第295話 プリズデータ大国 二日目(午後)④





 王城の廊下でユミラスとミザさんに会った後、俺はミザさんと別れてユミラスの先導の下ユミラスの部屋へと向かって歩いていた。

 俺を自室へと案内するユミラスは何処か楽しそうで、子供の様にはしゃいでいるユミラスを見ているだけでこっちまで楽しい気持ちになって来る。

 だからかは分からないが、ユミラスの部屋の前まで着くのにそこまで時間が掛かった様には思えなかった。


 両開きの扉を開いたユミラスに引かれて部屋の中へと入った俺は、扉から見て中央奥に置かれたソファーの一つに腰掛けていた。

 ユミラスはと言うと、部屋の左側に置かれていた収納棚を開き……明らかにお酒と思える瓶の入れ物を片手に持って、正面に置かれているソファーが空いているというのに俺の左隣りへと座って瓶の入れ物をテーブルに置いた。……あ、これワインかな?


 て、そうじゃない。


「あの……ユミラス?」

「はい!」

「いや、お酒はまずいんじゃ……」

「え、このお酒は美味しいですよ?」


 え、何この子!? 急に天然を出して来たんですけど!?


「そうじゃなくて! この後で来客の相手もするんだろう?」

「うっ……」


 あ、この子もしかしなくても忘れてたな?


 亜空間からグラスを二つ取り出したユミラスは、そのグラスを両手に一つずつ持ったままテーブル置くことなく固まってしまう。

 その顔は苦々しい表情をしており、俺と視線を合わせようとはしなかった。


 楽しそうにしている所を邪魔したくはないけど、それとこれとは話が別だ。わざわざ来てくれたお客様をぞんざいに扱ってはいけないと思うから。


「流石にお酒はやめておいたら? これが宴の席ならまだしも今はまだ昼間だし、酔っ払った状態じゃ相手に粗相をしてしまうかもよ?」


 ……まあ、状態回復の魔法があるから別に関係ないんだけど。


 ユミラスの顔色を伺ってみるが、どうやらその事には気づいていないみたいだ。

 昨晩も翌朝までレヴィラと飲み明かしてたみたいだし、ここらで控えさせて置いた方がいいだろう。

 そう判断して、俺は敢えて状態回復の魔法については話さない事にした。


 その後はユミラスの反応を見ていたのだが……どうやらユミラスは俺が想像していたよりも俺の言葉を重く受け止めてしまったようで、先程までの笑みを消してずーん……と暗い表情を作ってしまう。


「そうですよね……私とした事が、どうやら浮かれていた様です。本当に申し訳ございません……」


 そう口にした後、ユミラスは両手に持っていたグラスを一旦テーブルへ置いてから俺の方へと体を向けて、その頭を深々と下げ始めた。


 う、うーん……ちょっと重く受け止め過ぎやしませんか?

 それとも、何か飲みたい理由でもあったのだろうか?


「えっと……そんなに飲みたかったの?」

「その……折角ラン様と二人っきりになれたので……思い出作りに飲みたいなぁって……」

「…………」

「ラン様が御滞在なされる時間は僅か数日よ事ですので……それに、いつもはアーシェ様たちが居ますから……二人っきりとなると特別じゃないですか。ですから、二人だけの思い出を作りたくて――ラ、ラン様?」


 ……あぁもう!! こんなの飲む以外の選択肢なんて無いも同然じゃないか!!


 ユミラスがその顔を俯かせて微かに頬を染めながら話す最中、俺はユミラスの真っ直ぐな願いを聞いて直ぐテーブルに置かれていたワインの栓を抜いた。

 そして置かれた二つのグラスにワインを真ん中くらいまで注ぎ、ワインの入ったグラスの片方を左手で掴みユミラスへと渡す。

 手渡されたユミラスは混乱しながらもグラスを受け取り、俺とグラスを往復する様に視線を動かし続けた。


「はぁ……そんな事を言われたら、やめさせる訳にはいかないだろ」

「ラン様……ッ。そ、そのお気持ちは嬉しいですが……やっぱり、やめておいた方が……。私はお酒は好きなんですけど、その……酔いやすいみたいで……憧れのラン様が一緒となると、よ、酔いも早く回りそうで……」

