第298話 プリズデータ大国 三日目②






 ……よし、女子会はまだまだ続きそうだな。


 寝泊まりして居る部屋の扉を開けて外に耳を傾けると、未だに女性陣の楽しそうな声が微かに聞こえて来る。

 それを確認してから扉を閉めて、俺は左側に置かれていたテーブルセットの椅子に腰掛けた。


「……あっ、グラファルとの寝巻きテーブルに置いたままだった」


 ふと視線をテーブルに移せばグラファルトが寝る際にいつも着ている俺の黒いTシャツが放り投げられた状態で置かれていた。

 何度か普通の寝巻きにしろと注意したのだが「これが一番安心して眠れる」と言って頑なに変えようとしない。


 今のうちに亜空間に放り込んでおこうかとも考えたが、それはそれでグラファルトに怒られるか泣かれるか……はたまた両方かの三択が容易に想像できた為、俺は諦めてTシャツを畳んでベッドの上に置いおくことにした。


 こうして振り返ると、つくづく俺は女性陣に強く出れない人間なんだと思う。

 まあ、それはみんなの事を大事にしたいと言う意思の表れでもあるんだけど……いや、ごめんなさいカッコつけました。ただ怒られるのが怖いだけです。


 しかし、そんな臆病な俺も今日までだ!!

 今こそ男としての意地を見せる時……俺は自分の欲望に忠実に生きる!!


「よし……王都に行くぞ!!」


 そうと決まれば、まずは置き手紙を書いておくか。

 亜空間から紙とペンを取り出してテーブルの上に乗せる。


 うーん……”ちょっと王都に行ってきます。探さないでください。”……これでいいか。


 そうして手紙を書き終わった俺は【偽装】、【隠密】、”認識阻害魔法”を同時発動して、亜空間から麻色のローブを取り出して纏い準備を終えた。


『あー、あー……うん、いつもより低い声だ』


 【偽装】の効果で俺はいま40代くらいの茶髪の男になっている筈だ。試しに声を出して見たが、想像した通りの低めの声になっている。


 これなら仮に王都で見つかったとしてもバレる事はないだろう。一応グラファルトやミラの様に相手のステータスを見れる存在の事も考慮してそっちも【偽装】済みだ。

 名前は適当に”ワイズ”と言う名前にして、他のステータスに関してはアルス村の村長――ボルガラ――を参考にさせて貰った。


 これで諸々の準備は整った……後はアリーシャやミザさんに気づかれない様に転移を使って王都へ行けば完了だ!!


 勿論、王都付近へ転移する方法も考えている。

 普通であれば行ったことのない場所には転移することは出来ないみたいだけど、俺にはそれを可能にするスキルがあった。


 それは特殊スキル……【全域転移】である。


 【全域転移】はその名の通りフィエリティーゼの何処へでも転移が出来るという今の俺の為に生まれて来てくれたかの様な素晴らしいスキルだ。

 一度だけ試して見た事があったが、消費魔力に関しては通常の”転移魔法”の五倍と言った感じだから、俺にとっては些細な変化である。【全域転移】を使うと脳内にフィエリティーゼの世界地図みたいな物が表示されて、その地図はミラとフィオラから見せて貰った物と瓜二つであった。

 多分だけど、ミラとフィオラに地図を見せて貰った事で俺にわかり易い様に表示される様になったんじゃないかな? 森とか国の名前がちゃんと表示されてたから。


 ちなみに、この【全域転移】はウルギアが【改変】を使って作っていたスキルらしく、作られたのは俺が漆黒の魔力を暴走させてフィエリティーゼを覆い隠した後の事らしい。

 あの事件が無ければ生まれる事の無かったスキルらしいので、これはもう運命と言っても過言ではないと思う……ありがとう、ウルギア。

 良くやったぞ、俺……いや、勿論悪い事なのでしっかりと償っていきますけど……今日だけは許してください!!


「さて……女子会が終わる前に行きますか!! ――【全域転移】」


 【全域転移】の発動を意識すると俺の脳内に世界地図が広がり始める。


 えっと、現在地は北西だから……ここか。


 世界地図を拡大すると”プリズデータ大国”と書かれた場所があった。更に拡大すると中央には”王都―エルラス―”と書かれおり、その王都を囲む様にして五か所に別の名前が書かれている。


 まあ、とりあえず今は王都の正確な場所が分かれば良いから拡大だ。


 拡大すると北の広い区画に赤丸が一つ置かれているのが分かる。この赤丸は俺を表していて、つまりこの広い区画が王城がある場所と言う事だ。

 広い区画から南に下りていくと、森らしき暗めの色に挟まれた白い道が続いていて、そのまま下がっていくとやがてその道が色んな方向に入り組んだ場所へと辿り着いた。

 この細い道が下り坂で、細い道が色んな方向に入り組んで行ったのが王都って事か……。なら、王城寄りのこの入り組んだ道の一つに転移する事にしよう。


 そう判断した俺は早速入り組んだ道の一つを選んで【全域転移】の発動を念じる。

 すると、直ぐに魔法陣が足元に展開されて俺の転移が始まった。


 ミラ達には申し訳ないと思うけど、それでも俺は自分の好奇心を抑えることが出来ない……後でいっぱい怒られるから、今だけは許してくれ。


 心の中でそんな謝罪文を唱えながら俺はその瞳を閉じて転移が終わるのを待つ。


 いざ――王都へ!!

















 …………そろそろ良いかな?


 目を閉じている為、まだどんな場所に転移したのかは分からない。


 あれ、でもなんか外にしては静かすぎないか?


 朝と言ってもそんなに早い時間帯ではないし、もっと賑わっているものだと思ってたんだけど……もしかして、プリズデータでは午前は家で大人しくしているとか?


 そうして、不安になりつつも【全域転移】の発動が完了したと判断した俺はゆっくりと瞳を開いていく。


「お、おぉー…………ん?」


 目を開いた先には雪野積もった木々が映り、曇り空ではあるが一面が真っ白の美しい景色が広がっていた――――ガラスの向こうに。


 なんかこの景色、見覚えがあるような気が…………まさかッ!?


 足元を見れば見慣れた床、左右を見てみれば見慣れたインテリアが置かれている。そして、先程から感じる背後からの視線に怯えつつも振り返ると……そこには、女子会をしていた筈の女性陣が黒い笑みを浮かべながら立って居た。


「えっと……やあ!」


 何とか笑みを作って挨拶してみるが、女性陣からは何も返事が返って来ることは無く……そんな恐ろしいオーラを纏う女性陣を代表してグラファルトが一歩前へと歩いて来た。

 そして、声に出すことなく口を開いて何かを言っている。



――せ・い・ざ。



「……はぃ」


 有無を言わさぬみんなの雰囲気を感じて、俺は小さく返事を返すとそのまま床に正座をした。そんな女性陣達の中でユミラスとレヴィラの二人だけは苦笑と呆れ顔を作って俺を見ている。



 おかしい……どういうことだよ、【全域転移】さん!!!!













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 【作者からの一言】


 まあ、そんな上手くは行きませんよね……。

 そして、みんなの代表となりつつあるグラファルトさんでした。


 【作者からのお願い】


 ここまでお読みくださりありがとうございます!

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 ご感想もお待ちしております!!


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