第281話 プリズデータ大国 一日目②
アーシェ達のもとへ戻ると、そこには見知らぬ女性が一人いた。
茶髪で短めの髪を風に揺らす給仕服の女性は、アーシェ達から一歩引いた所で待機しており、何故か俺の姿を見て驚いた表情を浮かべる。
「えっと……?」
「ッ……も、申し訳ありません! 私は女王陛下にお仕えする者の一人です。女王陛下より、皆様を謁見の間へとご案内するようにと仰せつかりました! こ、こちらになります」
慌てた様に頭を下げた後、茶髪の女性は開かれた城門へと翻し中へと進んで行く。
「……なんだったんだ?」
「多分、私が原因ね」
そう言うミラに顔を向けると、ミラは視線を俺の左腕へとおとした。
俺の左腕にはミラの両腕が絡まり、ミラが俺に寄り添う様な形になっている。
…………ん?
「えっと、何が原因なんだ?」
「…………はぁ」
え、なんで呆れられてるの?
俺は意味が分からず首を傾げることしか出来なかったが、何故かミラが呆れた様子で溜息を溢していた。
「あのねぇ、これでも私はこの世界を創造せし女神――ファンカレアの使徒である”六色の魔女”の一色なのよ? この世界の人たちにとって絶対的な強さを持つ私達は多かれ少なかれ畏れられる存在なの」
「う、うん」
「そして、あなたはそんな高位の存在である私と腕を組むような親しい関係だと見られたの。多分、あなたのことは特に報告を受けていなかったからあの使用人の子も驚いていたのよ」
「あー……そう言う事か」
要は、誰でも知っている様な国民的アイドルグループの一人が、知人とはいえ異性と腕を組んで歩いている場面を見て慌てていたと……。俺はそう解釈することにした。そう考えれば、流石にあそこまでオーバーでは無いけど俺も驚くと思う。
「うーん、正直ミラ達がこの世界においてどういう存在なのかを忘れてたよ。今後はそう言った事も含めて行動した方が良いかもな」
「あら、それには賛同できないわね」
俺が世界の常識を知り考えを改めようとした矢先、ミラが絡めていた両手に力を込めながら不満を口にし出した。
「周りの事なんて気にしなくて良いの。大体、街に出向く際には”認識阻害魔法”を使えばいいんだから。あなたに気を使われるのは嫌よ」
「そうだよ! わたしはランくんとデートしたいんだから!!」
アーシェまでもが抗議してきて、私も私もとみんなが反論してくる。俺はそんな女性陣に気圧されておぉ……っと小さく声を漏らしていた。
すると、いつの間にか右隣りへと着ていたグラファルトの姿が目に映り、グラファルトは気圧されている俺を見て楽し気に笑みを浮かべていた。
「我の旦那様は人気者だなぁ?」
「……絶対面白がってるだろ?」
「くくくっ……さぁな?」
小声で話しかけて来るグラファルトは絶対にこの状況を面白がっている。いつもは不貞腐れた様に頬を膨らますのに、今日に限っては玩具を見つけた子供の様な笑みを浮かべているからだ。
結局、俺は態度を改める事を諦めて今まで通りに接する事を女性陣に宣言する羽目になった。もちろんそこにはグラファルトも含まれている。
ちなみに……案内をしてくれる予定の茶髪の女性は、王城の敷地内に入り遠くから眺めるだけだった。待たせてごめんなさい……。
案内役の茶髪の女性の後に続いて入った王城の中は、何と言うか物々しい雰囲気だなぁって感じだ。
ここは偉い人がいる場所なんだという事を建物自体が示している気がする。
もうかれこれ十分以上、この物々しい雰囲気を感じながら過ごして思ったのは「俺には場違いな場所だな」という感想だった。
俺は地球で暮らしていた時も偉い人が居る場所に行く機会は無かった。一度だけ小学校の社会科見学で国会議事堂に行けるとなったが、その日は風邪をひいて参加できなかったので結局行けていない。
一応エルヴィス大国の王宮にも行った事はあるけど、あの時は色々と考える事が多くてそれどころじゃなかったからな……正直、こうして何もない状態でお城の中に入るのはちょっとだけ緊張する。
案内役の茶髪の女性の後にはアーシェが続き、アーシェの後にはミラとフィオラ、ロゼとライナ、リィシアとレヴィラの順に並び、最後に俺とグラファルトが並んで進んでいる。
隣を歩いていたグラファルトは、いつもとは違う俺の雰囲気を感じ取ったのかふっと小さく微笑み声を掛けて来た。
「なんだ、世界を救った英雄殿も王城の雰囲気に吞まれるのだな?」
「揶揄うな揶揄うな。どうも偉い人との会話は苦手なんだよ……それに、礼儀作法も言葉遣いもなってないからな」
「そんなの我だって一緒だ。まあ、慣れるしかないだろうな」
そうしてグラファルトと雑談していると、前に居たリィシアとレヴィラが足を止めた。どうやら謁見の間に辿り着いたらしい。
俺達が横並びに立った事を確認すると、茶髪の女性が少し強めに大きな扉を叩き、数秒の間をおいた後で声を上げて話し出した。
