第279話 出発式





――闇の月17日の朝。



 突如決まったプリズデータ大国への療養旅行。


 一昨日ミラ達に言われて、翌日に急いで準備を始めた。

 自分の荷物などは基本的に亜空間に入れるだけなので特に時間は掛からない。趣味の料理用にある程度の食器や調理器具を追加で亜空間へしまうくらいだ。


 荷造りが終わった後は特に準備する事がないのかベットで昼寝をしていたグラファルトを連れて神界へ転移した。

 既に知っているとは思うけど、ファンカレアに報告する為だ。神界でファンカレアと会い、もしかしたらしばらくは観光とかで神界へ来れないかもしれないことを伝えた。


 何か別れ際に「タイミングを見て私も行きますから」とか言ってたけど……冗談だと信じたい。

 その言葉を聞いたグラファルトが俺に向かって「諦めろ」とか言ってたけど……女神ジョークだと信じてる。

 最悪の場合は我が妻ミラ様を召喚だ。


 あ、そう言えば15日の夜にミラとは婚姻の儀を済ませた。

 ファンカレア達みたいにデートなんかした後で……って考えてたんだけど、どうやらミラは早い内に婚姻の儀を済ませたかったらしい。


『ロゼから指輪は貰っていたし、結婚に関しては私は二度目だからそこまでロマンチックにする必要はないわ。恋人らしい事をして貰える方が、私にとっては幸せよ?』


 そう言って、左手の薬指にはめた指輪を見せて来るミラは、妖艶に微笑んでいた。

 その指輪には紫色の宝石が埋め込まれていて、後でロゼに聞いたら【錬金】で生み出した特殊な石らしい。

 素材としてミラの魔力を込めた魔力石を使っているから、ミラの魔力に反応して埋め込まれた宝石が紫黒色に変わるらしい。

 これは一時的なものじゃなくて、定期的に魔力を流し込む事で少しづつ変化していくのだとか。


 完全な紫黒色へと変わるのは何年後なのか……二人で気長に待とうと笑いあったのは良い思い出だ。



 閑話休題。



 ファンカレアへの挨拶を済ませた後は、基本的にいつもと変わらない。いや、他のみんなはそれぞれにやる事があるみたいで忙しそうだった。特にフィオラとライナはそれぞれが建国した国に戻り各王にプリズデータ大国へ旅行に行くことを知らせに言ったりしていて、ついでに仕事の手伝いをしたりと忙しかったようだ。


 という話を、昨日の夕食時に聞いた。






 そうして早いうちに寝る様にと言われた翌日の今日、外出する時にはお決まりとなっている玄関前集合で、一番最初に俺が出たんだけど、途中で忘れ物に気づいて取りに行く羽目になってしまった為、最終的にはみんなを待たせる形で俺が最後となった。


「ごめん、遅くなった」


 外へ出ると既にみんな集まっていた。

 今回一緒に転移するのは俺とグラファルト、それに六色の魔女とレヴィラの九人。

 黒椿とウルギアは俺の中に宿り、トワも一時的にスキルを解除して俺の中に宿っている。


 レヴィラの同行に関しては、今朝決まった。

 レヴィラはプリズデータ大国の国王と親友らしく、顔を出しておきたいとの事。滞在自体も二日くらいの予定で、直ぐに帰るそうだ。


 ただ、朝食の時に突然「私も一緒に行ってもいい?」なんて切り出すものだから、フィオラが怖い笑みを浮かべていたんだよな……持ってるカップにヒビまで入れちゃうし。

 まあ、その気配を察知したレヴィラが直ぐに同行したい理由について説明したから丸くおさまったけど、朝からバイオレンスはちょっとね……。


「忘れ物は大丈夫か?」

「ああ、朝使ったままいつも使ってる包丁を忘れちゃって。もう大丈夫だ」


 グラファルトの問いに、俺は皮のケースにしまっていた包丁の刃を見せる。そしてグラファルトが見たのを確認した後で再び刃先を皮のケースへとしまいそのまま亜空間へと入れた。


 全員が揃ったところで、アーシェから声が掛けられる。


「よし、じゃあ準備万端だね! 向こうに行ってからも自由に此処に戻れるから、まだ何か忘れてたとしても大丈夫だよ!」


 今回の目的地がアーシェの故郷という事で、旅行の代表者はアーシェが務める。

 家に背を向けてみんなを見渡すアーシェの言葉に全員が頷くと、アーシェは満足そうに頷いて足元に魔力を集め始めた。


「とりあえず、今日一日はプリズデータの王城で過ごすことになると思う! 着いたら目の前に城門があるから、そこから歩く感じで中に入ろう!」

「昨日も聞いたけど、いきなり大人数で押しかけて大丈夫なのか?」


 この質問は昨日の夕食時にアーシェに言っていた。一応確認として同じ質問をしてみたのだが、大国の王城に何泊もするなんて……本当に大丈夫かな?


「大丈夫だよ〜、ユミラスちゃんから『歓迎の準備は出来ています』って、ちゃんと念話を貰ってるもん!」

「うーん……ならいいけど、まずはそのユミラス様? に挨拶はさせてくれ」

「うん! 私の国に着いたら、直ぐにユミラスちゃんの所に行くつもりだったから大丈夫!」


 満面の笑みを浮かべて右手でサムズアップするアーシェに苦笑しつつも、俺は質問を終えて自分の服装を確認する。


 俺が今着ているのは、軍服に似た形の服だ。

 色は黒で統一されていて、厚めの生地で作られている。

 ディルク王の時は緊急時だったから普通の服装だったけど、流石に大国の王に会うのだからしっかりとした服装で行きたい……そう思って昨日の内にロゼに注文した特注品だ。

 注文の時に”偉い人に会っても失礼にならない服”って言って注文したんだけど……何故か軍服っぽい形になっていた。

 ロゼは満足そうにしていて『注文通りだよー』って言ってたけど――作業机に置かれていたコスプレ写真集を俺は決して忘れない。絶対興味本位で作ったんだと思う。


 ついでにグラファルトの分も頼んで置いたが、グラファルトのは俺の軍服を基に丈の短いズボン、ハイソックス、厚底ブーツと女性バージョンにアレンジされ、その色も黒とは反対の白になっていた。


 一応心配になって試しに昨日の夜に二人で試着をして、みんなの前に出てみたが……反応は二つに分かれた。

 特に問題ないと判断し寧ろ素敵だと褒めてくれる純フィエリティーゼメンバーと、この服装が何をモチーフにして作られているかを知っているミラ、黒椿の二名だ。


 とりあえず、純フィエリティーゼメンバーには好評だったので着る事にはしたけど、ちょっと恥ずかしい。

 グラファルトは俺とお揃いという事で凄く喜んでるけど……完全にコスプレなんだよな……。


「よし、それじゃあそろそろ行くよ~!!」


 俺が苦笑を浮かべていると、アーシェから号令が掛かる。

 そんなアーシェの声に俺達は短く頷き答えると、アーシェが発動した”転移魔法”が作動して、俺達の視界は一瞬だけ光に包まれる。


 こうして、俺の療養の為の旅行は始まったのだった。











@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@


【作者からの一言】


 遅れてしまって申し訳ございません。

 梅雨に入ってからどうも体調が良くなくて、遅くなってしまいました。


 【作者からのお願い】


 ここまでお読みくださりありがとうございます!

 作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!

 ご感想もお待ちしております!!


@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る