第323話 アーシエルとのデート②
アーシェと坂道を下り、王都へと続く門の前に辿り着いた。
「それで? さっき聞くのを忘れてたけど……アーシェは結局、そのままの姿で王都に行くのか?」
右隣に立つアーシェは普段と変わらない姿をしている。
このまま行くと絶対に街行く人々から声を掛けられると思うんだけど……どうするつもりなんだろうか。
「大丈夫!! わたしには……これがあるから!!」
「嘘だろ……」
自信満々な様子でアーシェが亜空間カラ引っ張り出してきたもの……それはサングラスだった。
それもコッテコテの一昔前の刑事ドラマで使われてそうなシンプルなサングラス。
それを嬉しそうな表情で装着してこっちを向くアーシェは……目元がサングラスなだけのアーシェだった。いや、当たり前だけどさ。
「前にミラ姉が持ってきてくれた雑誌に載ってたんだ〜! 直ぐに欲しくなってロゼ姉に頼んでたの!!」
「そ、そうなんだ……」
やっぱりミラに頼んで雑誌を持って帰ってくるのやめてもらおうかな!?
デコトラといい、サングラスといい、偏りが凄い……。
アーシェのはしゃぎ様は凄まじいが、それに結果が伴っていない。やっぱり"女神の羽衣"を着といた方が良いと思うんだ。
「アーシェ、やっぱり"女神の羽衣"を着た方が良いと思うぞ? 流石にそれじゃあバレるって……」
「甘い、甘いよランくん!!」
「……何が?」
「人間と言うのはね? 相手を覚える時に顔を第一に見て記憶する生き物で、その八割の人が目を見て覚えるんだよ!! だから、このサングラスを掛けたわたしはもはや無敵……"認識阻害魔法"や【偽装】なんて必要ないくらい完璧に変装できてるってことなんだよ!!」
だ、駄目だこの子……完全に雑誌に毒されている……!!
普通に考えれば"認識阻害魔法"や【偽装】の方が遥かに凄い代物なのに、それに全く気づいていない。
どうやらアーシェは地球の文化でファッション系……それもサングラスにハマっているようだ。
元々キラキラした雰囲気ではあるしお洒落が大好きではあったみたいだけど、まさかサングラスにハマるとは思わなかった。いや、見た目も容姿も良いから様にはなってるけどさ。
出来ればアーシェの望むままにしてあげたいけど、流石になぁ……。
「アーシェ、それはあくまで地球での常識であって魔法が存在するフィエリティーゼは通用しないと――「そんなに心配しなくても大丈……あ、分かった!!」――……え?」
その口元に笑みを浮かべたアーシェがおもむろに亜空間からもう一つサングラスを取り出し始めた。
あ、あれ、アーシェさん?
どうして俺に近づいて……いや、やめて!! 俺はサングラスなんて掛け……アッーー……。
「――えへ、えへへ……サングラスを掛けたランくんもかっこいいねぇ〜」
「……褒められている筈なのに素直に喜べない」
そして視界が暗い!!
抵抗も虚しく掛けられたサングラスは掛け心地は良く重さもさほど感じない。頭を軽くってみても外れる様子は無いしとてもいい出来だと思う。だけど……。
「なあ、やっぱり外していい?」
「ええ!? ど、どうして!?」
「どうしてと言われても……俺は"女神の羽衣"があるから必要ないし、それに視界が暗いのもちょっと気になって」
今日は買い物もしたいと思っていたから、正直視界が暗くなるのは困る。品物をしっかりと見る為に何回も外したり掛けたりするのも面倒だし若干の恥ずかしさもある。
アーシェには悪いけどやっぱり外した――いッ!?
「はぁ……お揃いデート、したかったなぁ……」
「うっ」
「折角二人っきりなのに……」
「うぅっ」
くっ……どこでそんな高等テクニックを覚えたんだ!?
と言うか、本当にユミラスに似てるな!?
いや、寧ろアーシェが元祖で弟子であるユミラスがそれを受け継いだだけか……ってそうじゃない。
流石にこのまま流される訳にはいかないんだ……だって、このままだと絶対に注目を浴びてしまうから!!
