第299話 プリズテータ大国 三日目③






――【全域転移】を使って転移した場所は、別邸の大部屋でした。


 そして俺が転移してことに一切驚くことなく叱りつけて来た女性陣……お分かりいただけただろうか?

 全ては主犯格であるミラと実行犯であるフィオラの掌の上だったのだ。


 昨日、俺から外出したいという要望を受けたミラは即却下したが、どうやらその時の俺の反応を見て諦めていない可能性を考えたらしい。まあ、実際その通りですよ。


 俺がまだ諦めていないかもしれないと思ったミラは俺を捕獲する専用の網を設置する為に"結界魔法"の使い手であるフィオラに相談したらしい。


 その時の会話を要約すると……


『藍が王都へ行きたいと言ったけど、心配だから却下したわ。でも、まだ諦めていないと思うの』

『ラン君は話せば分かる子ですから、大丈夫なのでは?』

『いえ、あの子の事だから絶対こっそり行こうとする筈よ。だから、フィオラには転移阻害の結界を張って欲しいのよ』

『普通ので良いんですか?』

『駄目よ、あの子専用の結界を作らないと。設定は……』


 ……こんな感じである。


 いやあ、フィオラには申し訳ない。

 だから俺が大部屋へ転移して来た時に一番怒ってたのか。

 話しても分からない子でしたね……ごめんなさい。


 俺の捕獲用に作られた結界は"転送型"と呼ばれるタイプの結界らしい。その仕組みは特定の人物の魔力を予め設定しておくか、 結界の中に居る人物が外へ向けて"転移魔法"を発動した場合に作動する様になっていて、上記のどちらかに当てはまる人物を指定した場所へ強制的に転移させることが出来る様だ。


 この"転送型"はフィオラのオリジナル魔法であり、特に今回のやつはフィオラが幾重にも魔力を練り上げて作り出した自信作らしい。

 お陰で昨日は魔力の殆どを使い果たして、まだ疲労が残っているのだとか。本当に申し訳ない。


 こうしてフィオラの魔力を代償に生み出された捕獲網に、俺はまんまと引っかかってしまった訳だ。

 くっ……今度ウルギアに転移阻害を無効かするスキルを作ってもらわなければ。


 そう思ってウルギアへ視線を向けたのだが、それがいけなかった。目敏く俺の視線に気がついたミラがウルギアへと近寄り「藍に頼まれても転移阻害を突破出来るスキルを作っては駄目よ?」と言ったのだ。


 おのれぇ……!!


「ミラスティア・イル・アルヴィス。例え貴女の頼みであろうとも、藍様がそれを望むのなら私は作ります。私は藍様の為に存在する女神ですから」


 ウ、ウルギア……俺はいま泣きそうだよ。

 そんなに俺の事を思ってくれてるなんて……でもその割にはさっきまで凄い剣幕で叱って来たよね? ツンデレか? これがツンデレなのか?


 いや、もうそれでも良い!! お前は俺の味方だと信じて――


「――あら……ウルギアは甘いわね。それでは藍の為にはならないわよ?」

「……どういうことでしょうか?」

「良いこと? 藍の言う通りに、望むままに行動する事だけでは藍を駄目にしてしまうの。つまり……あなたが藍の望みを叶え続ける事で、藍の成長の妨げになってしまっているのよ」

「そんなッ……!?」


 ビシッとウルギアに指をさして言い切るミラの言葉に、ウルギアは驚いた顔を作り片足を一歩後ろへ下げる。

 ……あれ、なんかこの流れは不味くないか?


「わ、私の行動は……間違っていたのですか……」

「いや、ウルギア。お前は何もまちがッ――〜〜ッ!?」

「我を置いて外へ出ようとした罪……重いぞ?」


 ウルギアの心が揺らぎ始めていた為、俺は慌てて声を上げるがグラファルトが背後から俺の口を塞いで妨害し始めた。

 いや、お前はお前でライナや使用人達と楽しそうに訓練してたじゃん!!


