第二部 創世から生まれし終焉
第350話 序章 出発前の憂鬱
――闇の月25日の午前9時頃。
”死の森”の中央にある我が家の玄関を開き外に出る。
少し歩けば円卓の置かれた中央広場へと辿り着き、照らす太陽の光によって円卓の周囲に咲き誇る花々は光り輝いていた。
しかし、花々も美しく咲き誇る程の晴れ渡った天気の中……俺の心は憂鬱としている。
「……はぁ」
「――いつまでも溜め息を吐いてないで、シャキッとしなさい……まあ、気持ちは分かるけどね」
天を見上げながら溜息を吐いていた俺の隣にやって来たのは――いつも通りのドレスを着ているミラだった。俺に対して喝を入れる様な言動をしてはいるが、横目に見たミラの表情は困った様な、疲れている様な顔をしている。
それもそうだろう。
ミラは昨日――俺と一緒に神界へと向かったのだから。
「だけど、せめて今日だけは気持ちを切り替えなさい。第三王女様のお誕生日のお祝いに行くんだから」
「……それもそうだな。みんなが来るまでに――って言ってたらみんな来たみたいだ」
ミラの言う通り、溜め息を吐いた状態でお祝いなんて出来ないし失礼極まりない行為だ。シーラネルもどうやら楽しみにしていてくれている様だし、ここはちゃんと切り替えないとな。
「お待たせ〜!」
俺とミラが我が家の方へと視線を向けると普段通りの服装をしたアーシェがこっちに向かって手を振りながら駆け寄ってくるところだった。その後方にはフィオラ、ロゼ、ライナにリィシアの姿もありそれぞれいつも通りの服装だ。
ちなみに言うと、俺はプリズデータ大国の時と同様に黒の軍服風の衣装を身に纏っている。知り合いではあるけど、王女様と会うわけだからラフな格好では駄目だなと判断したのだ。
アーシェに続いてみんなが集まって来たが……そこには、グラファルトの姿がなかった。
今回のエルヴィス大国の王宮に向かうのは俺、ミラ達"六色の魔女"、そしてグラファルトと言うことになっている。黒椿、トワ、ウルギアに関しては俺の中でお留守番だ。
……あれ?
今気づいたけど、三人は俺の中から外の世界を見れる訳だから、実質的にはお留守番では無いのか……? うーん、ちょっとややこしい。
まあ兎に角、シーラネルと面識の無い三人に関しては建国してからでも良いのでは?となったのだ。
三人の方もシーラネルに関してはあまり興味を示していないようで、どちらかと言えば向かう地であるエルヴィス大国の方が気になっているみたい。俺の中から堪能させてもらうと黒椿がにっこりとした笑みを浮かべて今朝言っていた。
「それで……グラファルトは?」
「え?」
「いや、なんでアーシェが驚いた顔をしているんだ? 一緒に来たんじゃないのか?」
我が家から一番に家を出たのは俺だ。その後にミラがやって来て、次にアーシェ達となる。グラファルトが来ているとしたら気づかないわけが無いし、てっきりアーシェ達と一緒に来ると思ったからグラファルトが居ないことにこっちが驚いたくらいだ。
俺が首を傾げていると、後方を見渡したアーシェが頬を膨らませながら再び俺の方へと顔を向けて「むぅ、ちょっと待ってて!」と声を上げた。
そしてアーシェは早足で玄関の方へと向かうと、扉を開けた状態で何かを叫び始める。だが、その叫び声はアーシェだけのものではなく……少し遠いので微かにではあるが、グラファルトの声も混じっていた。
「――う! みんな待って――!!」
「アーシェ――だろう!?」
「――ぶだから!!」
そんな微かに聞こえないやり取りを繰り返して数分、満面の笑みを浮かべたアーシェに手を引かれてグラファルトがやって来たのだが……顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。
しかし、グラファルトが恥ずかしがっている理由はすぐに分かる。なぜなら、グラファルトは今……白いワンピースを身に纏っているからだ。
「改めて、お待たせー!」
「…………」
「お、おぉ……」
俺の目の前にやって来たアーシェに戸惑いながら返事を返すが、俺の視線はグラファルトに釘付けだった。
ヒラヒラのスカートだ。しかも肩紐ワンピースタイプ。足元は少しだけ踵が高めのサンダルにしたのか。うん、ちょっと季節を考えると寒そうではあるが、よく似合っている。
いつもパンツスタイルの姿しか見てこなかったので、お淑やかで可愛らしい雰囲気を纏うその姿に思わず見蕩れてしまっていた。
「むぅ……ランくん、グラちゃんの事を見過ぎじゃないかな!?」
「〜〜ッ!?!?」
「ご、ごめん!」
アーシェから注意されて、俺はグラファルトを見過ぎたと慌てて視線を逸らす。逸らす寸前に、グラファルトの顔が更に赤くなっていた気がしたが……逸らした手前見返す事もはばかられるので確認ができなかった。
と、とりあえず謝らないと。
「ほ、本当にごめん。グラファルトのそう言う姿は新鮮だったからつい……その、よく似合ってると思う」
「ッ……そ、そうか? ま、まあ、お前にそう言ってもらえるのはその……嬉しいな」
「「……」」
あー……きっと今、顔が赤くなってるんだろうなぁ……俺もグラファルトも。
こういう甘酸っぱい雰囲気の時は、大抵二人揃って赤くなっている。お互いをよく知っているからこそ、目を合わせていなくても何となくわかってしまうのだ。
「むぅ……わたしも思い切ってドレスにすれば良かったかなぁ……」
「…………お兄ちゃん、鼻の下伸びてる」
そうして顔の熱が冷めるのを待っているとアーシェとリィシアの不満そうな声が聞こえてきた。
うーん、確かにアーシェのドレス姿も見てみたいとは思う。それとリィシア、確かに伸びているかもしれないけど今だけは許してくれ。目の前で奥さんが似合う格好をしていたら、鼻の下くらい伸びるって……。
「――こんな姿を見たら、雫はなんて言うかしらねぇ……」
不満げな二人とは別に、隣からそんな声が聞こえてきた。
うっ……やめてよミラ……せっかく今日だけは昨日の出来事を忘れようと思ってたのに……。
先程まで興奮冷めやらぬ状態であった俺の心が、一気に冷めていくのがわかった。
それくらいまでに昨日――闇の月24日の出来事は俺を疲れさせていたのだ、
いや、だって……俺にも悪い所はあったかもしれないけど、まさか地球で待っている雫があんな感じになっているとは思ってもみなかったのだ。
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【作者からの一言】
という訳で新章開幕です!
今回の舞台はエルヴィス大国、王都観光なんかもしていく予定ですので、是非お楽しみに!
【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!
ご感想もお待ちしております!!
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