第297話 プリズデータ大国 三日目①
プリズデータ大国に訪れて三日目。
陽が昇る少し前に目が覚めた俺は着替えを済ませてから外へと出て、右腕のリハビリを始めた。早朝にリハビリをする事は昨日のうちにみんなに説明してあるので問題ない。少しだけ心配はされちゃったけど。
外に出て三十分くらいは一人だったけど、途中から早起きのライナがやって来て俺が右腕を動かしている傍で日課だという剣の鍛錬をしていた。
ライナが少し離れた所で木剣を振る一方、俺はひたすら右手を開いて閉じて……右腕を上げて下げて……亜空間から取り出した木の椅子に座ってそれだけを繰り返している。
何も知らない人がみたら馬鹿にされそうな光景ではあるだろうが、実際に右腕をうごかしている俺からしてみればたまったもんじゃない。
このリハビリ……めちゃくちゃキツいのだ。
俺の右腕は一度、魂の回廊で精神体となっていた時に切断されている。その際に俺の右腕に蓄積された二十数年分の身体的記憶が喪失していて、元通りにするのは不可能だった。
形は複製できたとしても、培ってきた経験までは戻らないという事だ。
それの何が問題かと言うと、まず右手で魔力操作が出来なくなっていた。
全体に流すイメージで体内に魔力を循環させても、右腕に上手く魔力が流れない。細い糸が伸びる様な感じで巡っている感覚はあるのだが、どれだけ体内の魔力量を増やそうとも魔力量に比例する事無く細い糸状のままだった。
ただ、どうやら体外から覆うように魔力を解放する分には見た目は特に変化は無く”魔力装甲”などで服を作っても問題なく着ることが出来る。
しかし、右腕から魔力を解放しようとすると指先の一つに小さな炎が揺らめくような魔力しか生まれず、右腕を使って内側に宿る魔力を解放したり操る事は難しいようだった。
それ以外にも二日目の朝に確認した様に右腕に力が上手く入らないという問題もあり、現状では俺の右腕はほとんど使い物にならない状態だ。
この二つの問題を解決する為に体内で魔力を右腕に巡らせながら、体が力の入れ過ぎで震えるくらいの力を右腕に加えて動かしているので、現在俺が行っているリハビリは見た目以上にかなりキツイのだ。それはもう……顔を歪ませてしまうくらいに。
そうしてライナが木剣を振るう傍でやっていたリハビリは、いつの間にか鍛錬を終えていたライナに声を掛けられるまで続けていた。
魔力操作の方はいまいち成果が見えないが、物理的に右腕を動かす事に関しては本当に僅かではあるが加える力を減らす事が出来てきている為順調だと言えるだろう。
その後はライナと一緒に別邸まで戻り、俺は大浴場はライナに譲ってシャワー室へ入り汗を流す。そして汗が染みた軍服に”浄化魔法”を掛けてから着替えて、そのまま食堂へと足を運んだ。
食堂に着くと既にミラとアーシェの姿があり、俺は二人に挨拶をして昨日と同じ席に腰を落とす。
すると、どこからともなく現れたミザさんによって紅茶が差し出されて、紅茶を受け取りながらお礼を言うと「こちらこそ、ありがとうございました」と言葉を返されて、ミザさんそのまま食堂を後にしてしまった。……こちらこそ?
なんだか変な言い回しをしたミザさんを気にしつつも紅茶を飲んでいると、お風呂上りのライナとリィシアが入口から入って来て昨日と同じ席へ腰掛ける。そんな感じで次々と人が集まって来たのだが……グラファルトだけは全く起きて来る気配が無かった。
何処に行ってもぐっすり眠れるグラファルトの図太い性格に若干呆れつつも、そろそろ朝食が出来ると言う事なので俺はカップに入っていた紅茶を一気に飲み干してから、昨日と同じようにグラファルトを起こしに行った。
寝ぼけたグラファルトの手を取りながら食堂まで辿り着くと、既に朝食が並べられていたのでグラファルトを隣へと座らせて朝食を摂り始める。
プリズデータでの朝食は給食を彷彿とさせる雰囲気があり、銀色のプレートの上に大皿二枚と深皿が一枚ずつ置かれていて、大皿にはメインの肉料理と副菜のサラダが乗せられていて、深皿にはポタージュ状のスープが入れられている。またプレートが置かれている長テーブルの中央ラインには、それぞれが手を伸ばしやすい様に等間隔でパン山を作る様に乗せられたお皿が置かれていて、プレートの上の料理もパンもおかわりは自由の形式だ。
肉は簡単に噛み切れるくらいに柔らかくて美味しい。話に聞くと大きな鹿の魔物の肉の様だ。
野菜も新鮮なのかみずみずしくて食べやすく、特に野菜が大好きなリィシアが喜んで食べていた。
ポタージュのスープは複数の野菜とミルクが使われているのか優しい口触りに甘めの味付けでほっと一息つける感じでみんなも美味しそうに食べていた。
そんな風に美味しい朝食に舌鼓していたのだが……長テーブルの左端、ユミラスが座っている場所から何か視線を感じるんだよな。
「…………」
「ッ……~~ッ……」
視線を感じたのでユミラスに顔を向けるとばっちりと目が合い、目が合ったユミラスは顔を真っ赤にした俯いてしまう。
うーん……何かしちゃったかな?
その後も視線を感じては目が合い、そしてユミラスが顔を赤くして俯く流れが何回か続いて、流石にユミラスの事が少しだけ気になった俺は食事が終わるタイミングで隣に座るミラに相談すると、顔を赤らめているユミラスを一目見たミラは何故かその顔をニヤつかせて「ふぅ~ん……そういうことね」と呟いた。
その呟き以降何も言わなくなってしまったミラに俺が何か言おうとすると、俺以外の女性陣がいきなり立ち上がり……一斉にユミラスへと視線を向け始める。
「へっ!? あ、あの……」
いきなり大勢の視線を受けたユミラスは目に見える様に慌てるが、それを意に介さないと言わんばかりに女性陣はユミラスの近くへと足を進めてそのままユミラスを連れて何処かへ行ってしまった。
食堂を出る際にグラファルトは俺の方へと振り返ると「……はぁ」と小さく溜息を吐いて、呆れた様な視線を俺に送って来る。
結局その後もミラ達が戻って来る事はなく、朝食はそのまま終わりを迎えた。
ちなみに、二階の大部屋で休もうかなと思ったら扉の前に『男は立ち入り禁止』と書かれた木札が置かれていて、中からは内容までは分からないけど……なんだか楽しそうな声が漏れ聞こえていた。
いいなぁ……楽しそう。
ちょっとだけ疎外感を覚えて寂しくなったが、女性陣を敵に回すような行動をする度胸も無いので俺はそのまま自室へと戻る。
あ、もしかして今なら王都に行けるかな?
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【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!
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