 そうしている間にも膝から崩れ落ちたウルギアの元へ近づいて行ったミラはウルギアの肩へ手を置いて優しく微笑む。


「いいえ、全てが間違っていた訳では無いわ。要は本当にそれが藍の為になるのかが問題なの。これからはあなたの意思で、それが本当に藍の為になるのかを考えてから行動しなさい。例えそれが藍からのお願いであってもね?」

「……私に出来るのでしょうか? 今まで何も考えずに全ての望みを叶えてきたこの私に」

「出来るわ。あなたが本当に藍の事を大切に思っているならね。それでも不安になると言うのなら……一人で悩んだりせず、私に相談しなさい」

「ッ……ありがとうございます、ミラスティア・イル・アルヴィス。いえ、ミラスティア」


 なんだろう……感動的な場面の筈なのに全く響いてこないこの感じ。

 良い話風に纏めてはいるけど、要は『藍の我が儘に振り回されるな!! 事前に私に知らせろ!!』って事ですよね?


 結局、俺の抵抗も虚しくウルギアの考えはミラの教育洗脳によって改変されてまい、俺のぶらり王都旅の計画は頓挫してしまった。












 はぁ……プリズデータ大国に来てもお説教は相変わらずなんだなぁ。


 大部屋にてこってりと絞られた後、俺は勝手に抜け出そうとした罰と言う事で今日一日は自室での軟禁を命じられた。

 『外へ行こうとしていた人には効果抜群でしょう』と言う事らしい……くそぅ。


「あー……暇だ」


 自室での軟禁を命じられてからかれこれ一時間くらい経ったが……やる事がリハビリくらいしかない。

 時刻は現在朝の11時過ぎであり、昼食にはまだ早いしなぁ。


 ちなみに昼食は今日からバラバラに摂る事になっている。

 あ、これは俺の軟禁が発端ではないぞ?


 二日目の時にそれぞれにやる事があり、昼食に全員で集まるには時間が掛かるという事が判明した為、訓練組は訓練組で、王城に居る者はそのまま王城の食堂でと言った形で済ませる事になったのだ。


 訓練組と言うのはフィオラ、アーシェ、ライナ、グラファルト、レヴィラの五人。五人は訓練場で昼食を食べる様で、別邸には戻って来る事はないらしい。

 その言葉を聞いてレヴィラだけが顔を青くして居たけど……俺には(以下略)。


 ミラとウルギアは今後の俺の教育方針を話し合うらしく、そのまま大部屋に残っているらしい。多分あの二人はそのまま大部屋で昼食を摂るんだと思う。


 黒椿とトワ、そしてロゼは森にある我が家へと転移を使って戻って行った。あ、ちなみに俺の軟禁が決定した瞬間から転移阻害の結界は解除されたよ。頼みの綱のウルギアもミラの手中に落ちてしまったからな……。

 黒椿とトワは我が家の周囲にある俺が作った神社へと遊びに行くようだ。くそぅ……俺もいぎだがっだ!!!! 黒椿とトワに『罰だから!』と言って止められたけど。


 ロゼは工房に引き籠って物作りに励むらしい。最近のロゼはアルス村の発展の為に魔道具制作をミラから依頼されているので、それを作るそうだ。

 ミラは別に急ぎではないと常に言っているらしいが『ミーアに頼られるのがー、嬉しいー!』と言ってロゼがやる気になっているらしい。それが無くても、二日間も物作りをしていなかったので体が疼いて仕方がない様子ではあったが……あれって一種の禁断症状なのだろうか? ちょっとロゼが心配です。


 リィシアに関しては良く分からない。

 俺がお説教を受けていた最中に飽きたのか「……散歩」と言って出て行ったきりだ。大丈夫なのかとミラに聞いてみたが昼食には帰って来るだろうという事で、特に後を追う様な事はしないらしい。