「女王陛下!! 御客人の皆様をここにお連れしました!!」
『――通せ』
「はっ!! ……それでは、私は外で待機しております。どうぞ、中へお入り下さい」
仰々しいやり取りを終えた茶髪の女性はこっちに振り返ると笑顔を見せて頭を下げる。
それが合図であったかの様に、大きな扉が中から内側に開かれていき……扉の向こうには一人の女性が立って居た。
「わざわざ御越し下さりありがとうございます。皆様が御越し下さるこの日を、女王陛下共々御待ちしておりました」
人よりも横に長い耳を持つエルフ種と思われる女性は、給仕服を身に纏い深々と頭を下げた。
そんな彼女にアーシェが足を進めて行き下げられた肩を掴み上げると、エルフ種の女性を抱きしめ始める。
「ミザちゃん固いよぉ……家族なんだから!!」
「ア、アーシエル様、私はメイド長で……」
「ううん、ミザちゃんはわたしとユミラスちゃんと一緒にずっと暮らして来た家族だよ! そう何度も言ってるでしょ!」
「で、ですが……」
アーシェにミザと呼ばれているエルフ種の女性は、その頬を少しだけ赤らめてオロオロとしてしまう。
うん、やりにくそうだなぁって思うよ。
仕事をしないといけないのに、お客様が身内だったら恥ずかしいもんね……。
アーシェに抱き締められたまま引き剥がすわけにもいかず困り果てたミザさんだったが、そんなミザさんを不憫に思ったのかフィオラが助け舟を出した。
「こら、アーシェ。幾ら家族と言えども、今はお仕事中なのです。その様に絡んでいないで、ミザにお仕事をさせてあげなさい」
「うぅ……わかったよ」
「フィオラ様、感謝いたします」
「いいえ、いつも愚妹が迷惑をかけているようで……」
「大事にされて居る自覚はありますので、迷惑ではありません。お仕事はさせて頂きたいと思いますが……」
「本当にすみません……」
苦笑を浮かべるミザさんに対して、フィオラはただただ謝り続けていた。そんな二人の間には頬を膨らませたアーシェの姿があり「もー!! 家族なんだからいいでしょー!!」と騒いでいる。いやそうだけど……。
俺が頭の中で言う前に案の定フィオラから「家族でも時と場所を考えなさい!」と叱られていた。
このまま続くのかなぁと見守っていると、すかさずミザさんが「それでは、どうぞ」と右端にそれてお辞儀をし始める。そこでフィオラとアーシェは女王を待たせている事に気づいてバツが悪そうにしながらも中へと入っていく。
再び二列になって進んだ先には、華やかなホールが広がっていて、奥には数段の階段らしきものがあった。足元に伸びた青い絨毯を進んで行き、みんなが足を止めた所で一連になって前を向く。
視界の先には階段の上にあるスペースに作られた玉座が映った。その玉座には、一人の女性が座っている。
美しくも長い金髪は、内側が青いインナーカラーで染められていて芸術品の様に思えた。
そして、美しい髪にも負けない大海の様に青いドレス。足の付け根あたりから入った右端のスリットから覗く素足は、白く綺麗な肌をしていた。
女性は凛とした佇まいで玉座に腰かけており、その血のように赤い瞳で俺達のことを見下ろしている。
この人が……ユミラス・アイズ・プリズデータ。
プリズデータ大国の二代目女王にして、アーシェの弟子である吸血種の始祖。
俺の知っている情報は少ないけど、この分だとアーシェから聞いた話は信じられないな……。
良い人なのかどうかに関してはまだなんとも言えないけど、少なくとも可愛いって感じじゃない思う。
王の風格というか、冷酷なことも迷わず出来るような覚悟を感じるというか。綺麗であるのは間違いないけど、可愛いと言う部類ではないだろう。
そんな事を考えていると、目の前に立つユミラス様は、ゆっくりとした所作で立ち上がり、その青のドレスを靡かせる。
そして一歩前へと歩き出し、大きく息を吸い口を開こうとする。
さあ、ディルク王に次いで二人目の王は、一体どれほどの――――
「――よ、よく来てくだひゃいました!!」
――人物…………あれ?
ユミラス様の声に、アーシェ以外の全員が頭を抑える。
そして、当人であるユミラス様は……立ち尽くした状態で今にも泣きそうになりながら、その顔を真っ赤に染め上げるのだった。
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【作者からの一言】
やっぱり弟子は残念だった!!
後でいっぱいミザに慰められるのでしょう。
【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!
ご感想もお待ちしております!!
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