第353話 悩みの種(身内)③









『――ねぇ、雫。もうお酒は止めておいたら?』


 上空のモニターには、懐かしいお袋の姿が映し出されていた。その手には二つのコップが握られていて、中身はどうやら水の様だ。

 それにしてもお袋は全然変わらないなぁ……何も知らなかったら二十代と言われても簡単に信じてしまうかもしれない。これもミラの血を引いている遺伝の様なものなのだろうか?


 お袋はリビングに置かれたテーブルにコップを二つ置くと、手前のソファへと腰掛けた。


 そして――そんなお袋の正面には、ソファを背もたれ代わりにして床に腰掛ける人物の姿がある。

 腰まで伸びた黒い髪、整った顔立ちで少しだけ大人びてはいるが……間違いなく雫だ。


 高校生の時から綺麗だったけど、増々に綺麗になった気がする……こんなに綺麗なら、雫の事を好きな人とか居るんじゃないか? そう言った話があってもおかしくはないだろう。


 少しだけ大人びた雰囲気の雫は、テーブルに右肘をついて頬杖をしている。そして左手に瓶の様な何かを持って――あれ?


 もしかしなくてもあれ……ワインボトルじゃないか!?


『……お酒を飲まないとやってられないの!! 私はもう高校卒業したのに……どうしてお兄ちゃんの所に行けないの!?』

『私に言われても知らないわよ……』


 顔を赤くした雫の言葉に、お袋は困り顔で右手を頬へ添えていた。


『大体ねぇ……お兄ちゃんは絶対忘れてると思うの……ミラスティアさんに関しても多分そう……絶対そうだわ……そうとしか考えられない……私の事なんか忘れて、向こうで新しい女ときゃっきゃっうふふしてるのよ……』

『……』

「ぷっ……あははは!! 藍、お前の妹は凄いな! ほぼ当たっているではないか!!」


 ハイライトの消えた瞳で虚空を見つめる雫が映し出されたモニターを見て、グラファルトが大声を上げて笑い始める。


 ぐっ……い、言い返せない……思い当たる節があり過ぎる。

 でも、雫を完全に忘れていた訳じゃないぞ!?


『ほ、ほら! 藍は忙しくて、連絡が遅れているだけかもしれないわよ?』

『忙しくてもお手紙くらいくれてもいいじゃん!! ミラスティアさんは直ぐに返って来れるんでしょ? お手紙くれる時間くらい……ハッ!? ま、まさか……ミラスティアさんとお兄ちゃんは――もうデキているんじゃ!?』

「「………」」

「あははははははは!! ひーお腹が……お腹がァ……!!」


 俺とミラが雫の直観力に引いていると、グラファルトは更に声を上げて大笑いしている。


 くっそぅ……雫と再会したら真っ先にお前を妻として紹介してやるからな!! 地獄を見せてやろう!!


 結局その後も雫はお酒を飲む手を止める事無く、酔えば酔う程ネガティブな発言を繰り返し続けていた。そんな雫の愚痴にお袋は慣れた様子で付き合い続けて、途中から仕事帰りだと思われる親父も参加し、三人でテーブルを挟んで話し込んでいた。



――数年前までは、俺もあそこに居たんだよな。

 


 寂しくはないが、残念ではある。

 俺はもう、モニターの先に映る我が家には行けないんだろうから。



 そうして、雫が酔い潰れた所でモニターに映る映像は消えて黒い画面へと戻る。


「えっと、こんな感じなので……早めにお迎えに行ってあげた方が良いと思うんです。現在の地球は8月15日のお盆、妹様がお酒を飲み始めたのが誕生日の翌日からですので、もうかれこれ二週間は酔いつぶれるまで飲み続けている現状です。今の所お身体に異常は見られませんが、このままお酒を飲み続ける生活が続くと分かりませんので」

「妹がご迷惑をお掛けして申し訳ございません……」


 雫の心配をしてくれているカミールに、俺は座った状態で深々と頭を下げた。


「いえいえ、これも私の仕事の一環ですので……それで、お迎えする日時に関しては先程仰っていた様に創世の月に入ってから――地球の月日で換算して約二か月後と言う事で良いのですか?」

「一応そのつもりだったんだけど……流石に連絡もなしで二か月も放置するのは心配だな」

「……そうね、ちょっとでも良いから連絡は入れておいた方が良いかもしれないわ。でも、今の雫に私が何か言っても信用してもらえるか微妙な所よね」

「うーん…………あっ、そうだ」


 とりあえず、創世の月に入ってから雫を迎えに行くことは決まった。

 ただ、いまの状態の雫を何も言わずに放置するのは躊躇われる。


 ミラが行って説得すれば良いのだが、いま地球へ行ってしまうとフィエリティーゼへ帰って来れるのが数日後になり、シーラネルのお誕生日会に間に合わない可能性があった。

 シーラネルはミラの大ファンらしいので、ミラが来れなくなったなんて知ったらショックを受けてしまうかもしれない。折角のお誕生日会でそんな思いをさせたくはなかった。


 なので、俺は駄目元である提案をカミールへとしてみる。

 本当に駄目元で、断られる可能性の方が高い内容だと思っていたが、俺の話を聞き終えたカミールは「……惑星への影響を考えるとそこまで時間は掛けられませんが、可能です」と言う答えが返って来た。


 その答えを聞いて、俺は駄目元であった作戦を決行する事にする。





 現在の地球はお盆だ。

 死んだ人間が夢に現れたって、別に不思議な話ではない。






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