第341話 プリズテータ大国 五日目④





「――それで、結局藍は何をそんなに悩んでいるのだ?」


 寒空の下。

 特に何かを話す訳でもなく景色を眺めていると、あぐらの上に座って同じように景色を眺めていたグラファルトがおもむろにそう聞いてきた。


「いや、朝の件でさ――」


 そうして俺はグラファルトに、自分が王に向いていないと思っている事を伝える。

 グラファルトは口を挟むことなく俺の話を聞いてくれていたのだが、俺の話を聞き終えてから開口一番に盛大な溜め息を漏らした。


「お前が王という存在にどのような印象を抱いておるのかは分からないが……向き不向きに関係なく、周囲の人間が認め自ら王と名乗ったその日からその者は王として君臨するのだ」

「えっと……つまり?」

「つまり、向き不向きで決めることでは無いと言うことだ。それはお前を王と認めた者達が判断する事であって、お前が決めるべき事はもっと別の事……」


 そこで話を区切ると、グラファルトは体を動かして向きを変え、俺と向かい合うようにしてからあぐらの上に座り直す。

 そして、冷えきった両手で俺の両頬に触れると、真剣な様子でその口を開いた。


「藍、お前には王として民の前に立つ覚悟があるか?」

「……民の、前に」

「そうだ。お前が王となり国が出来たとして、まず始めに国民になるのはアルス村の者達だ。お前はあの者達を導く王として前に立ち君臨し続けなければならない。時には喜びを分かち合い、時には悲しみを分かち合い、国民となったアルス村の者達の安全を守り、その生涯を守り続けなければならない」


 それが王としての務めであり責務である。


 真剣な表情を崩すこと無く、グラファルトはそう俺に語り掛けてくる。


「国があり続ける限り、彼らは国民だ。そしてお前が跡継ぎを決めない限り、お前は王として存在し続ける。生半可な気持ちで王を名乗る事は我が許さぬ。王と名乗るのであれば民を愛し、時には自らが先陣を切って敵を薙ぎ払う剣となれ」


 今俺の目の前に居るのは……かつて竜種の王だった少女。

 グラファルトは過去の王として、俺に語り掛け続ける。


 お前には、戦う為の力があるのか。


 お前には、責任を負える背中があるのか。


 お前には、王と名乗る覚悟があるのか。


 そんな彼女の言葉には重たくて気圧される様な力が込められている様な気がした。


「敢えて厳しい事を言うぞ? 国の王となれば必ず争いごとに巻き込まれる事になる。必ずだ。そして、お前はきっと民が死ぬ往く様を見て耐えられなくなるだろう……お前は大切な物を失う事を何よりも嫌っておるからな」

「……」

「お前はきっと暴走する事になる。一人で背負う事など出来る筈がない。背負いきれず、また孤立して一人で行動するのだろう。お前は……王にはなれない」


 王にはなれない。

 自分では何度もそう思い口にしてきたが、その言葉を他人から聞くのはこれが初めてだ。

 そして、グラファルトからその言葉を聞いた俺はいま……何故か苛立ちとモヤモヤを覚えていた。


 どうしてだろう。


「……」

「なんだ? 随分と不満そうではないか? 王などに興味は無いのではなかったのか?」


 どうやら顔に出ていたらしい。

 俺の顔を見つめるグラファルトはニヤリと笑みを浮かべながらそう言うと俺の頬を軽く抓り始める。

 そんなグラファルトの手を顔を振る事で払った。


 それと同時に、俺はグラファルトの言葉でどうしてモヤモヤしていたのかを理解し、モヤモヤの原因が判明すると自然と苛立ちを感じていた事に関する原因も理解していった。


「グラファルト……お前、わざとだな?」

「…………ぷっ」


 ジト目で睨むと、グラファルトは我慢できなかったのかしばらく黙り込んだ後に噴き出した。そして、堪えていたものを吐きだす様に盛大に笑い声をあげ始める。


「あははは!! ようやく気づいたか!!」

「はぁ……おかしいと思ったんだよ。やたらと王を否定する様な言い回しをしていたり、最後の方なんか"一人"って部分を誇張して言ってたり」

「くくくっ……いつまでも気づきそうに無かったからな。気づけるきっかけを作ってやったのだ。流石にあれ以上お前をいじめるのはなぁ……ぷっ……あははは!!」


 お腹を抱えて笑い続けるグラファルトにイラッとした俺は、お返しと言わんばかりにグラファルトの左頬を引っ張った。


「いひゃひゃ、ひゅまうひゅまう(いたた、すまぬすまぬ)」

「……許さん」


 とりあえず、溜飲が下がるまではこの頬っぺを引っ張り続けてやる。


 その後もグラファルトが笑い続けている間、俺はグラファルトの頬を引っ張り続けた。









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 【作者からの一言】


 すみません!

 五日目は短めにすると言いましたが、いや、確かに文字数的には短いんですけど……。

 とにかく、短めに終わらせると言っておきながら明日も続きます。

 この所は平気だったんですけど、体調を崩してしまいました……そんな訳で本日分は短めです。

 

 【作者からのお願い】


 ここまでお読みくださりありがとうございます!

 作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!

 ご感想もお待ちしております!!


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