第285話 閑話 他国からの来訪 中編
エルヴィス大国でヴォルトレーテ大国の第二王女――キリノ・ミナガワ・ヴォルトレーテの歓迎会が開かれている頃。
ラヴァール大国の中心地――職人街では夜になっても変わることなく騒音が響き渡っていた。
ラヴァール大国は他国とは違い王都も王が居るべき城もない。
この大国は元々、物作りの職人たちが”六色の魔女”の一色である”爆炎の魔女”――ロゼ・ル・ラヴァールの技術力を少し授かれればと願望を抱き集まった者達がロゼの近くに住み始めた事で出来た国だ。
その種族は様々ではあるが、物作りに特化した種族であるドワーフが圧倒的に多い。
まだラヴァールが国と呼ばれる前は、ドワーフを中心とした職人達がロゼに教えを乞い、ロゼは『指定した区画には立ち入らないこと』を条件に職人達に工房での作業現場を見せていた。
職人達は未知の技術に心を躍らせ、ロゼが指定した区画外を囲むように自分達の家を作り始め、次第に店も作り始める。そうして他所との交流も少しずつ増えて行き、また新たな職人達も住み着き、ロゼを中心とした職人達の町はやがて国へと成長していった。
とは言え、建国当時にロゼは国民となる職人達に対して『あくまでお飾りの王である』『ミーア――ミラスティア・イル・アルヴィス――に頼まれたから王位を持つ』『辞めてもいい事になったら直ぐにでも辞める』と宣言しており、当時ラヴァール大国で暮らしていた職人達もこれに納得している。
そして宣言通り、約300前にロゼはその王位を退いた。
ただ、ロゼは王としての何もしなかった訳では無い。
偶に自分の工房を出ては職人街へと足を伸ばして目に付いた工房に入り作業現場を眺めながらアドバイスをしたり、悪どい商売をしている者を見つけては自らの持つ権限を持って裁きを下していた。
当然、【闇魔力】を宿した暴徒たちが襲撃して来た際にも最前線に立ち、持ち前の"火炎魔法"と魔道具を駆使して戦い続けていたりした。
しかし、ロゼは弟子であるエルダードワーフ種が亡くなった事でもうラヴァール大国に対する執着も無くなって行った。
グラジアス・テルバ、享年354歳。
平均寿命が150歳前後のドワーフ種よりも長生きであったグラジアスは、亡くなる数ヶ月前まで握った金槌を置くこと無く振り続けていた――伝説のドワーフ種である。
肉親も居らず孤独だった幼少期に孤児であったグラジアスをロゼが見つけて、ロゼの技術の一つでもありドワーフ種が最も得意とする技術でもある"鍛冶"を興味本位で教え出した事から二人の師弟関係は始まった。
だが、師弟関係と思っていたのは周囲とグラジアスだけであり、ロゼはグラジアスの事を子供の様に可愛がっていたのだ。
そんなグラジアスが亡くなった後のロゼは真面に物作りが出来る状態ではなく、更にラヴァール大国の国民の『次は俺を弟子にしてくれ』『あの爺さんよりも俺の方が』と言った痛ましい声に嫌気がさしていた。
そうして悲しみ暮れている事数十年……ミラスティアから『自由に生きていい』と言われたロゼは、ラヴァール大国から出ていく事を決意するのだった。
そうして、ロゼが居なくなったラヴァール大国は次代の王がドワーフ種であった事もあり、元々多かったドワーフ種がさらに増え『ラヴァール大国=ドワーフの国』と言う構図が出来上がりつつある。
そして現在、二代目国王であるドワーフが亡くなり三代目として王がガノルドに代替わりした事で――ラヴァール大国は大きく変わりつつあった。
――職人街の中心地にある三階建ての白色に塗装された家。
魔鉄を主な材料としたこの家の内部には工房場以外の全ての部屋に温度を下げる魔道具が設置されている。
ラヴァール大国は一年を通して猛暑が続く土地である為、基本的には木や石を使った建物が多い。そして必ずと言って良いほど工房以外の屋内には温度を下げる魔道具が設置されているのだ。
「――待たせた」
白色に塗装された家の三階の一室に、家主であるラヴァール大国国王――ガノルド・ラヴァールが額の汗をタオルで拭いながら現れる。
ガノルドの入った月明かりのみが照らす部屋には奥の窓際にガラス製の四角いテーブルを置かれており、その左右には向かい合うような形で背もたれの無い椅子が置かれていた。
そして、二つの椅子の片方――ガノルドから見て左側の椅子――に、一人の獣人が座っている。
「お気になさらず。随分と熱中していたようですねぇ」
「……ふん、苛ついているなら素直に”遅い”と言えばいいだろうが――女狐」
「あらあら、それで気づいて下さるのなら既に言っていますよ――小人さん」
ガノルドの小言に対して、美しい小麦色の髪を月明かりに照らし妖艶な笑みを浮かべるのはヴィリアティリア大国の九代目国王――クォン・ノルジュ・ヴィリアティリア。
小麦色の長髪と狐耳、
しかし、ガノルドはそんなクォンの容姿を見ても尚悪態を吐き、妖艶に笑うクォンの薄っすらと開いたアメジスト色の瞳を睨み付けていた。
そんなガノルドの姿を見て、クォンは更に楽し気に笑う。
二人は目的こそ同じではあるが、決して仲が良い訳ではないのだ。
しばらくの間お互いに睨み続けていた二人だったが、不機嫌な様子で鼻を鳴らしたガノルドが筋肉質な腕で自らの長く茶色い顎鬚を撫でながら空いている席へと腰掛ける。そして亜空間から蒸留酒の瓶とコップを取り出すと勝手に注いで飲み始めた。
「あら、わたくしの分は用意して下さらないのですか?」
「……ドワーフから酒を貰おうとするなら、それなりの対価を寄越すんだな。そもそもお前は俺の飲む酒なんか飲まねぇだろ」
「ええ、勿論冗談です」
ガノルドの言葉に笑みを浮かべたままクォンはそう答えて、亜空間から葡萄酒とグラスを取り出した。
そんなクォンとのやり取りにガノルドは不機嫌そうに鼻を鳴らし、やはりこいつとは馬が合わないと心の中で呟く。
こうして、月明かりの下で二人の王による密会は開かれるのだった。
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【作者からの一言】
ごめんなさい!
執筆時間が思ったよりも取れず、その上ラヴァール大国の説明を書いていたら間に合わなくなってしまい中編とさせて頂きました。
次回は後編で必ず終わるように纏めます!
【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!
ご感想もお待ちしております!!
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