第346話 プリズテータ大国 最終日④
早朝のリハビリと、戻って来たライナによる剣の鍛錬~グラファルトを添えて~が終わった後、各自シャワーを浴びて食堂へと移動しみんなと合流して朝食を済ませた。
現在は朝食後のティータイムであり、全員がまったりとした時間を過ごしている。
俺は疲労困憊で今にも寝そうだけど……。
案の定、俺が剣を握れる事に感動したグラファルトが本気で斬りかかって来たもんだから、久々に体中に激痛が走った。ブランクって言うのは怖いな……今後はなるべく大怪我は避けたいものだ。
「……グラファルト、交代」
「何を言う、お前だって結局我に席を譲らなかったではないか」
「……グラファルトはいつもお兄ちゃんにべったり。たまには離れてみるべき」
「はっはっは、我と藍は運命共同体なのだ! 一緒に居て何が悪い?」
「……くっつき過ぎるのは良くない、迷惑」
「そんな事ないわ!!」
俺がぐったりとテーブルに突っ伏している最中、左隣りではグラファルトとリィシアが俺の隣の席を取り合っている。
朝から元気だなぁ。特にグラファルト、お前はさっきまで散々暴れ回ってたのに何でそんなに元気なんだ……。
左隣りの騒ぎに背を向けると、顔を向けた右側には紅茶を飲んでいるミラの姿があり、俺と目が合うと小さく微笑んだ。
「ふふ、朝からお疲れみたいね」
「……まあ、二人とも相当フラストレーションが溜まってたみたいだからなぁ。手痛くしごかれたよ」
「ああ……ライナとグラファルトの事ね? まあ、昔から二人は戦う事が大好きだったからしょうがないわよ。それに、あなたはステータスが異常に高いからこれまでとは違って対等に戦える存在が居るって言うのも大きいわね。まだ自分が強くなれると知って嬉しいのよ」
それは何となくだけど分かる。
剣の鍛錬でライナやグラファルトと戦っていると、時より悔しそうにしたり、驚いたり、楽しそうに笑ったりと……普段よりも喜怒哀楽が代わる代わるに出ている気がするから。
それは分かるんだけど……。
「けどさ、グラファルトとライナの二人だけでも十分に技術を高め合えると思うんだよなぁ。頼むから俺が転生者であり戦闘経験が皆無だった人間と言う事を忘れないで欲しい」
いや、割と本気で。
毎回ボロボロになっている俺を見て、もう少し手加減をだな……。
そんな愚痴を溢すと、ミラは「あらあら」と呟いて呆れた様にテーブルに顔をつけている俺を見下ろして来た。
「あのねぇ、二人があなたと一緒に鍛錬をしたかったのは、別に自分達の技術を上げる為だけじゃないのよ?」
「え?」
「鍛錬の時間だけはあなたのより近くに居れるからって理由もあるのよ。特にライナは自分だけ藍とあまり進展がないと思っているから」
「そ、そうだったの?」
えぇ……ライナが俺を……?
思わず俺はテーブルにつけていた顔を軽く起き上がらせて、正面に座るライナの方を見る。
そこには両隣に座るフィオラ、ロゼと話しているライナの姿があり、俺の視線に気づいていない様子の三人は紅茶を飲みながら楽しそうにしていた。
「……そんな素振り一切見せて来なかったけど、本当なのか?」
ミラの事を信用していない訳ではないけど、流石にライナが俺との進展を望んでいるとは思ってもみなかったのだ。
「ああ見えて、ライナはちゃんと女の子らしい一面も持っているのよ? 本人は隠しているつもりみたいだけれど、長い間あの子の傍に居た私やフィオラ達はとっくに勘づいているわ」
「うーん、俺には全く分からないなぁ。そもそもミラの言うように女の子らしい一面があるとするなら、どうしていつもはこう……キラキラした王子様みたいな口調や態度をしているんだ?」
俺の例えが可笑しかったのか、ミラは「王子様って……ふふふ」と口元に右手を置いて笑う。
いや、だって思い返してみても『やあ、良い朝だね』とか『僕は~』とか、あのキラキラとした爽やかスマイルとか、妹の雫がキャーキャー言っていた乙女ゲームに出て来る”爽やか王子様系男子”とか言うキャラクターにそっくりで……。
「まあ、確かにライナが普段男みたいに振る舞う事が多いのは事実だけれど……それにも色々と事情があったのよ。それに関してはいつか本人が話してくれるのを待ちなさい。私から言えるのは、ライナは別に根っからの男勝りって訳ではないと言う事よ」
「うーん……心に留めておく」
直接確認した訳ではないので確信を持てている訳ではないけど、何か事情がありそうな気がするのは確かなので俺はミラから聞いた話をちゃんと覚えておくことにした。
そんな俺の言葉に納得したのか、ミラは数回小さく頷くと右手で紅茶の入ったカップを持ち口へ運ぶ。
俺も喉が渇いたので側に置かれていた自分用のカップを右手で取り飲み始めた。
「あ、良い事を教えてあげる」
「ん?」
俺が紅茶を飲もうとしたタイミングで、ミラが俺の右耳へと顔を寄せてそんな事を言い出した。
良い事か……まあ、ミラの顔を見た感じそこまで重い話では無さそうなので、とりあえず紅茶を飲んでしまおう。
「――普段はサラシを巻いているけれど、ライナの胸はDカップよ」
「ぶっ!? ゲホッゲホッ」
何故、俺が紅茶を飲んだタイミングでその話をした!?
その驚きの内容に口に含んだ紅茶を吹き出してしまい、その際に紅茶が変なところに入って咳込んでしまう。
と言うか、それは話してもいい事なのか!?
「大丈夫ですか!?」
「ど、どうしたんだい!?」
「ラン~?」
俺がいきなり紅茶を吹き出した事で、前方に居たフィオラ、ライナ、ロゼの三人が心配そうに俺を見てくる。
うっ、駄目だ……声に反応して三人を見てしまったが、さっきのミラの話の所為でどうしても視線がライナの胸に……。
「ラン? 本当に大丈夫かい?」
「~~ッ!? だ、大丈夫だ!!」
「そ、そうかい? それなら良いんだけど……」
くっ……今はサラシを巻いているから平らに見えるけど、やっぱり変に意識してしまってライナを直視できない。
くそぅ、今までは気にした事は無かったのに!! 今後、剣の鍛錬をする時に俺は如何すればいいんだよ!!
「あらあら、大丈夫? 急に咳込んでびっくりしたわ」
「…………」
おのれミラ……!
爆弾を投下した張本人の癖に、然も心配している風を装いやがって……許さん。
いつか絶対仕返ししてやる……!!
――でも、ミラの言う通り俺にとっては良い事だったので仕返しは軽めにしておいてやろう……ごめん、ライナ。俺も男なんだ……。
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【作者からの一言】
ここでライナの新情報の公開です。
実はこれは初期から考えていた設定で、いつ出すかはまだ未定でもありました。
【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!
ご感想もお待ちしております!!
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