第271話 閑話 消えて、癒えない”痛み” 前編






 藍がレヴィラとお茶会を開いている頃、地下施設である訓練場では森の家に住む女性陣(ウルギア・黒椿・ファンカレアも含む)が集まり、訓練場の中央に設置した円卓を囲み座っていた。


 ちなみに、カミールは地球の管理をする仕事がある為不在、藍と黒椿の魔力から生まれた娘――トワは藍の傍に居る。


 ラフィルナの花畑で新たな名前を贈られた日と同じ日に、藍の持つ【神装武具】――漆黒の封剣――に宿る事に成功したからだ。

 藍がレヴィラと話している間は、剣状態で藍の左隣の椅子に置かれている。


 今回の集まりに関してはトワは不参加を表明した。

 早朝に黒椿が誘ったが『今日はパパと一緒がいい』と口にして藍の傍から離れなかったのだ。


 そのトワの言葉を聞いて……藍は嬉しさのあまり膝を着いて泣いた。



 そうして、藍がレヴィラと話をしている間に訓練場に集まった十人は、いつもとは違う重い雰囲気を纏い顔を見合わせてる。


「――それで、わざわざ藍と離れてまでしたい話って何かしら?」

「……それも、ラナお姉ちゃんとグラお姉ちゃんの二人から。……珍しい」


 ミラスティアの言葉にコクコクと頷きながら話すリィシア。


 そんな二人に対して並ぶように座るライナとグラファルトは、真剣な顔を見合わせて頷き合うと、正面へと向き直り事の経緯ついて話し始める。


「まずは集まってくれてありがとう。今日集まって貰ったのは、僕とグラファルトが感じたランの異変に関して皆の意見を聞かせて欲しいと思ったからなんだ」

「異変……ですか?」

「ああ、ウルギアなら、何か知っておるのでは無いかと思ってな?」


 フィオラの言葉に頷いたグラファルトがウルギアへと視線を向けるが、ウルギアは我関せずと言わんばかりに目を伏せ無視する。

 その態度にグラファルトが笑顔を作るが、その額には青筋が浮かんでいた。


「くっ……相変わらずだな」

「…………」

「まあまあ、落ち着いて。まずは皆に情報の共有をしないとね」

「ふん……」


 苛立つグラファルトを宥めたライナは、咳払いを一つすると話を再開させる。


「実は、昨日ようやく再開出来た戦闘訓練で問題があってね……」

「そういえば、ミラ姉に許可貰おうとしてたね? 『四日も前に包帯は外れたんだから、右腕を真面に動かせないとしてもいいだろ?』って」

「あの包帯はまだ体内に呪いが残っていた場合、魂の欠損がある右腕から外へも漏れる可能性があったから着けただけで、あくまでそれを防ぐための保険だったから藍が戦闘訓練を出来る様になった訳ではなかったのだけれど……あまりに騒ぐからとりあえず許可を出したのよね」


 アーシエルから向けられた視線を受けて、ミラスティアはため息混じりにそう答えた。


「それでー、問題ってなにー?」

「もしかして、怪我をしていたのは右腕だけではなかったんですか?!」

「ちょっ、ファンカレア落ち着いて……」

「ですが、もし藍くんに何かあったと思うと……」


 ロゼ続いて声を上げたファンカレアは円卓を両手で強く叩きつける。

 そんな興奮状態のファンカレアを黒椿は宥めるが、それでもファンカレアの瞳から不安が取り除かれることは無かった。


 ファンカレアの言葉によってその場の空気が重くなる。

 そんな中、今まで沈黙を貫いていたウルギアがその口を開いた。


「まだ、調べている途中だったので、余計な混乱を招かぬようにしていたのですが……そうはいかなくなりましたね」

「グラファルトの予想通り、何か知っているみたいだね?」


 ライナの問いに全員の視線がウルギアへと向けられる。

 そこで逃れられないと悟ったウルギアは溜息を吐きながらも答え始めた。


「そこの駄竜とライナ・ティル・ヴォルトレーテが言いたいのは、恐らく藍様の”痛み”に対する反応についてでしょう」

「どういうこと?」

「……戦闘訓練をしていて初めて気づいたんだけど、どうやらランは”痛み”に関して感覚が鈍くなっている――いや、もしかしたら"痛み"を全く感じていない可能性があるんだ」


『!?』


 ミラスティアの問いに答えたライナの発言に、グラファルトとウルギア以外の全員の顔が驚愕に染まった。


「――左腕でのみ戦っていた藍は、右腕が動かない弊害か思うように体を動かす事が出来ずにいた。その影響で閃光の奴の攻撃を避ける寸前で体勢を大きく崩してな? 閃光の奴から重い一撃を貰ったんだ。今までであれば耐性スキルでは耐えられない閃光の奴の一撃に苦痛で顔を歪め身を引く筈なのに、その時は痛がる素振りを全く見せる事無く閃光の奴に向かって行った。今思えばそれが違和感を感じた始まりだったな」