 俺も「……散歩」って言えばすんなり外へ出れたのかな? いや、絶対連れ戻されるな。


 最後にユミラスだが、彼女は来客の対応があるという事で早々に大部屋から去って行った。

 何かと忙しい身であるのに、迷惑を掛けて申し訳ない……。俺がそう謝罪するとユミラスは微笑みを俺へと向けて――『それならば、心配を掛ける様な行動は控えましょう?』とそれはもう優しい口調で語り掛けて来た。そんなユミラスの言葉に、俺は深々と正座した状態で頭を下げるしかない。はい、それはもう御尤もです……。


 そんな訳で、それぞれが別々に集まっている状況で集合するのはそれなりの時間が掛かる。集まれなくはないが、無理して集まる必要もないと言う結論に至り昼食はバラバラに摂る事になった。


 ……俺の昼食はアリーシャが運んで来てくれる予定です。

 もしかしたら食堂に……!! なんて期待していた俺だったが、そう甘くはない様だ。


 リハビリもリハビリで、魔力操作の方は何の進展もない。糸口さえ見えればどうにかなるとは思うんだが……その糸口がさっぱりだ。右腕を動かす感覚については僅かに治りつつあるんだけど、それも一日二日でどうにかなる問題ではない。少なくとも一ヶ月以上は掛かると思っている。シーラネルに会う前に直しておきたかったけど、現実は上手くいかないものだな。


「……はぁ」


 右腕に込めていた力を解いて、俺はベッドにうつ伏せで倒れ込む。


「あー、外に出たい」

『――ならば、私が手を貸しましょう』

「ッ!?」


 不意に部屋に響く声に反応して、俺はベッドから飛び退いて部屋の奥……窓が付けられている壁へと背中をくっつけた。

 そうしていつでも窓から飛び降りれる様に警戒しつつも、正面へと視線を向ける。いつでも攻撃が出来る様に左手を軽く前へ出しておきながら瞬きをせずに凝視していると、何もなかった筈の空間が人型に歪み始めて……そこから焦げ茶色のローブを纏った人物が現れた。


 いつの間に……全く気づけなかったぞ!?


『どうしたんですか? 怯える事はありませんよ? 私です!』

「……いや、誰だ?」

『へっ?』


 まるで俺を知っているかの様に話すローブの人物。その声音を正確に聞き取ろうとするが頭に靄が掛かった様な感覚に陥り性別すら分からない。

 俺は更に警戒心を強めて何者かを聞いてみるが、ローブの人物は素っ頓狂な声を上げるだけだった。

 そして、しばらくの間の沈黙を置いてから……ローブの人物が『あっ!!』と大きな声を上げるのだった。


『も、申し訳ありません!! 声帯の認識阻害を解除し忘れていました……』

「声帯の……認識阻害?」


 俺がオウム返しをするとローブの人物は『はい、ちょっと待って下さいね? 攻撃しないでくださいね?』と慌てた様に言いながら右手を胸元へと翳し始めた。数秒程そうした後、ローブの人物はそのまま右手を上へとずらし頭に被っていたローブの横顔部分を少しだけ広げて――その正体を現す。


「一時的に外見の認識阻害も解いちゃいました。魔力が漏れ出てしまうのでローブは脱げませんが、これで分かりますかね?」

「一体……どういうことだ?」


 ローブの隙間から覗く虹色の瞳。ローブをずらしたことで収まっていた白に近い金髪の前髪も垂れ下がり……彼女の美しいその外見が俺の目に焼き付く。


「えへへ……藍くんがお困りの様でしたので、私が助けに来ちゃいました!」


 創世の女神――ファンカレア。

 フィエリティーゼを創りし世界の神でもある俺の奥さんは満面の笑みを浮かべながら……いつの間にかそこに立って居た。
















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 【作者からの一言】


 ここに来てまさかのダークホース降臨!

 宣言通りの御登場に、藍くんを含めた一同はパニック!!

 さあ、暴走した世界の神は果たしてどうやって藍くんを助けるつもりなのでしょうか!?


 【作者からのお願い】


 ここまでお読みくださりありがとうございます!

 作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!

 ご感想もお待ちしております!!


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