第348話 幕間 穢れた狐、”古の王”を呼び覚ます。前編





――フィエリティーゼの北部に存在する洞窟。


 その洞窟の周囲には精霊が常に集まり、遥か昔から結界を張り続けている。

 精霊達はその場所から離れようとはせず、近づいて来る生命を迷い惑わせ追い返す。精霊達が存在する限り洞窟へと近づけるのは、創造神であるファンカレアとその使徒である”六色の魔女”だけだった。


――しかし、それは今日までの話である。


 闇の月23日の夜。


 ファンカレアが精霊達に頼み守り続けてもらっていた洞窟に、近づく一人の獣人がいた。


「あはっ……あはははっ……あははははははは!!」


 その獣人はまるで狂っているかのように高々と笑い声を上げて洞窟へ向けて歩き続ける。

 いや、まるでではなく……正真正銘、狂ってしまっていたのだ。


「……ヴィリアティリアにも帰れない……ラヴァールにも入れて貰えない。わたくしは全員に見捨てられたんですねぇ……この忌々しい呪いのせいでぇえぇえ!!!!」


――クォン・ノルジュ・ヴィリアティリア。


 己の欲を満たす為に裏から世界を混乱の渦へと陥れようとした人物の一人であり、精霊を無慈悲に殺し続けた罪によりリィシアから"精霊の呪い"を付与された金狐種の獣人だ。


 フラフラとした足取りで歩くクォンの臀部には三本の汚れた尻尾が生えており、金色の尻尾のうち中央の一本だけが黒く染まってしまっている。これは”精霊の呪い”の影響であり、その影響は中央の尻尾だけではなく頭の左右に生えた耳の片方……右耳にも表れていた。


 ”精霊の呪い”を付与された事によって、クォンの人生は大きく変わってしまっていた。


 呪いの効果によって、ユミラスを中心とした半径10kmには精霊が寄り付く事は無い。それは精霊を信仰し共存するヴィリアティリア大国にとっては致命的な欠点であり、21日の夜にヴィリアティリア大国へと戻った際にはクォンの変わり果てた姿を見た国民は”精霊に呪われた者”としてクォンを国王の席から引きずり下ろす暴動を起こした。

 まだ代替わりして浅かった事。またクォンの魔法には敬意を示してもその性格と行動故にクォン自身を尊敬している者は少なかった為、クォンを王の席から引きずり下ろすのに時間は掛からず、翌日にはクォンはプリズデータ大国のみならずヴィリアティリア大国へも出入り禁止となってしまった。


 しかし、クォンの不幸はそれだけでは終わらない。


 身一つでヴィリアティリア大国を追い出されたクォンは、次にドワーフ種であるガノルドが王として君臨しているラヴァール大国へと向かったのだが、国の入口に立つ門番によってその足を止められてしまった。


 その事態に困惑し、自分がガノルドの知り合いである事を必死に伝えるが門番は全く話を聞こうとはせず、最終的にはドワーフが武器として使う事の多い大槌を取り出しクォンへと構える。


 次々と増える臨戦態勢をとるドワーフ達を見て絶望したクォンは、一度出直そうと考え踵を返すが――その時に聞こえて来た門番たちの会話を聞いて全てを理解してしまう。


『……儂は初めて見たぞ、”精霊の呪い”を受けた者など』

『……ガノルド様のお言葉が無ければ、発見が遅れている所じゃったわい』

『……あの御方はこうなる事を予想して間者をヴィリアティリアへと派遣しておったのかのぅ。恐ろしい御方じゃ』


 どの門番たちの会話に、クォンは足を止めて空を見る。

 今までは綺麗だと感じていた世界の空でさえも、今のクォンにとっては汚れて見えてしまっていた。


 そして、この瞬間を以てクォンの精神は狂ってしまう。


(嗚呼、そう言う事ですか……あのは、わたくしを見捨てたのですね…………あはっ……あはははは!!!! これが”精霊の呪い”の力ですかぁあぁあ!? 素晴らしいですねぇえぇえ!?!?)


 ”精霊の呪い”を受けて、がらりと変わってしまったクォンの周囲。


 その様変わりした世界を見て……クォンの心は堪えきれないショックを受けて壊れてしまったのだ。





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 【作者からの一言】


 執筆時間がとれず、短くなってしまって申し訳ございません……!

 次回の後編が終わり次第、次章が始まる予定ですので是非お楽しみに!


 第316話 プリズデータ大国 四日目②に記載されていた”精霊の呪い”の効果範囲を100kmから10kmへと修正しました。流石に範囲が広すぎたかな?という率直な疑問と、国王が”精霊の呪い”にかかったと言うだけで追い出される理由としては十分かなと判断したので。。。


 【作者からのお願い】


 ここまでお読みくださりありがとうございます!

 作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!

 ご感想もお待ちしております!!


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