第313話 プリズデータ大国 三日目(午後)⑪






――闇の月19日の夜10時過ぎ。


 諸々のやるべき事を終わらせた後、俺は別邸から一人で外へ出て暗い夜道を”光源魔法”を使って周囲を照らしながら歩いていた。

 野球ボールくらいの大きさの白く光る球体は俺の頭上に浮かんでいて、俺が進みたい方向に歩いて行くと勝手について来てくれる。


 ”光源魔法”は基礎魔法の一つであり、魔力制御を用いる事で大きさや光源の強さ、光源である球体の操作などを行うことが出来る魔法だ。ちなみにこの魔法で生まれる光源は基本色である白をベースに魔力色によって色を変えたりすることも出来るらしい。


 ただし、ミラの様な【闇魔力】の派生スキル【紫黒の魔力】、グラファルトや俺の様な特殊スキル【魔法属性:全能】なんかを持っている者は魔力色が特殊な為に基本色である白にしか出来ない様だ。


 今度ウルギアに頼んで通常スキルの魔力色を大量生産してもらおうかな?

 六色の光源を周囲に浮かばせたりしたら……ちょっとカッコイイかもしれない。


 ちょっとロマンに走った所為で話が逸れてしまったが元に戻そう。


 ”光源魔法”は基礎魔法の一つでありながら魔力制御の訓練にはもってこいの魔法で、熟練の魔法使いになると光源の数を十や百へと増やして一定のリズムで全ての光源を動かし、その光源の強さを大きくしたり小さくしたりして魔力制御の訓練を行うらしい。


 詠唱自体も基礎魔法なだけあって定型文があり、”光よ、我が道を照らせ”と簡単だ。しかも、必要な魔力量が決まっている攻撃魔法とは違って、術者が持つ魔力から少しずつ消費していくので初めて魔法を使う人でも絶対に発動できるようになっているらしい。

 ただ、初めて魔法を使う人――大体は子供だとミラが言ってた――は魔力制御なんて出来ないのが当たり前だから、直ぐに光源が消えて”魔力欠乏症”になるのだとか。


 そこから自身の魔力量を知り、魔力制御の大切さを知り、魔法使いを目指す者は幼い頃から毎日魔力を空にして、自身の魔力保有量を増やしていく様になり……ある程度の魔法が使える様になったら今度は魔物を狩りレベルを上げて行く。そうして、一人前の魔法使いへと成長していくものなのだとミラに説明された。



 ……俺は”光源魔法”での魔力制御はしてないよ?

 ”光源魔法”を使った方法についてはミラから説明されたけど、俺はやらせて貰えなかった。

 と言うのも、俺はフィエリティーゼの子供とは違って、膨大な魔力を保有しているのにも関わらず魔力制御が全くできない素人と言う部類になるので通常の方法では魔力制御は不可能だったのだ。


 試しに森にある我が家の地下施設で”光源魔法”を使ってはみたんだが……。


『ぎゃああああ!!』


 制御しきれない膨大な魔力を基に作られた光源はそれはそれは眩しいもので、光源を見た直後――俺の眼球は悲鳴を上げる事無く絶命した。

 ちなみにミラは地下施設からは退避済みで、俺が作りだした光源が消えていない間は絶対に地下施設へと来ようとはせず、激しい痛みにのた打ち回っていた俺に念話で『だから言ったでしょう? ちゃんと光源を消したら治してあげるから』と呆れた様に言っていたのを覚えている。


 魔力制御を完璧に出来る様になった今でこそ便利な魔法だなと思うけど……転生直後の俺にとってはただの攻撃魔法でしかなかったなぁ。






 三年くらい前の出来事を思い出しながら歩いていると、王城と別邸の裏手にある森の前まで辿り着いていた。

 躊躇う事無く俺は森の中へと足を踏み入れて、木々の隙間を縫うようにして歩き出す。

 そして、森を進みながらも自分の瞳に魔力を集めて”精霊眼”を発動させた。


『『『『『……!!!!』』』』』

「おぅ……凄い寄って来たなぁ……」


 め、めっちゃ集まって来てる……顔の辺りに。その所為で前が見えないんだけど!!


 もしかして精霊は俺が瞳に魔力を込めたかどうかが分かるのだろうか?

 ”精霊眼”を発動したら『待ってました!!』って言わんばかりに詰め寄って来てちょっとびっくりしてるんだけど……。


 まあ、見つからない可能性も考えていたから簡単に見つかって良かったけどさ。


 今回森へやって来たのはほぼ趣味となりつつある散歩の意味合いが強かったけど、その他にも精霊に会うと言う目的もあった。

 ファンカレアに『精霊に確実に会うにはどうすればいい?』と相談してみたら『森には精霊が多く存在しますよ』と言う事だったので、俺は早速森にやって来た訳だ。


 勿論、ミラ達には”転移系統の魔法を使わない”事を条件に許可を貰っている。

 逃げる気なんて微塵もないんだけど、前科がある所為か中々信じて貰えなくて苦労した。

 今も多分ミラ達の誰かが見張ってると思う。


(――藍様、精霊は魔力の性質を読み取ることが出来る存在です。恐らくですが、この世界の創造神であるファンカレアに愛されている藍様の魔力が精霊にとっては魅力的で、自然と惹きつけられているのでしょう)


 ……そもそもウルギアが俺の中に居るんだから外からの監視なんて必要ないか。

 いつの間にか入ってたんですね……ちょっと怖いなと思ったよ。


 と、それよりも聞き捨てならない発言が……。


(そうなのか? この世界に来たばかりの頃はリィシアに恐れられてるって言われたんだけど……怖がってるんじゃないのか?)


