としている二人の頭に手を置いて、俺は正面へと視線を向ける。


 門は常に開いているが、その左右には腰に剣を携え刃を上に向けた状態で槍を右手に握っている門番らしき人物が一人ずつ立っていた。

 そんな二人の前には三人の人物が立っており、二人は門番と同じく鎧姿で一人はザ・魔法使いと言った風なシャツとズボン、白いマントという格好だ。


 白マントの人が【看破】の持ち主なのかな?


「長い間お待たせして申し訳ございません。お次の方、ご不便をお掛けしますが団体様であってもお一人ずつよろしくお願いいたします」


 三人組の一人、俺から見て左側に立つ若い男の人がそう声を掛けて来た。門番なんて言うくらいだからもっと強気な感じで来ると思っていたので、正直この人の低姿勢な対応には驚いた。


 俺の中な存在していた屈強な門番のイメージが崩壊した瞬間である。


「一人ずつか……それじゃあ先頭に居るし俺からでいいか?」

「我はそれでいい」

「……私も二人の後でいい」


 一応左右に居た二人に聞いてみたんだが……二人とも結構参っている様だ。最近の様子からして「「次は自分だ!」」と言い争うかなも思っていたけど、そんな元気もないらしい。


 俺が関わることに関してはグラファルトより先にと常に率先して争いの火蓋を開くリィシアが、珍しく次をグラファルトに譲っていた。


 観光前に疲れ切っている二人を見て、もちろん心配はしている。


 けど……普段からこのくらい譲り合ってくれたらなと思う自分も居た。

 まあ、言っても直らないというのは分かってるから敢えて口にはしないけど。


 そうして二人に許可を貰った後で、俺は声を掛けてくれた男の人の方へと近づいて行った。


「……すみませんが、顔が見えるようにして頂けませんか?」

「あ、そっか……すみません、これでいいですか?」


 "女神の羽衣"を纏う時は、大体フードを被っていたからすっかり忘れていた。そりゃ取締りの意味合いもあるんだから、フードは外して欲しいよな。


 俺は特に反論はせず、ゆっくりとフードを頭から外した。


 ちなみに素顔なのは俺とグラファルトだけで、"六色の魔女"であるミラ達は"女神の羽衣"の能力で姿を変えている。流石にミラ達は目立つからね。

 ファンカレアの話では"女神の羽衣"を纏っている者同士でなければ変装していると気づけない仕様になっているらしいので、多分バレる事はないだろう。


 そんな訳で、俺に関してはもう隠す必要も無いので素顔のままだ。

 まあ、別に怪しい事をしに来たわけでもないし、普通にしていれば大丈夫だろう。


「……はい、問題ありません。次に犯罪歴の有無について確認します。予め言っておきますが、過去に罪を犯していたとしても神官から免罪の宣言がなされている場合はちゃんと通れますのでご安心ください」

「あ、はい」


 免罪って"罪を許す"みたいな意味だった気がする。この世界ではそれを神官っていう役職の人が決めてるのか。


 神官……どこかで……。

 うーん、多分フィオラから教えて貰ったと思うんだけどいまいち思い出せない。怒られるの覚悟で今度もう一回聞いてみるか。


「それでは、質問します。貴方は現在免罪符を発行されていない罪を、その人生に背負っていますか?」

「いいえ」

「我らを見守って下さっている創造神――ファンカレア様に誓えますか?」

「……は、はい」


 くっ、まさかここでファンカレアの名前が出てくるとは思ってもいなくて、つい動揺してワンテンポ遅れてしまった。


 疑われたかなとちょっとだけ不安になっていると、三人組の真ん中に立っていた白いマントの男の人から強い視線を向けられる。


 あ、もしかして今【看破】を使ってるのかな?


 俺の予想が正しかったのか、白いマントの男の人は俺の対応をしていた若い男の人に耳打ちし始めて、ヒソヒソ話が終わると若い男の人から「はい、問題ないと確認が取れました」と言われた。


 白いマントの男の人は若い男に耳打ちし終わると元の場所へ戻ろうとしていたのだが……なんか、足取りがフラフラしている気がする。

 よく見れば顔色も良くなさそうだし、大丈夫だろうか?


「――それでは王都へいらした目的の確認と通行税の徴収を行います。通行税はお支払いしますか? それとも税を免除できる物をお持ちでしょうか?」


 俺が白いマントの男の人を心配している間に確認作業へ進んでいく。



「あ、王都には観光目的で来ました。通行税は払います」


 慌ててそう答えた後で、俺は亜空間から銅貨を一枚取り出して若い男の人に渡した。


「……はい、確かに。それではこちらの滞在証をお渡しします。有効期限は本日を含めて三日間、期限の延長を求める場合は南門の詰所前に立つ門番にお声掛けください。それでは、良い滞在を」


 若い男の人は俺から銅貨を受け取ると、腰にぶら下げている麻袋の中へとしまい、亜空間から白い札のようなものを渡してきた。

 白い札の表面にはこっちの文字で『滞在証明札』と明記されており、その下には今日の日付とその隣に明後日の日付が書かれている。


 なんだか、テーマパークのデイチケットみたいだなと思った。


 とりあえず、これで俺は王都に入れるようになったという訳か。

 俺の対応をしてくれた若い男の人に頭を下げて、左側にズレてから前へと歩く。


 そういえば右側に居た門番さんは何も言ってこなかったな?

 なんか険しい表情で俺の事を見ていたけど、もしかして俺が怪しい行動を取ったりしないか監視する役目だったのだろうか?


