第347話 プリズデータ大国 最終日⑤
「――え、公の場では素顔を隠すのか?」
ミラの思わぬ発言の所為で酷い目に遭った後、話題は俺の国王としての振る舞いについてに移って行く。
とはいえ、まだまだ先の話だから途中で変更する事もあるらしく、とりあえずはミラとフィオラが話し合っていた内容を聞かされている感じだ。
そうして話を聞いていく中で、政治的な内容が続いて項垂れていると唐突にミラから言われたのが”公の場では素顔を隠す事”だった。
「まあ、最初はね……国王となる際のあなたの肩書きについては話したわよね?」
「ああ……あのツッコミどころ満載の肩書きね……」
「もう、今更文句を言わないでくれる?」
別に不満がある訳じゃないけどさ……仕方がない事だとも思ってるし……。
でもなぁ……俺の肩書きを箇条書きにするとこうなるのだ。
・”常闇の魔女”ミラスティア・イル・アルヴィスの秘蔵の弟子であり夫でもある。
・魔竜王――グラファルト・ヴァヴィラ・ドラグニルを邪神から救い出し妻とした。
・”六色の魔女”の全員と仲が良く互いに支え合う間柄で最近”氷結の魔女”とも婚姻の儀を果たした。
・”常闇の魔女”と同じく闇魔力の使い手であり、死の森に生息する血戦獣を一撃で倒せる程の実力を持っている。
これが俺の肩書きであり、国王としての威厳を持つ為の手札でもある。
勿論これ以外にも実は転生者である事とか、ファンカレアとは結婚している事とか、異世界の神とも交流があり妻も居る事とか、まだまだ隠している事は多々あるけど確実に言わない方が良い内容なので秘匿する事となっている。
何でも、日々その人口を増やし続けている創造神を崇拝する独立国家が存在するらしく、もしも”ファンカレアと結婚している”なんて公言してしまったらそこのお偉いさん方が怒り出して何をしてくるか分からないとの事だ。
とはいえ、これに関してミラの方はそこまで気にしている訳でも無く『別にそうなったらそうなったでファンカレアが何とかするでしょう』と言っていたのだが、『余計な騒ぎを起こすべきではありません』と言うフィオラの意見を尊重する事になった。
ちなみにこの意見には俺も賛成だ。何事も平和に解決するのが一番だからな。
その為、公表するのはあくまでミラ達”六色の魔女”とこの世界では有名人であるグラファルトを中心とした内容となっている。
ミラ、グラファルト、アーシェの三人が妻であることを言う必要があるのかなと思って聞いてみたのだが……新国の王に妻が居ないのは不自然だと一蹴され、女避けにもなるからと俺以外の全員が頷いていた。
別に知らない女性にほいほいと付いて行くつもりはないんだけどな……信用されていないのだとしたらちょっと悲しい。
話が逸れてしまったが、上の肩書きはエルヴィス・プリズデータ・ヴォルトレーテの三大国を通じで近日世界へと伝えられる予定である。
「……それで、どうして俺は素顔を隠す必要が?」
「隠すべき事は隠したけれど、それでも公にする内容はフィエリティーゼにとっては衝撃的な物になるわ。”六色の魔女”との交流があり、邪神と化した魔竜王を救い出したなんて……当然信じて貰えない可能性が高い。そうなった時に、素顔を晒してしまっていると普通に表を歩くのも難しくなると思うわ。それに、あなたは見た目も若いから変に厄介ごとを引き起こしそうだし……その対策ね」
「なるほど……」
確かに、エルヴィス大国とかプリズテータ大国とかを観光で訪れた際に歩いていただけでトラブルに巻き込まれたリとかは御免だ。それに、頼まれたからとは言え王になる事を引き受けておいて言う事ではないけど、目立つのもあまり好きではない。
ミラの話を聞いた限りだと、建国してからしばらくは素顔を隠すスタンスで振る舞っていた方が良いのかもしれないな。
「あれ、でも国民に対してはどうするんだ?」
国民になって貰う予定のアルス村の人達なんかは俺の素顔を知っているだろうし、その場合はどうすればいいんだろう?
