第322話 アーシエルとのデート①






 シーラネル達が帰った後、別邸に戻る際にミラ達と合流してそのまま食堂へ向かい昼食を済ませる事にした。


 食堂についてからはミラ達と俺とで情報交換をしていき、お互いが居なかった間のことについて話し合う。

 俺的に一番驚いたのは、リィシアがファンカレアから与えられた力についてだ。


 それは"精霊化"という能力らしい。いや、種族特性と言った方がいいのかな?

 リィシアはファンカレアによって人間と精霊の両方の性質を持つ肉体へ再構築してもらったらしい。

 ただ、この世界にも時折存在する異種族の夫婦から産まれてくる混血種とは違い、人間の姿と精霊の姿の両方を自在に入れ替えることが出来る仕組みのようだ。


 ミラが分かりやすく説明してくれたが、要は電源のオンオフが出来るスイッチのような物がリィシアには備わっていて、日常生活ではオフの状態のスイッチを使いたい時にオンにすれば精霊へとなれるらしい。


 その話を聞いて、リィシアの言うことを精霊が素直に聞き届けているのはリィシアが精霊でもあるからかのかと思ったが、それも少し違うのだとか。


 なんでもリィシアは産まれながらにして精霊との相性がずば抜けて高かったらしい。これは黒椿が前に言ってたっけ?

 確か先天的に精霊と意思疎通が出来る体質を持っている人が稀に存在していて、その一人がリィシアだった。


 精霊の性質を持っているから多少は精霊の目を引くことは出来るが、その本質はリィシアが元々持っていた天性の才能なのだ。


 リィシア的にはこの事実を俺に知られるのが少しだけ怖かったらしい。

 自分が他のみんなとは違うと言う事で距離を置かれたりするかもしれないと不安だったそうだ。そんなこと有り得ないのに。


 正直驚きはしたけど、それだけだ。リィシアの力の正体を知ったところで今までの関係性が崩れる訳では無い。

 それに、普通じゃないとしたら俺の方だと思うしなぁ……グラファルトもだけど。


 俺達のステータス画面の種族欄は二人揃って"共命者"となっている。正確には"共命者"と言う総称であり、"共命者"である俺とグラファルトの二つの種族が共有されている状態だ。

 魂の共命がより強固に結ばれた結果だとは思うのだが、今の俺は人間でありながら竜種でもある摩訶不思議な存在という事になる。


 それを何より証拠付けているのが……竜種のみが使えると言う固有スキルを俺が使えてしまっている事だ。

 まだ上手く扱うことは出来ないし【竜化】も不発に終わってしまっているが【竜の息吹】は使う事が出来た。それに【火炎操作】【水流操作】なんかは料理の際に大いに役立つスキルなので是非とも上達して行きたいと思っている。

 まあ、グラファルトは複雑そうな顔をしていたけど……。固有スキルの鍛錬だと思って我慢してもらおう。


 話が逸れてしまったが、幾ら俺が普通だと思っていようとも先に述べた様に俺の存在も普通とは異なっている。

 だからこそ、リィシアを怖がることもないし寧ろ似た者同士の様で何だか嬉しく思っていた。


 その事をリィシア本人に伝えると『似た者同士……』と呟きながら嬉しそうに微笑んでいて、どうやらリィシアの不安は無事に消えたみたいだ。



 その後は俺の話へと移り、話題はシーラネルへのサプライズの件へ。

 ユミラスは何故か顔を青くしていたが、別にユミラスの事を悪くいうつもりは無い。多分シーラネルの前に出てきた二人を止められなかったことに対して怒られるとでも思っているんだろうが、ユミラスは上手くやってくれていたと思うし文句を言うつもりは無い。あっ、もちろんレヴィラもね?


 その事を伝えると、ユミラスは安堵した様子で椅子の背もたれに体を預けていた。

 もしかしたらミラ達が居ることで余計に緊張させてしまったのかもしれない。悪い事をしたな……。


 それにしてもコルネさんとアリンさんだったかな?

 あの二人の動きは速かった。それにアリンさんは多分俺の事をどう攻めるべきか考えていたと思う。後数秒くらいレヴィラが声を掛けなかったら斬りかかって来ていただろう。

 流石にあの時は肝を冷やしたな。負けることは無いだろうけど、無用な争いは避けたいからな。


 でも……果たしてあれはサプライズとしては成功だったのだろうか?

