第357話 王都へと続く長蛇の列






――闇の月25日。


 グラファルトのワンピース姿に見惚れていた俺は、ミラから雫の話をされて大きく溜息を溢す。

 昨日はカミールに頼んで雫の夢の中へと送ってもらい、久しぶりに雫との再会を果たした。

 お盆という時期であった事と、地球を管理する神が仲の良いカミールである事。また、今回俺が訪れるのが肉体を必要としない場所……夢の中という事もあり、特別に許可がおりて無事に雫と会えたんだ。


 俺は直接会いに行ったがミラやファンカレア、黒椿とトワ、ウルギアにグラファルトは地球の管理層から俺たちの様子を見守っていた。

 余談ではあるが、魂の共命が再び結ばれた事により、俺とグラファルトの魂は完全に一つの魂として重なり合っている。その繋がりは確たるモノへと変化しており、お陰でどれだけ離れていようとも俺達が魔力欠乏症に陥る事は無くなったのだ。


 まあ、それに気づいたのはつい最近の事なんだけどね……。


 ちょっとファンカレアに会いに行こうと思って自室から一人で白色の世界に転移した事があった。

 転移の途中で前にグラファルトを置いていった結果、魔力欠乏症になった事を思い出して肝を冷やしたんだけど、いざ白色の世界に着いてみれば……特に体に異常は無かった。

 それでファンカレアに調べてもらって、俺とグラファルトの魂が以前よりも固く結ばれている事が判明したのだ。


 その事実を知ったグラファルトはそれはそれは大層喜んでいた。

 まあ、俺が勝手に一人で白色の世界へ向かっていた事を知った時は凄い剣幕で怒鳴りつけてきたけど……よっぽど魔力欠乏症の症状が辛かったんだろうな。


 閑話休題。


 とにかく、無事に雫と再会できた俺は、途中で"インフィニティお兄ちゃん"などという俺の等身大パネルを駆除しなくてはいけなかったり、国王になる事を話したことによりフィエリティーゼでの俺の人生を雫に洗いざらい話すことになってしまったり……紆余曲折を繰り返しながらも、何とか雫を迎えに行ける日常について話すことが出来た。


 二か月も待たせてしまうから、もっとごねられるかと思ったが、雫は思いのほかあっさりと了承してくれた。その理由についてはまあ……何となくだけど察している。後は俺が雫の気持ちをどう受け止めるのか、それ次第だということも。


 素直に言うことを聞いてくれたことに関しては感謝しなければいけないが……先の苦労が目に見えている様で未来を考えるのが億劫なんだよなぁ……。


「……はぁ」

「あら、また溜息」

「……もう数えるのをやめた」


 俺が溜息を吐くと、隣を歩くミラとリィシアがそんな事を言ってきた。


「ちょっと、もう溜息を吐くのはやめなさい? 折角の王都観光が台無しになるわよ」

「分かってる、分かってるよ」

「……本当かしらね?」


 疑った様子で俺の事を見つめてくるミラに、俺は右手を軽く上げてプラプラと振って見せた。すると、ミラはやれやれと言った風に肩を竦めて前へと顔を向ける。

 ミラに合わせるように俺も顔を前へと向けると……そこには、俺の思考を加速させる要因となる光景が広がっていた。


「うわあ……まだまだ入れるのに時間が掛かりそうだな」


 現在、俺達が居るのは"死の森"から転移した場所であるエルヴィス大国の王都前……王都へ入る為に用意された四箇所の入口の一つだ。

 エルヴィス大国の王都に入る門は北側にある王族並びその関係者専用門、東にある貴族専用門、西にある商人専用門、南にある一般客専用門の四つに分けられており、俺達が居るのは南……つまりは一般客専用門になる。


 何故、南にある門を使っているのかと言えば……それはあまり目立ちたくないから。


 まだシーラネルのお誕生日会まで時間がある為、折角だからとみんなで王都の観光をする事になった。

 ただ、出来るだけ目立たずに行動したいと言う思いから北と東の門は通らず、商人でもないので西の門も通れない。その為、消去法で残された南の門から入ることになったのだが……俺達はすっかり失念していた。