「別にずっと素顔を隠し続ける訳ではないのだから、その辺りの事に関しては臨機応変にしていくつもりよ。公務であるならしっかりと対策をして、プライベートなら素顔のままで良いわ。アルス村の子達にはあなたの事を以前と同じように接してもらう予定だから安心しなさい」
「――国とは言えど、その規模は小さいですからね」
ミラが話した後でそう付け加えたのは、俺から見て正面左側に座っているフィオラだった。
「私達の我が儘を聞いてくれたランくんに、今以上に不便な生活はさせたくないですからね。国王になる事を勧めたのもランくんが余計なトラブルんい巻き込まれない様にする為ですから。トラブルの種になりそうな事柄に関しては、どうしても慎重になってしまうんです」
「……色々と手を回してくれてありがとう」
この数日フィオラとミラは忙しそうにしている。
特にフィオラに関してはエルヴィス大国への連絡もあって頻繁に”転移魔法”を使いまくっていた。
その原因を作ってしまった当人としては本当に頭が上がらない。
俺がお礼を言うと、フィオラは優し気に微笑みを浮かべて顔を左右に振った。
「元々は私とミラスティアが提案した事ですから。これで少しでもランくんが生活しやすくなるのなら本望です」
「フィオラ……」
フィオラの優しさに心が温かくなっていく。
いつも俺やみんなの事を考えて行動しているフィオラは心から尊敬できる。そんな優しいフィオラに俺は自然と心を奪われていた。
「――あら、私も手伝っていたのだけれど?」
「わ、分かってるよ……」
そんなジト目で睨まなくても、ちゃんとミラにも感謝してる。
それはミラだけでは無くて、ロゼもアーシェもライナもリィシアも、グラファルトや黒椿にトワ、ここには居ないけどファンカレアやウルギアにだって言える事だ。
俺の為に何かをしようとしてくれる人がこんなに居るんだ。
本当に恵まれてると思うよ。
こうして、俺はみんなへの感謝の気持ちを改めながらも、ミラとフィオラが話す今後の展開について耳を傾ける。
プリズデータ大国を後にしてからは一日休んでシーラネルの誕生日会へ。
その後は直ぐにアルス村へと赴き国の建国についてボルガラ達へ説明して国民になって貰えないかとお願いして、どちらに転んだとしても国造りを始めていく。
互いに友好関係を築いているエルヴィス・プリズデータ・ヴォルトレーテの三大国の王とも会談をしなければならないし、王としての立ち振る舞いなんかもミラ達から学ばなくてはならない。
何だか忙しくなりそうだな。
でも、不思議と嫌な気分ではない。
心境の変化という訳ではないが、フィエリティーゼに転生してから人に囲まれた賑やかな毎日と言うのにも慣れて来た。
それに……大切な人達との毎日は本当に幸せで、みんなの為なら忙しい毎日も乗り越えられる。
「……まあ、頑張りますか」
周囲に居るミラ達を顔を見渡した後で、俺は小さくそう呟いた。
こうして俺はプリズデータ大国での療養を終えて、ユミラスやミザさん達に惜しまれながらも我が家のある死の森へと帰還する。
さて、明日は忙しい日々が始まる前の小休止だ。
いっぱい休んで英気を養うとしますかね。
そう、思ってたんだけど……。
「――藍くん、カミールから重大なお話があります。プリズデータ大国から帰って来て直ぐで申し訳ないのですが、明日の朝に神界へと来てください」
「…………はい?」
「すみません、私もちょっと急いで戻らないといけないので……兎に角、伝えましたよ!?」
「え、ちょっ……ファンカレア!?」
プリズデータ大国から戻って来て直ぐの事。
死の森の中にある我が家の玄関口に立って居たファンカレアは、真剣な様子で俺に向かってそう言うと直ぐに神界へと戻ってしまった。
どうやらミラ達も把握していなかった事らしく、俺と同様にいま初めて知ったらしい。
何はともあれ、俺の明日の予定が決まってしまったの確かである。
さらば、俺の休日……。
カミールからの重大な話かぁ……何だろう?
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【作者からの一言】
これにて、プリズデータ大国でのお話はおしまいです!
次回はシーラネルの誕生日をお祝いする為にエルヴィスへ向かいます。
そして、次章では久しぶり登場する人物がもれ沢山……の予定です!
【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!
ご感想もお待ちしております!!
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