第266話 娘は生きる意味を見つけた④
あれからプレデターを泣き止ませて、今度は「良かったねぇ」と言いながら溢れる涙を溢し始めた黒椿を泣き止ませてと忙しなく動いていた。
そうして気づけば時刻は夜中の2時。
昨日から数回に分けて寝ているとはいえ、濃い一日を経験したからか幾ら寝ても寝足りないのが実情だ。
本当なら直ぐに家へと転移して眠るべきなんだろう。それに、プレデターは神族であり普通の人間ではないとは言え俺達の子供だ。子供がこんな夜遅くまで起きて外へ出ているのは宜しくない。
だから、早く転移をするべき……なんだけど……。
「えへへ」
「……娘が可愛いッ」
胡座を組む俺の足の上に、プレデターが背を向ける様にして座っている。
泣き止んだ後に「何かして欲しいことはないか?」と聞いたら、これをお願いされたのだ。
娘の為なら何でもしてあげるつもりでいたので、もっと無茶なお願いでも構わないのだが……俺の足の上できゃっきゃっと喜ぶ娘を見ていたらまぁいいかと思える。
そうだ、俺の足はきっと娘を乗せるためについているんだ。
「……もっと座り心地が良くなるように【改変】するか?」
「おーい、真面目な顔で変なことを考えるのは止めようね?」
足の改良を考えていたら左隣に座って俺の腕に抱きついていた黒椿に注意される。
「失敬な! 俺は真剣だ!!」
「なお悪いわ!!」
「パパ? 私は今のパパの足の上が好きだよ?」
「よし、じゃあ【改変】は止めよう!」
「駄目だ……藍が親バカになってるよ……」
隣から呆れたような溜息混じりの声が聞こえるけど気にしない。
俺は娘にはとことん甘いお父さんなのだ。
上へと顔を向けて俺を見るプレデターの頬っぺを続くと「えへへ」と言う可愛らしい反応が返ってきた。
「……どうしよう。娘が可愛い」
「うん、そうだね……もう十回は聞いたよ」
相変わらず呆れたような声が聞こえてくるが気にしない!!
娘は可愛いのだ!!
「プレデター、他になにかお願いはないのか? お前の為ならパパは世界をも征服するぞ?」
「こらこらこら!! 娘の為に魔王みたいな事をしようとしない!! ……でも、プレデターちゃんは遠慮なくなんでも言ってね? 叶えられることはママとパパが叶えるから!!」
俺の発言にツッコミを入れつつも、プレデターには甘々な黒椿……人のことを言えないのでは?
ジーッと黒椿を見たらサッと視線を逸らされた。うん、自覚があるのなら宜しい。
プレデターはと言うと「え? え?」と混乱したように小さく言った後、唸り声を上げながら腕を組み考え始めた。
「……可愛い」
「うん、プレデターちゃんは腕を組んでいる姿も可愛いね」
親バカな自覚はある。しかし止める者は誰もいない! そして止められてもやめるつもりはない!!
娘は宝なのだ。
そんな風に黒椿と共にプレデターの様子を見ていると、プレデターから「あっ」という小さい声が漏れ出る。
遂に願い事が決まったのかと思ってワクワクしながらプレデターの言葉を待っていると、プレデターは申し訳なさそうな顔で黒椿を見ていた。
「ん? どうしたの?」
その視線に気づいた黒椿が優しい笑顔でそう言うと、おもむろにプレデターの頭に手を置いて撫で始めた。
「あ、あのね……ママとか、ファンカレアお姉ちゃんが頑張ってくれたお陰で、私は神様になれたけど……でも、その……」
「……遠慮しなくていいんだよ? 僕は君の母親なんだから」
口篭るプレデターに黒椿は優しく声をかけて微笑んだ。
えっ、ちょっと待って。
"ファンカレアお姉ちゃん"ってワードが衝撃的過ぎて話が入ってこない!!
もしかして俺と黒椿以外の人たちの事は”お姉ちゃん”を付けて呼ぶことにしたのか?
ウルギアなら”ウルギアお姉ちゃん”、ミラなら”ミラスティアお姉ちゃん”みたいに。
何それ、可愛いんだけど!?
俺もお兄ちゃんって呼ばれたい!!
あ、でも駄目だ。パパって呼ばれた方が嬉しい。でも……くっ、俺はどうしたら……!!