「あー……その事なんだけど――」


 残念そうに受け取ったグラスをテーブルに置こうとしたユミラスに、俺は状態回復の魔法の存在について説明した。

 すると、ユミラスは頬をぷくぅっと膨らまして不満顔を作り始める。


「酷いですラン様! 最初から知っていたのに黙っているなんて……」

「いやいや、これでもユミラスの体を心配してたんだよ。朝方までレヴィラと飲んでいたって聞いてたし」

「……むう」


 俺が心配している事が伝わったのか、相変わらず頬は膨らませたままだったけどユミラスはそれ以上文句を言う事無くテーブルに置こうとしていたグラスを大事そうに両手で掴み始めた。


 そんなユミラスの様子に思わず苦笑を浮かべてしまうが、正直に話したので納得してもらいたい。


「ほら、来客の人を待たせる訳にもいかないんだから早く乾杯しよう?」

「……まあ、良いです。一緒に飲める事に変わりはありませんから。後、ご心配なさらずともメイド長であるミザがおもてなしをしてくれるらしいので、あと一時間くらいは大丈夫だとさっき念話がありました!」


 誤魔化す様にテーブルに残されたグラスを取ると、渋々といった感じでユミラスは口を尖らせながら納得してくれた。

 そして、さっきまでの不貞腐れた様な表情から一変して嬉しそうにしながら時間に少しの余裕がある事を告げられる。


 もしかして、ミザさんはこうなる事を予想していたのだろうか?


 ユミラスから語られたミザさんの行動を聞いて、改めてミザさんって優秀な人だなと思う俺だった。


「さあ、ラン様! 乾杯しましょう! おつまみなども色々と用意できます! お酒も沢山ありますので!!」


 ユミラスは俺とお酒を飲めることがよっぽど嬉しいのか、亜空間からチーズやハム、クラッカーと言ったおつまみ類とお酒が入っているであろう瓶を数本取り出した。


「わかったわかった。でも、幾ら状態回復の魔法があるからと言ってもあんまり飲み過ぎないようにな?」

「はい!」


 ちゃんと話を聞いているのかは分からないけど、嬉しそうに大きく頷いて答えるユミラスを見て「まあ、良いか」と思った。


 元々お酒はあまり飲んでこなかったから、昼間からお酒を飲むなんて地球に居た頃ではありえない話だけど……こんなに美人で中身は可愛らしいユミラスと一緒に飲めるならたまには良いかな。


 そうして俺達はお互いのグラスを軽く当て合い、二人揃って「乾杯」と声を上げるのだった。







「……ちなみに、ラン様はお酒は強い方ですか? 私は先程言った様に直ぐに酔ってしまうのですが、量はそこそこ飲める方だと思います!」

「うーん……実は、地球で暮らしていた頃からなんだけど――お酒で酔った事が無いんだよな」


 多分だけど、俺は日本で言う所の”ザル”なんだと思う。

 限界まで飲んでみようと思った事もあったけど、自分の限界を知るよりも先に財布の方が空っぽになっちゃってそれ以降は止めたんだよな。グラファルトとかお酒強いみたいだし、今度飲み比べでもしてみようかな。


 俺の話を聞いたユミラスは「私が酔って何か粗相をしてしまったら申し訳ございません……」と謝って来たので、怒らないから大丈夫だと言って既に空になっていたグラスにワインを注いであげた。


 そうして空になっては注いでと繰り返して4、5杯くらい飲み終わった後……ユミラスはその頬を真っ赤にして「えへへ」と楽しそうに笑い始める。どうやらもう酔っぱらっている様だ。


 ……ちょっとワインを注いであげるペースが早かったかな?













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 【作者からの一言】


 酔うのは早いけど、結構飲める人ってたまに居ますよね。

 親戚にそう言う人が居ました。


 次回は酔っぱらってしまっている事でユミラスさんの本心などもポロリするかもしれませんね……!!


 【作者からのお願い】


 ここまでお読みくださりありがとうございます!

 作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!

 ご感想もお待ちしております!!


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