第352話 悩みの種(身内)②
「――それじゃあ改めて確認するけど……雫は今何歳なんだ?」
カミールから聞かされた話に驚きを隠せないで居た俺は、かなり動揺してしまった。
それこそ、カミールの両肩を掴んで迫るくらいに。
そんな俺をみんなが抑えて、俺が落ち着きを取り戻したタイミングでとりあえず場所を変えたいと言うカミールの指示に従って、俺達はいまカミールが地球を監視している管理層へと来ていた。
カミールは以前よりも女神としての肉体に慣れてきているのかテキパキとした動作で円卓のテーブルとティーセットを用意すると、紅茶とお茶菓子としてイチゴのケーキを用意して俺達をおもてなしするくらいの余裕が出来ていた。
ミラやファンカレア、黒椿がその事を褒めていてカミールの満更でもない様子だ。
俺としても立派になったなぁと思うし手放しに誉めたい気持ちはあるんだが……それよりも、妹の実情が気になり過ぎて落ち着かない。
「そもそも、どうして雫がお酒を飲める年齢に!? あいつ、俺が死んだ当時はまだ16歳になったばかりだったぞ!? と言うか、雫は本当に大丈夫なのか!? 前回の件があるから心配なんだけど……あ、親父とお袋は一体何を――「やかましい!!」――がふっ」
「ちょっとは落ち着かんか、馬鹿者!」
カミールに雫の詳細を聞こうとしたら、右隣りに座っていたグラファルトにげんこつを喰らった……脳が揺れる……。
「な、なにすんだよ……頭が……」
「全く……お前の妹を見守って居たカミールが落ち着いておるのだから、今はまだ問題がないと言う事くらい分かるだろう! 見てみろ、お前が早口で捲し立てるから、カミールが怯えておるではないか!!」
グラファルトに一喝されて視線を前へ向けると、正面左側に座るファンカレアの背後に怯えた様子で隠れるカミールの姿があった。
カミールを背にしているファンカレアも苦笑を浮かべており、周囲を見渡せば目を伏せて紅茶を飲んでいるウルギアと黒椿の膝の上に座るトワ以外の二人が呆れた様な顔をしていた。
「ママー見えないよー」
「……見なくて良いの。いまのパパはパパじゃないから」
酷い言われようだ……無我夢中で気が付かなかったけど、そんなに怖い顔をしていたのか?
「ご、ごめん……ただ、雫の事が心配で……早く詳細を知りたかったんだ」
「気持ちは分かるけれど、カミールだってそれを話す為に私達を呼んだんだろうからまずは落ち着きなさい」
「はい……」
ミラに窘められた事で、俺はカミールへと改めて謝罪をした。
カミールは「少し驚いただけですから」と俺の事を許してくれて、俺が凄く心配している事を察してくれたのか、雫の話をしてくれた。
「えっと、それでは順を追って……とりあえずは、藍から言われた質問に返答させて貰います。まずは妹様――と言うより地球の年月経過についてですが、これは私のミスです」
「それは、どういう……?」
「違います、あれはカミールだけの責任ではありません! 私の責任でもあるんです……」
「ファンカレア?」
カミールが申し訳なさそうに告げた後、直ぐにファンカレアが割って入って来た。そんな二人の様子に俺はついて行けず首を傾げるばかりだったが、直ぐにカミールが説明してくれた。
「藍は、現在私が管理している地球とファンカレアの管理するフィエリティーゼの時差については御存じですか?」
「……あ、そう言えばミラからそんな話を聞いた気がする。確かここ数年で差が縮まったとか」
「そうです。以前までは地球で一年経過するとフィエリティーゼでは五年もの歳月が流れていました。このままではミラスティアが地球へ戻るのに苦労するのではと考えて、私とファンカレアで時間軸の調整をしていたんですが……」
そこからカミールは言いにくそうにしながらもゆっくりと説明してくれた。何やら難しい内容で、いまいち理解に苦しむ話だったのだがファンカレアとミラのサポートもあって何となくだけど事情が分かってきた。
分かりやすく纏めると、時間軸軸の調整中に小さな事故があったらしい。
当時はまだまだ生まれたばかりだったカミールと、力の制御が曖昧だったファンカレアは時間軸の調整に難航し地球の時間の流れがズレてしまったのだとか。
その結果、一時的にフィエリティーゼから見た地球の時間は加速……慌てて修正をしたものの過ぎた時間を巻き戻すことも出来ず一年が経過してしまっていた後だったらしい。