「そう言えば、闇の月の25日まででしたね……シーラネル王女の生誕祭は」

「あはは……シーラネルちゃんのお誕生日は過ぎてるけど、王女様だから生誕祭があるってすっかり忘れてたね」

「僕も忘れてたよ。確かエルヴィス大国って生誕祭の時期になると各所から商人や観光客が訪れて来るんだよね?」

「ええ、レヴィラが一年の間に何度も生誕祭があるから大変だとボヤいていた気がします」


 フィオラ、アーシェ、ライナの三人がそんな会話を繰り広げている間にも、ちょっとずつではあるが南の門へと続く長蛇の列が前へと進んでいた。


「それにしても、なんでこんなに混むんだ? 南の門って一般客専用門なんだろ?」


 ただ門を通るだけでこんなに混む訳がないし……門の前で何かやってるのかな?


 そんな疑問を浮かべていると、俺の背後に立つフィオラが丁寧に説明してくれた。


「実は、元々南門は混みやすい傾向にあったんですよ。北門と東門は貴族や王族ということもあり、粗相のない様にベテランの門番が就く事になっています。それに対して南門は、一般客が主であると言うこともあり新人の門番が研修も兼ねて就いているんです」

「門番の人って、基本的には何をするんだ?」

「南門に関しては、主に犯罪歴の有無の確認と通行税の支払いですね。犯罪歴については【看破】のスキルを持つ国仕えの者の誰かが行う筈ですので、門番は手順の説明を行います。通行税は一律で銅貨一枚、10未満の子供や何かしらの役職に就いている場合は、その身分を証明することが出来るのなら通行税は免除されます。門番は通行税の徴収と王都へ訪れた理由の確認作業ですね。確認作業も口頭でなので、特に堅苦しいものではありませんよ」

「なるほど……」


 銅貨一枚……つまり100円か。うん、別に高い訳じゃないし、免除も出来るみたいだから国としてもそこまで気にしていない感じかな?


 俺達はいま全員"女神の羽衣"を纏っているから怪しまれたりしたらどうしようかと思ったが、話を聞く限りだと【看破】にさえ引っ掛からなければ大丈夫そうだな。


「なんか、結構すんなり誰でも入れそうな気がするけど……大丈夫なのか?」

「ええ、大丈夫ですよ。一応新人だけではなくベテランの門番も立ち会っていますし、王都へ来た理由についての確認作業を行っている時も【看破】の使える者が立ち会いますから。それに今日は生誕祭の最終日ですからね。仮に問題が起きたとしても、王都にはエルヴィス大国の剣である"栄光騎士団"も王都を巡回していますから、直ぐに鎮圧出来る体制は整えていますよ」


 "栄光騎士団"って……確かプリズデータ大国に居たアリンさんが所属している騎士団だっけ?

 確かにアリンさんが所属している騎士団が巡回しているなら、そこまで心配する必要はなさそうだな。


 そう判断した俺は丁寧に教えてくれたフィオラにお礼を言って、再び前方に続いている長蛇の列へと意識を向けた。


 あとどれくらいだろうか?

 一時間は掛からなさそうだけど……転移しちゃダメかな?


 待ち時間というのは退屈以外の何物でもない。本当であればさっさと転移して中に入りたいけど、ミラから目立つ行動は控えるようにと言われたばかりなんだよな。


 俺や俺の周囲の人たちが平然と使っているから知らなかったけど、"転移魔法"は非常に目立つ魔法らしい。

 特に王宮や王都と言った転移阻害の結界が張られている場所への転移は時に問題視される事もあるそうだ。


『楽しく王都の観光をしたいのなら、あなたは魔法を使うのを控えなさい』


 出発前にそんなことを言われてしまった手前、転移したい衝動に駆られるがなんとかそれを抑えていた。


 そうだよな……"死の森"から転移した時もエルヴィス大国の近くで人気のない場所を探して転移したくらいだし、その苦労を俺一人のわがままで台無しにする訳にはいかない。


 ミラ達も特に文句も言わずに並んでいる訳だし、ここは俺も我慢しよう。


 そうして、今日一番の楽をしたいと言う衝動を抑え込むことに成功した俺は、大人しくミラ達と一緒に長蛇の列に並んで待機していた。


 ……こうしていると、地球で生活していた頃に一度だけ雫に懇願されてついて行ったテーマパークを思い出す。


 ああ……またしても俺は、雫の事を思い出してしまった。






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