第289話 プリズデータ大国 二日目③






 不満たらたらなレヴィラを宥め続けて、お昼は俺の手料理を振る舞う事で手を打ってもらった後、俺は王城へと戻るレヴィラとユミラスを見送り再び一人で別邸の周囲を散策していた。


 今はまだ朝の5時前で、二人は6時頃に別邸へと戻ってくる予定らしい。


 ちなみに二人が王城へと戻った理由は、ユミラスの荷造りをする為だ。

 というのも、俺からユミラスにもし差支えがなければ俺達が滞在している間は別邸で共に生活してはどうかと提案したのだ。


 どうもユミラスは俺に対して遠慮してるのか思っている事をあまり口には出さない。ただ、レヴィラと俺の話を聞いている際の表情を見ると羨ましそうにしている事が多いので分かりやすかった。

 レヴィラと昼食に関して話している時も、羨ましそうな……話に混ざれない事を寂しがっている様な表情をしていたので、せっかくだからと思いユミラスに俺達が滞在している間だけでも一緒に暮らそうと提案したのだ。


 最初は遠慮していたユミラスだったが、レヴィラの説得もあって最後には嬉しそうに何度も頷いていた。


 後でみんなにも説明しなくちゃいけないけど、特に文句を言う人はいないと思う。アーシェなんかは大喜びしそうだな。






「……さて」


 散策を終えた後、俺は別邸の玄関前にある広いスペースの中心に立ち……右腕を見る。


 呪われた魂からトワを救い出す為の戦いの後で動かなくなってしまった右腕。

 動かない原因は恐らく魂の損傷だろうと黒椿は言っていた。


 黒椿とウルギアは俺の右腕を治す為に魂の修復作業をしてくれていて、その修復作業が昨日の夜に終わったと教えられたのだ。

 教えられたのが夕食の途中だったこともあり念話を通して教えられた俺は思わず声をあげてしまった為、その場に居た全員に対して魂の修復作業が終わった事を伝えると次々と祝福してくれて事情を知らないユミラス以外の全員が安堵の表情を浮かべていたのを覚えている。


 正直、こんなに早く治るとは思っても居なかったから俺自身も凄く嬉しかった。


 その際にウルギアと黒椿に外へ出てきて貰い、驚きを隠せないでいるユミラスに事の経緯を説明して、ついでに【神装武具】を顕現させてトワにも出て来て貰った。


 現在三人は俺の体に戻る事はなく、ミラ達同様に外で生活をしている。

 ウルギアは魂の修復が終わった後でも俺の中に戻ろうとしていたが、折角自由に出入り出来る様になったんだから外の世界も楽しむ様に話して、とりあえずプリズデータ大国に滞在中は外で生活するようにと言っておいた。


 そして現在、俺は魂の修復が完了した右腕に力を入れてみる。


「…………ん?」


 あれ?


 右腕に意識を集中させて力を込めて見るが、いまいち力が込められている気がしない。筋肉が動いているからか、右腕自体は微かに震えている様に見えるが……握り拳を作るつもりで力を込めたのに、右手は開いた状態のままだった。


 一応確認の為に左腕へと視線を向けて同程度の力を込めてみると、ちゃんと左手は握り拳を作っている。どういうことだ?


 俺は検証を重ねる為に、今度は右腕にさっきよりも強い力を込めてみた。多分、左腕で同程度の力を込めたりしたら、指の爪が手のひらに食い込んで血が滲んでいると思う。


「……ッ」


 強い力を込めると、右腕が何かにその動きを止められている様な感覚を感じる。それでも力を込め続けるとゆっくりとした動作で右手が動き始めて、大きくその手を震わせながらも指が少しだけ関節ごとに曲がっていった。


 そこで俺は力を緩めることなく更に強めてみる。正直、力を込める度に痛みと違った右腕が痺れる様な感覚が脳に伝わってきて、滅茶苦茶しんどい。

 額からは自然と汗が流れて来て、たった数分しか経っていない筈なのに何時間も経過しているのではないかと錯覚してしまいそうになる。

 今すぐにでも止めてしまいたいが、それを堪えて途中で声を漏らしながらも右腕に力を込め続けた。


 そうして右腕の血管が浮き出る程に力を込め続けた結果、なんとか右手でも握り拳を作ることが出来た。しかし、握り拳を作るまでに掛かった時間は5分前後。どうやら魂の修復作業が終わったとしても、完全に右腕が使えるようになる訳では無い様だ。


「…………ふぅ」


 とりあえず検証は終わったので、右腕の力を抜いて肩を落とす。

 力を抜いた後で再度右腕を確認してみると、相当負荷が掛かっていたのかまだ微かに震えている様だった。


 これは少し長めのリハビリが必要かもしれない。果たして右腕を自由に動かせるまでどれくらい掛かるのか……。

 それにもし右腕が完治したとしても、痛みを感じ無くなっている方の問題がある。そっちが解決するのにも時間が掛かるかもしれないし、俺の体が元通りになるまでにはまだまだ時間が掛かりそうだ。


「……まあ、ゆっくりと療養させてもらおうかな」


 これ以上みんなに心配をかける訳にも行かないし、無茶なことはせず療養に専念するとしよう。


 邪神を倒して、転生者達を倒して、呪われた魂も倒した。


 これ以上、俺の周囲で何かが起こるなんて事は…………流石にないよな?


 朝の5時半すぎ。

 昇り始めた太陽を眺めながら、俺はそんな事を考えていた。












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 【作者からの一言】


 本日は執筆時間が取れず、短めとなっています。

 そして本編では藍くんまさかのフラグを立ててしまいました!!

 まあ、左腕だけしか使えないとしても藍くんが負ける事なんて不可能に近いですけど……。


 【作者からのお願い】


 ここまでお読みくださりありがとうございます!

 作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!

 ご感想もお待ちしております!!


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