「……じゃ、じゃあね」
しかし、そんな俺の心境とは裏腹に話はどんどん進んでいく。
そして、プレデターは叶えたい願い事について話し始めるのだった。
「私……神格が無くなっても良いから……パパの魔力と繋がってたいな……」
「よし、【改変】で――」
「ちょっと待とう!? これでも一応僕とファンカレアで頑張ったんだけど!? せめて、神格は残す方向で考えよう!?」
早速プレデターの願いを叶えるべく【改変】を使おうと魔力を解放すると、黒椿が必死な様子で待ったを掛かてきたので魔力を霧散させた。
確かに黒椿の意見は最もだろう。
ファンカレアと協力して創り上げた神格。それを無かったことにするのは勿体ない。
ただ、プレデターのお願いも叶えてあげたいから、ここは妥協案として神格を宿しつつも、俺との魔力的繋がりが出来る方法を……。
「――【神装武具】か?」
ふと、脳裏に思い浮かんだのは、神器とも言える【神装武具】の存在だった。
「元々プレデターは【漆黒の略奪者】の管理者権限の一部を譲渡されていたお陰で、魔力の供給を続けられていたんだろ? 幸いなことに【神装武具】は自我のないスキルだし、そこに宿る様に改変すれば何とかなるんじゃないか?」
「そうだね……元々【神装武具】には色々と制限を掛ける為にファンカレアの魔力が含まれているから、【改変】を使って魔力だけを抜き取りそこにプレデターちゃんを取り込めば……でも、藍のステータスって今はグラファルトと共有してるんだよね?」
「ああ、それも前よりも強力な形でな。確か、固有スキルも使えるようになってる筈だ」
グラファルトの共命者である俺は本来であれば竜種にしか使えない筈の固有スキルも使えるようになっている。
まだ使った事はないけど、【竜の息吹】と【竜化】が使えるのかは試しておきたいところだな。
「うーん……となると、【神装武具】も一つになったって事だよね? その場合、【神装武具】で生み出された神器はちゃんと二人分あるのかな?」
「魂の回廊から抜け出した時は、ちゃんと双黒の封剣を使えたけど……そう言えば、ステータス画面を確認してなかったな。ちょっと見てみるか」
そうして、俺はステータス画面を確認する為に足の上に乗せていたプレデターの少し前方へと手を翳して「ステータス」と口にした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
名前 制空藍
種族 共命者(人種・竜種)
レベル ―――
状態:”共命(グラファルト・ヴァヴィラ・ドラグニル)”、”???”
妻 グラファルト・ヴァヴィラ・ドラグニル
妻 黒椿
妻 ファンカレア
スキル:~非表示(――)~
固有スキル:【竜の息吹】【竜の咆哮】【人化】【竜化】【眷属創造】【地脈操作】【水流操作】【火炎操作】
特殊スキル:【改変】【漆黒の略奪者】【白銀の暴食者】【魔法属性:全能】【叡智の瞳】【スキル合成】【スキル復元】【創造魔法】【神性魔法】【神眼】【千里眼】【隠密S】【不老不死】【精霊召喚(黒椿)】【女神召喚(黒椿・ファンカレア・ウルギア)】【状態異常無効】【精神汚染耐性EX】【物理耐性EX】【神速】【神装武具(共命剣ファルート・双黒の封剣)】【全域転移】【万物鑑定EX】【武術の心得EX】【家事の心得EX】【浮遊】【空歩】【錬金の心得S】【鍛冶の心得S】【魔導の心得EX】【審判の瞳EX】【スキル封印】【詠唱破棄】【並列思考】【封印耐性EX】【威圧EX】【冷静沈着】【スキル複製】【気配察知EX】【ステータス隠蔽EX】【魔力察知EX】【スキル譲渡】【遮音】【偽装】【スキル成長値増加】【修練の賜物】
称号 【精霊に愛されし者】【黒椿の加護】【異世界からの転生者】【女神の寵愛を受けし者】【魔法を極めし者】【魔竜王の主】【略奪の主】【厄災を打ち砕く者】【超越者】【料理の達人】【カミールの加護】【魔竜王の伴侶】【女神の伴侶】【精霊の伴侶】【共命者】
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
おお、なんか色々と変わってる……。
上から下へと見て行くと細々とした変化があった。
「どれどれー? 種族名が”共命者”? これって隣に書かれてる種族として扱われるって事かな?」
「た、多分……なんかそれっぽい説明を光の中で受けた気がする……」
「ふぅん? ねぇねぇ、状態の所にある”???”って何だろう?」
「……わからん」
「ええ……それって大丈夫なの?」
ジト目を向けて来る黒椿から視線を逸らすことにする。
知らないよ!! 俺だって今確認したばかりなんだから!!