「ア、アーシェの気持ちは凄く嬉しいよ? 俺としてもお揃いでデートとか楽しそうだなぁって思う。でも、流石に視界も暗くなっちゃうしこれだと買い物が楽しめないと思うから……ほら、一緒に買い物をするのもデートっぽいだろ?」
とりあえず『恥ずかしいから嫌だ』なんて言ったら泣かしてしまいそうな予感がしたので、サングラスの特徴でもある日除けも兼ねた暗さが問題であると指摘してみた。これなら買い物が楽しめないと言う理由でサングラスを外す事が出来るだろう。
そう思っていたんだが……。
「あっ! それなら大丈夫だよ!!」
「…………な、何が?」
「ランくん、テンプル? ってところを一回叩いてみて!!」
嫌な予感がする……サングラスをしているから分からないけど、多分キラキラと瞳を輝かせているであろうアーシェが先にやり方を説明するように左側のテンプルと呼ばれる部分を一度叩いていた。
テンプルって目から耳の間の長い部分だよな?
えっと、アーシェは確かこめかみ辺りをこう軽く叩く感じで……うおっ!?
テンプルを軽く叩くと、薄暗い視界が一気にクリアになった。
急な出来事に驚いてサングラスを外して見るが、見た目はただのサングラスだ。
「ど、どうなってるんだ……?」
「これはね~、ロゼ姉が付けてくれた特殊機能だよ! 見た目は変わらず黒いままなんだけど、テンプルって所を叩く事で中に組み込まれてる回路が作動して内側に”透過”の魔法が発動するようになってるらしいよ? 効果が切れたら魔力をサングラスに向けて流せばまた使えるんだって~!」
「へ、へぇ……」
ロゼェ!! なんて無駄に高性能なサングラスを作ったんだ!!
そして、もはやサングラスとして機能するのかも怪しい代物になっちゃってるけどいいのかそれで!?
技術の無駄とも思えるサングラスを左手に持ちながら何が打開策がないかと模索していると、そっと左手に持っていたサングラスがアーシェによって回収され、再び俺の目元へと掛けられた。
「さて……これでお揃いでデートができるねっ!」
「い、いや、その」
「"買い物をするのに暗いままじゃ楽しめない"って理由は解決したし、これで大丈夫だよね?」
「……」
な、何も言い返せない……。
確かに俺が提示した問題はロゼの技術で解決してしまっている。
目立つからという理由では止まる様子はないし、恥ずかしいからという理由では悲しませてしまう可能性が……。
「……わ、分かりました」
「ッ!! やったぁ!!」
結局他の代替案が思いつかず、折れる形でサングラスを掛けながらのデートを決行することとなった。
俺から承諾の言葉を聞くと、アーシェはその場で飛び跳ねて喜んでいる。
そんなアーシェの喜びようを見ていたら……なんかもう、良いかなって思った。
「それじゃあ、早速王都に行こうか」
「うん! あっ、そ、それと……えいっ」
「ッ!?」
はしゃいでいるアーシェに声を掛けて王都へと続く門を通ろうとした時、小さな掛け声と共にアーシェが俺右腕に抱き着いてきた。
「デ、デートだから、こんな事をしても良いんだよね?」
「あ、あぁ、そうだな。今日はデートだから……」
やばい、香水なんだと思うけどアーシェから良い香りが漂ってくる。
そして何よりも、控えめではありながらもしっかりと存在する女の子特有の柔らかさが腕に伝わってきて、凄くドキドキして来た。
こっちを伺うようにして見上げてくるアーシェの頬はほのかに赤くなっていて、多分アーシェ自身も照れているんだと思う。
そして何よりも……。
「えへへっ、今日はランくんを独り占め出来るから……幸せだなぁ〜」
見下ろしたアーシェのサングラスの隙間。
照れ隠しをするようにはにかむ彼女がいつもよりも可愛く見えたのは――きっと気のせいではないのだろう。
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【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!
ご感想もお待ちしております!!
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