 あんな風に厳しい目で見られるのは、海外旅行に行った時に受けた税関以来の緊張感だった。その反動か、今は解放感が凄い。


 俺は軽い足取りで槍を手に持つ門番さん達の元へと向かい、まだ手に持っていた白い札を見せる。すると、門番さん達は一度だけ頭を軽く下げて通る様にと促してくれた。








 門を抜けた先には、賑やかな人々の声と整備された街並みが広がっていた。


「おお、やっぱりプリズデータ大国とは違うんだな」


 まあ、エルヴィス大国の王都は円を作る様に土地を開拓したとフィオラが言ってたから違うのは当たり前なんだけど。


 エルヴィス大国の王都は確か、中央にディルク王やシーラネルが暮らしている王宮があるんだよな。

 ミラの話によれば出入口となる橋は使わない時は上げられた状態になっていて、王都と王宮の間はぐるっと一周高い塀と深い溝が出来ているらしい。溝は地上からの侵入者対策で、塀は深い溝に子供などが誤って落ちたりしない様にと言う対策なんだとか。


 そして王宮を中心として広大な土地に多くの建物が建って居る。授業で習ったが、エルヴィス大国の王都は中心地に近ければ近いほど物価が高く、中心地のほとんどは貴族の居住区になっているらしい。二番目に貴族が多いのは北側で、三番目が東側だ。

 だから基本的に高級店は中心地と北から東のエリアに多く存在していて、逆に一般の人向けのお店や宿泊所なんかは西や南に多いらしい。

 地面はレンガ調のグレータイルとなっていて、南門の周囲は人々の出入りが激しいからか建物が無くひらけた空間となっていた。


 門をくぐり抜けた俺はとりあえず邪魔にならない様に前へと進み、ひらけた空間の中心にある大きな一本の大木まで歩いて行った。

 大木の側には幾人もの人が居て、家族で大木を見上げている人、手を繋ぎ何かを話している男女、誰かを待っているのか落ち着かない様子でソワソワとしている少年など、十人十色の表情を浮かべて立って居る。


 プリズデータ大国とは違って気温も高めだからか、時期的には冬なのにみんなそこまで厚着をしてないんだな。雪が降ったりもしていないのでフードを被っている人も少ない。

 まあ、その少数派には門をくぐって直ぐにフードを被り直した俺も含まれるんだけど……。


 ほのぼのとした雰囲気の人達の中に一人、フードを被って立って居る俺……浮いてないか? 何か急に落ち着かなくなって来た。


「……やっぱりフード外そうかな?」

「――ん? フードを外すのか?」

「お?」


 ちょっと場違いな感じがしてフードを外そうと手を掛けていると、俺の正面……南門の方から誰かに声を掛けられた。

 その声に視線を向けると、そこには俺と同じようにフードを被った小さな人影が立っている。


「お前がフードを外すのなら、われも外すとするか」

「……意外と早かったな、グラファルト」


 小さな人影がフードを外すと、灰色の長い髪が揺れ動く。

 思っていたよりも早くやって来たグラファルトの姿に、俺は少しだけ驚いた。


「うむ、お前の様子を見ていたからな。それに、あの門番の若造はどうやら我の髪色を見てお前と家族関係にあると勘違いしていた様だぞ?」

「え、そうなの? まあ、間違いでは無いけど……」

「そのお陰ですんなりと通して貰えた。我としては楽に済んで良かったがな」


 満足そうににっこりと笑うグラファルトは、陽の光を浴びて見惚れてしまうくらいに綺麗だった。……まあ、割と頻繁に見惚れては居るんだけど。


「ほら、我はもうフードを外したぞ? お前はどうするんだ?」

「あ、ああ。そうだな」


 グラファルトに見惚れていると、怪訝そうな顔を作ったグラファルトにそう言われてしまった。


 俺が慌ててフードを外すと、一瞬ではあったが周囲の空気が変わったような気がする。そんな空気の変化に俺が不審がっていると、グラファルトはクスクスと笑みを溢した。


「そんなにキョロキョロするな。落ち着きが無いなぁ」

「いや、なんか周囲の空気と言うか……雰囲気が変わったような気がして」

「ん? 気のせいだろう? それよりも、他の連中が来るまでにどれくらい掛かるのだ? さっきから我は空腹なんだが」

「嘘だろ……」


 お前ついさっき亜空間からおにぎりを取り出して食ってただろ!?

 なんなら追加で俺の亜空間からも骨付き肉を一本渡したよな!?


「あんな量で我が満足できる訳が無かろう? さっさと常闇たちと合流して、出店巡りでもしたい」

「……頼むから出店の商品を食い尽くしたりはするなよ?」

「ふん、それは店側が用意している食材の量によるな」


 俺が念のために釘を刺すと、グラファルトは不敵な笑みを浮かべて腕を組みをする。……出店に謝罪する俺の姿が容易に想像できてしまうのは、もしかして女神様……ファンカレアの予言だったりするのだろうか。


 だとしたらお願いします女神様、どうかこの駄竜が店先に迷惑を掛ける様な事態だけは避ける様にしてください……!


 晴れ渡る冬の空の下、俺は不敵に笑うグラファルトの隣で天を仰ぎながらミラ達の事を待っていた。









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 【作者からの一言】


 とある創造神の女神様「ごめんなさい、藍くん……私にはどうする事も出来ません……」

 とある元精霊の女神様「藍、何事も諦めが肝心だよ……」

 とある別世界の女神様「わ、私ですか!? 私は地球の管理で忙しくて……ごめんなさい!」


 とある落星の女神様「承知しました。速やかにそこの駄竜を排除します」



 【作者からのお願い】


 ここまでお読みくださりありがとうございます!

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