「あの一撃は、僕にとっても予想外だったよ。久しぶりの戦闘訓練だから最初は不規則な動きはせずに避けられる前提の攻撃しかしてなかったからね。避けると思って加減もしていなかったから、痛い筈の攻撃を受けても表情を変えずに向かってきた時には……本当に驚いた」

「本来ならそこで一度止めるべきなのだが、その一撃以降は特に問題なく続いたから、我らは特に気にすることなく訓練を続けたのだ」


 当時の事を振り返り、グラファルトとライナはその場に居る全員に戦闘訓練で感じた違和感について説明し始めた。

 そして次に、藍の体に異常が起きていると確信した出来事についてグラファルトが語り始める。


「でも、その次の実戦形式の訓練に移行した時に……明らかにおかしいと感じる出来事が起きた」

「い、一体何があったんですか?」


 その表情を暗くして話し始めたグラファルトに、ファンカレアは不安を募らせる。


 そんなファンカレアの不安混じりの問いから数秒を置いて……深く息を吐いたグラファルトは重々しくその口を開いた。


「閃光の奴が発動した”魔法武装マジック・アーマメント”によって生まれた一本の魔法剣が、防ぎきれなかった右足の太ももに突き刺さったのだ」

「ッ!? ら、藍くんは!? 今は何とも無いんですか!?」

「大丈夫ですよファンカレア。戦闘を行っていた場所には、私がラーナに頼まれて事前に結界を張っていましたので。結界の外へ出れば傷は瞬時に癒えますし、致命傷であれば強制的に結界の外へと転移されますから」

「そ、そうですか……」


 藍が大怪我をしたと聞いたファンカレアが取り乱すが、フィオラが結界について丁寧に説明をすると、藍が無傷だと理解しその表情に安堵を浮かべる。

 そうしてファンカレアが落ち着いたところで、ライナとグラファルトは話を再開した。


「流石に焦ったよ。僕も実戦形式だとテンションが上がって勝つことに拘っちゃうから、ランが真っ直ぐに突っ込んで来たところを剣で吹き飛ばして、後方に下がっている瞬間に魔法剣を十本くらい向かわせたんだけど……その時に、ランが右腕を使えないんだって思い出してね……」

「あはは、ラナちゃんは相変わらずだね~……」

「反省してるよ……ランも頑張って応戦していたけど、流石に捌ききれなくて右の太ももに刺さっちゃってね。あの時は、本当に血の気が引いたのを覚えてる」


 ライナが戦いになると我を忘れる性格をしているのは、この場に居る全員が理解している事である為、全員を代表するようにアーシエルが苦笑を浮かべながらも声を掛ける。

 そんなアーシエルの言葉に、ライナもまた苦笑を浮かべながら答えた。


「だけど、その後のランの行動はちょっと恐ろしかったよ……だって、自分の訓練用の剣を地面に突き刺したかと思ったら、太ももに突き刺さった魔法剣を引き抜いたんだから」

「それも、全く痛がることなくな。心配して声を掛けたのだが平然としていたのだぞ? 流石におかしいと思うだろう?」

「結局、訓練はそこまでにして、ランには適当に理由を付けて先に帰って貰ったんだよね。その後で、僕とグラファルトの二人で話し合ってこれは僕達だけで対処できる問題ではないと判断したから、レヴィラちゃんが来る今日皆に話す事にしたんだ」

『…………』


 そこで話を終わらせるライナとグラファルト。

 二人の話を聞いた一同はあまりに衝撃的な内容に息を呑んでいた。


 そうして、しばらくの間その場に沈黙が続いたのだが、大きく一呼吸を置いたミラスティアがウルギアに対して声を掛ける。


「大体の話は理解できたわ……それで、ウルギアはこの問題に対する答えを知っているの?」

「……明確には、理解していません。ですが、推測でも良いのであれば話せます」

「良いわ。今は少しでも情報が欲しいから。話してもらえないかしら?」


 ウルギアの目を真っ直ぐに見つめるミラスティア。


 そんなミラスティアの視線を受けたウルギアは、一度だけその頭を縦に振りその推測について話し始める。










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 ここで挟むべきか悩みましたが、その裏では……みたいな流れにしたいと思い書く事にしました。

 前編、後編に分けます。


 【作者からのお願い】


 ここまでお読みくださりありがとうございます!


 作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!


 ご感想もお待ちしております!!


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