 俺が死祀の転生者達を前に暴走してしまったのが原因で、俺の魔力を恐れていたとリィシアは言ってたけど。


(恐らくその言葉の意味が違います。リィシア・ラグラ・ヴィリアティリアが言っていたのは”恐怖”ではなく”畏敬”の方の畏れでしょう。藍様がこの世界へ降り立った当時は魔力制御も完璧には習得していませんでしたから、溢れ出る膨大な魔力を見て藍様の事を神族か何かと勘違いしていたのでしょう。邪神を取り込んだ際に極少量ではありますが神属性の魔力も取り込んでいましたから)

(あー……そう言えばそうだった)


 あの時は色々とバタバタしてたからすっかり忘れてたけど、邪神がファンカレアから奪った神属性の魔力をそのまま俺が奪っちゃったんだよな。

 そっか、リィシアが言っていたのは畏敬の方の畏れだったのか。


 魔力制御が出来る様になった今は対外に漏れ出る魔力が殆どなくなったから安心して近づける様になり、そして今まで我慢していた反動が今になって返って来たと……でもなぁ。


「あの、せめて視界を塞ぐのだけはやめて欲しいんだけど……」

『『『『『――♪ ――!!』』』』』

「うぇっ!?」


 何故もっと寄って来るの!?

 しかも全員嬉しそうな顔をしてるのは何で!?


(藍様、精霊に言葉を伝えるのでしたら少しでも良いので声にも魔力を込めなければいけません。精霊達は頼まれない限りは魔力の込められていない声を聞くことはありませんので、精霊からすれば安心する相手から何かを言われていると言う認識でしかないのです)

(そ、そう言う事か……分かった)


 ウルギアから助言をもらったあと、俺は魔力を込めた声で「"お願いだから視界を塞ぐのは止めてくれ。今日は精霊達に話があって来たんだ"」と伝えた。


 俺の声を聞いた精霊達はパタパタと動かしていた小さな羽をピンッと伸ばすと満面の笑みをその顔に作り出して少し距離を置いたのだった。


『『『『『――? ――♪』』』』』

「んー……あ、そうか」


 少しだけ離れた先で、精霊達は何かを嬉しそうに話していたのだが、俺には何を言っているのか分からず困っていた。

 だが、それを解決する方法があるのをすっかりわすれてた。目、口と来たら、次は耳にも魔力を込めればいいんだ。


「"ごめん、耳に魔力を込めるから俺が左手を挙げてから話してくれ"」

『『『『『――♪』』』』』


 目の前に集まる小さな大群は俺の言葉を聞いて何度も頷いていた。

 そんな精霊達の様子に苦笑を浮かべつつも、俺は直ぐに魔力を耳へと込め始める。そうしてあっという間に耳にも魔力を込めることに成功した為、俺は左手を挙げた。



 ……そう、俺は挙げてしまったのだ。


 なんの対策もすること無く――数百は居るであろう精霊の前で。




『――優しき王様!!『――私達にも優しい王様!!『――ずっと影から覗いてた!!『――こっそり部屋に入って一緒に寝た〜!!『――あー!! ずるい!!『――ほんとだー!! それはずるだよー!!『――王様ー!! 僕達に会いに来てくれたのー!?『――そうだったら嬉しいなぁ〜!!『――私も嬉しいなあ〜!! 王様に会えたのー!!『『『『『『会いたかったよ〜!!』』』』』――ずっと待ってたよ〜?』――お話ってなぁに?』――大事なお話?』――お姉様たちも呼んでくる?』――呼んだ方が良いかな?』――女王様は?』――ここにはいないよ〜?』――遠くに居るよ〜?』――遠くに行くのー?』




 一斉に話し出す精霊達の声はどれも大きくて、なんの対策もしていない俺は激しい痛みと共に耳鳴りが止まらなくなってしまった。

 慌てて耳に込めていた魔力を霧散させた後、俺は痛みに耐えながらも"回復魔法"を両耳へと施す。


 えらい目にあった。

 こいつら満面の笑みで殺しにかかってきたぞ……。

 いや、精霊達にはそんなつもりは無いのだろう。今回のミスは間違いなく俺だ。

 精霊達に"手を挙げてから話す"ようにと行った時、一人ずつ……または代表者を決めて話してくれと言わなかった俺が悪い。


 良くも悪くも俺の目の前にいる小さな精霊達は純粋で素直だ。

 生まれてからまだ浅く力を持たぬが故に同じ小さな精霊同士で集まり助け合う彼等はまだまだ幼い子供と同然なのである。


 これが永き年月を生き続けてその身に宿る魔力を高めた存在――上位精霊だったり、その上に君臨する精霊達を統べる者――精霊女王であれば話は変わってくるのだが……残念ながら俺の目の前に居るのは小さな精霊だけで、上位精霊は居なかった。精霊女王に関してはヴィリアティリア大国の傍にある森林地帯に居るらしく、その居場所を俺は知らない。


 だからこそ、小さな精霊にお願い事をする時は分かりやすく、間違えないように発言しなければならない。


 ――次からは絶対に細心の注意を払うことにする。


 耳に込めた魔力を霧散させた事で再び精霊達の声が聞こえなくなった今、目の前で楽しそうに首を傾げている精霊達を見て俺は心の中でそう力強く誓いを立てるのだった。


 と言うか――”王様”ってなに?












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 【作者からの一言】


 予定通り明日で三日目は終わりになります。

 そして、今回は個人的なご報告になってしまいますが、読者の【@ixionlazy】さんから素敵なコメント付きレビューを頂きました!!

 英文が書かれていたのですが、翻訳してしっかりと読ませて頂きました。

 本当にありがとうございます!!

 これからも本作は執筆し続けますので、どうぞよろしくお願いいたします!!


 【作者からのお願い】


 ここまでお読みくださりありがとうございます!

 作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!

 ご感想もお待ちしております!!


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