その星で住む者にとっては特に気にしなくても良い事みたいなんだけど、双方の世界観を合わせて見るとかなりズレてしまっていたようだ。
……ちなみにこの辺りの内容はもっと細かく教えてもらったけど、正直何を言っているのか全然分からなかった。
「えーっと……つまり、その事故の結果が雫の年齢であると?」
「藍がフィエリティーゼで暮らして約三年と二月、時差の調整自体は早い段階で行いましたので本来であれば妹様は19歳の筈でしたが、先程の事故のせいで一年程経過してしまっているので20歳に……」
「あぁ、それで雫はお酒を飲めるのか」
これで俺の中にある違和感が解消された。そうか……もう雫は成人なのか……感慨深い。
世界間の難しい話が混じっていたものの、俺は雫の事が少しでも知れて嬉しかった。
離れていても、かけがえのない妹。
特に雫に関してはずっとそばに居てくれて仲が良かったからか、雫に関する話を聞けるだけで……ちゃんと生きていると知れるだけで安心できた。
「……雫は生きてるんだな」
「はい。前回の一件があってから一応こちらでも警戒していましたが、自ら命を絶つ様な真似はもうしていません。藍が生きている、また再会できると言う事実が彼女を元気にしたみたいですね」
「そっか……あいつは、そんなに俺との再会を楽しみに……」
「――そしてお前は、そんな妹の事を忘れていた訳だな」
「うっ……」
グラファルト……人が感動に浸っている時に、言葉のボディーブローをかましてくるのはやめてくれませんかね!?
俺の反応を見たグラファルトは楽しげに笑うと直ぐに「冗談だ」と言ってイチゴのケーキを一口で食べてしまった。
「まあ、元はと言えば妹が高校とか言う場所を出てからの話だったのだろう? 藍は藍で修行やら呪われた魂の件やらで忙しかったのも事実だ」
「そうね……結果としてはこれで良かったのかもしれないわ。今の藍は新国の王様だし、守れるだけの力もあるのだから」
確かに……出来れば雫には安心して過ごして欲しい。俺みたいに数年を森だけで過ごすなんてして欲しくないからな。
「それじゃあどうする? もう妹ちゃんを連れて行くの?」
「でも、これからどんどん忙しくなるぞ? それに明日からエルヴィスに行かないといけないし」
「あ、それもそうだね……むむむぅ」
考え込む黒椿をみながらも、俺はもう一度考えてみる。今すぐに連れて行ってあげたいとは思うけど、いきなりエルヴィスに連れて行くのもなぁ……。
「うーん、とりあえずは年明け――創世の月になってからかな。カミール、とりあえずそれまでは何とかなりそうかな?」
シーラネルのお誕生日会、アルス村への訪問、建国する場所の決定と開拓作業。闇の月と終滅の月は上記の内容で各自に潰れると思う。俺個人の王としての教養期間も設けなくちゃいけないらしいからなぁ。
なので、余裕が出来そうな来年からと思ったのだが……カミールは何とも言えない様な顔をしていた。
「……正直何とも言えません。えっと、見てみますか?」
「え、何を?」
「妹様のご様子です」
そう話すと、カミールは俺よりも少しだけ座面が高く設定された椅子に座りながら両手を円卓の上空へと翳した。
そうして黄金色の瞳を少しの間だけ光らせると、両手に黄金色の魔力を集めて解放する。
カミールから開放された黄金色の魔力は次第に長方形を作り出し、表面が黒色へ変わり始めたそれは……紛れもなく大画面のモニターのように見えた。
やがてカミールが両手を下ろし右手で指を鳴らすと、まるでテレビがつくように黒色だった画面に白い光が走る。
そして空中に浮かんでいたモニターを見続けていたのだが……。
『お兄ちゃんの……………………バカァァァァ!!!!』
懐かしく思える地球の実家のリビングで、テーブルにガラスのコップの底を叩きつける雫が映り、唐突にそう叫んだのだった。
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【作者からの一言】
ちなみにお酒に関して雫はお母さん似で、藍はお父さん似。
藍のお父さんは全く酔わない人で、お母さんは普通に酔う人です。
【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!
ご感想もお待ちしております!!
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