いつの間にか通常スキルなんて個数を確認できなくなってるし、絶対ウルギアだろ!? 俺が寝てる間にスキル大量に創り出しただろ!?
「自分が知らない内に魔改造が施されている……」
「げ、元気出してパパ……」
ああああ、娘が可愛い……!!
黒椿の視線なんか気にしない!! 俺は娘を抱きしめて荒んだ心を癒すんだ!!
「……はぁ。まあ、色々と変わってるみたいだから、その辺りの事はまた後日試してみるしかないね。それで? 他には何か気になる事はないの?」
「うーん……」
黒椿に「真面目に探して」と訴えかけられて、俺は渋々現実と向き合う事にする。
気になる事かー……しいて言えば、特殊スキルだな。
「【創造魔法】と【神性魔法】が使えるようになってるな。前は確か”神属性の魔力が不足しています”って出てた筈だ」
「あ、本当だ。もしかしてこれの所為かな?」
そうして黒椿が指さした場所には【魔法属性:全能】があった。
あれ、そう言えばこのスキルも前は【魔法属性:全】だった様な……。
「全能へ進化したことで、神属性の魔力も生み出せるようになったって事か?」
「うん。それか、グラファルトとの共命で統合された神属性の魔力が二つのスキルを使う領域まで増えたかだね」
「ああ、その線もあったか」
俺とグラファルトは一度共命を断った時に、それぞれの魔力量もまた分断された。
しかし、【改変】を使って意図的に断ったので魔力量の調整等は俺とウルギアで自由に変えることが出来る。その為、共命を断ったとしても魔力量が変わらない様に調節していた。
その状態から再び共命を結ぶことになったので、その時に俺とグラファルトの魔力は統合され、実質二倍になっている。
神属性の魔力は特殊な魔力で、神聖魔法――または権能を行使する際にしか使えないと言う。世界を管理する訳ではない唯の生命にとっては不要の魔力だ。その為使用料に達していなかった神属性の魔力は自然とそれぞれの肉体に溜め込まれたままであり、今回の共命を以て神属性の魔力量も二倍となった。
その結果として、今までは使えなかった【創造魔法】と【神性魔法】が使えるようになったのではないかと言うのが黒椿の見解らしい。
「まあ、どっちにしても、これも後日検証だな」
「だね。後は【精神汚染耐性】が強化されたのと……あっ、【神装武具】はちゃんと二人分あるんだね」
そう言って黒椿が指を動かした先には【神装武具】が載っていた。
「共命剣ファルート……これがグラファルトの【神装武具】か」
「多分、管理者権限も半々なんじゃないかな? 共命剣ファルートがグラファルトで、双黒の封剣が藍って感じに。それなら、双黒の封剣の分をプレデターちゃんに譲渡すれば何とかなると思う」
「そうか……なら、明日にでもグラファルトに――お?」
グラファルトに一応確認するかと言おうとしたタイミングで、前方に魔力が集まる気配を感じた。
しばらく眺めていると、魔力は風を生み出しラフィルナの花を乗せて舞い踊る。
やがて無色透明だった魔力はその濃度を高めていき白銀の魔力へと姿を変えるのだった。
ここまでの時間は数秒にも満たないくらいだろう。しかし、そのあまりにも美しい光景は時間という概念を忘れさせてしまうほどに綺麗だった。
「――藍の姿が無いと思ったら……一体何をしておるのだ?」
霧散する白銀の魔力に変わって、誰も居なかったはずのその空間に、一人の少女が姿を現す。
――魔竜王、グラファルト・ヴァヴィラ・ドラグニル。
俺の妻であり、魂を共にする共命者。
染まりきった灰色の髪を靡かせて、少女は黒いTシャツ一枚を纏い現れた。
……いや、なんでその服!?
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今日の話辺りからいつものほのぼのと言いますか、日常パート多めに戻る予定です。
【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!
ご感想もお待ちしております!!
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