 一応シーラネルは驚いてくれていたけど、正直手紙を渡した時点で完全に自分の世界に入っちゃってたし、俺がいくら声を掛けても反応してくれなかったから焦ったよ。


 まあ、一応最後に声を掛けることは出来たし、驚いた顔も見れたからとりあえずは成功という事にしておこう。


 こうして俺達は午前の出来事を話し合い終わると昼食へと移り、食べ終わってからは自由時間となる。

 まあ、自由時間とは言いつつもそれは俺とアーシェ以外の面々にのみ適応されるものだけど。


 ちなみに今回はウルギアもお留守番です。せっかくのデートだからね。アーシェも楽しみにしていてくれたようだし、何より俺も楽しみだった。


「えへへっ、楽しみだね!」


 二人で一緒に食堂を出るとアーシェは俺より少し先へと歩いて行き、振り向くと満面の笑みでそう話し掛けてくる。


 そんなアーシェに俺も笑顔で返して、二人で別邸を後にするのだった。















「……アーシェ」

「どうしたの?」

「いや、"女神の羽衣"は?」


 別邸を出て早々、問題が生じた。

 決して深刻な問題では無いのだが……何故かアーシェが"女神の羽衣"を纏っていないのだ。ちなみに俺は別邸を出て直ぐに亜空間から取り出している。今まさに纏うつもりで居たのだか、"女神の羽衣"を取り出す気配が全くないアーシェに気づいて纏うのを止めていたのだ。


 確か、ファンカレアが全員分の"女神の羽衣"を作ってくれていた筈……アーシェだけが除け者にされてる訳がないし、持っていないなんて事は有り得ない。


「俺は魔力さえ漏らさなければ良いけど、アーシェはそのままだと目立つだろう?」

「ふっふっふっ〜!! 安心したまえランくん!!」


 今まさに不安になったんだが?


「確かに”認識阻害魔法”や【偽装】を使えば誰にも気づかれる事なくデートを楽しめるかもしれない……でも、それじゃあ駄目なんだよ!!」

「えっと……何が?」

「わたしはね、もっと気楽に楽しみたいんだよ!! 折角ランくんと二人っきりなのに、姿を偽ってのデートなんて楽しくないから!!」


 う、うーん……言いたい事は分かるけど、それは俺には無理なんじゃ……。


「大丈夫! 今回に限ってはミラ姉達から許可を貰ってるから!! ランくんは魔法は絶対に使わないで”魔力感知阻害”を付与し忘れなければ後は素のままで大丈夫だって!」

「い、いつの間に許可なんて貰ってたんだ……」

「昨日のうちにね~! いずれは表に出る事もあるだろうから、今のうちに表に出る練習も必要だって言ってたよ? 他国ではまだ心配事が多いみたいだけど、プリズデータ大国なら今のところ不穏な話は聞かないからねぇ~。ヴィリアティリア女王の一件も片付いたしっ」


 そう言えばユミラスが昨日のうちに不穏分子が紛れていないか調べていたんだったか? その結果が出たって事だろう。


「ただし、何度も言うようにランくんの魔力量を見る事が出来る目を持っている特殊な子もたまに居るから、ファンカレアちゃん特注の”女神の羽衣”に付いてる”魔力感知阻害”は外さず魔法も禁止だって~。それを破ったらミラ姉達が全員飛んで来るらしいよ?」

「絶対に魔法は使いません! そして”女神の羽衣”は脱ぎません!」


 素顔で出掛ける為の条件が中々に厳しい……つい普段の癖で”浄化魔法”を使っただけでアウトじゃないか。気を付けよう……俺が死なない為に。


「そう言えば気になってることがあって……亜空間って魔力を使わないのか? ファンカレアとリィシアと俺の三人で出掛けた時に、荷物を入れる為に亜空間を使ったけど”魔力感知阻害”が解除されなかったんだよ」


 ファンカレアに聞けばよかったんだろうけど、タイミングが合わなくて聞けずじまいだったんだよな。


 ふと思い出したのでアーシェに聞いてみることにした。


「亜空間? あれは生活魔法だよ?」

「あれ、やっぱり魔法なのか。じゃあ何で"魔力感知阻害"が解除されなかったんだ?」

「多分だけど、"魔力感知阻害"って外へと放出する魔力に反応するんじゃないかな? 亜空間はね、魔力で生み出した自分だけが持っている空間を呼び寄せる魔法であって、初めて使う時だったり、新しい空間を生み出す時なんかには多少の魔力が消費されるけど、既に作ってある空間を呼び出したりするのには魔力を使わないんだ〜」


 つまり、ファンカレア達と出掛けた時は既に作っていた亜空間だったから大丈夫だったという訳か。


 試しに"女神の羽衣"を纏い"魔力感知阻害"だけを発動した状態で亜空間を開いてみた。


「うん、やっぱりわたしの予想通りだったね!」

「みたいだな。これなら買い物をしても大丈夫そうだ」


 楽し気に笑うアーシェにつられて、自然と俺も笑みを浮かべていた。


 こうして、若干の不安は残しつつもアーシェに引っ張られる形で俺は王都へ繋がる坂道を下って行った。







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 【作者からの一言】

 残すはデートと帰宅だけですので、タイトルも変更です!


 【作者からのお願い】


 ここまでお読みくださりありがとうございます!

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