第264話 娘は生きる意味を見つけた②






 今回の目的である愛娘――プレデターの救出は成功した。


 黒椿やファンカレア、それにグラファルトの話を聞けば神格を宿す事にも成功して、無事神族の仲間入りをした様だ。

 ただ、その器は強い力を持たない下級神程度に抑えられているらしい。


 理由としては、変に力をつけすぎると無意識に周囲に影響を及ぼしたり、後はまあ……大きすぎる力は、制御するまでが大変だからというのが理由だ。


 そして、プレデターは俺達が眠っていた隣に同じように眠っていたらしいのだが……俺が目を覚ました時には、既にいなかったんだよな。



(なあ、四人に聞きたいんだけど……プレデターはどうしてるんだ?)

(…………)


 あれ?


(ええっと……?)

(…………)


 四人から返事が返って来ることなく、いつまで経っても無言のまま。

 もしかしたら、何か問題が起きたのかと思って不安になる。


(もしかして、深刻な問題でも起きたのか!? 無事なんだよな!? もし、俺に出来る事があったら――)

(あー、すまん。別にそこまで深刻って訳じゃあ――いや、深刻ではあるか? まあ、とにかく命に係わる事じゃねぇから安心しろ)

(そ、そうか……)


 いまいち要領を得ない答えではあったが、とりあえず命に別状はないみたいだな。


(それで、プレデターは今どこに居るんだ?)

(……プレデターちゃんはね、ラフィルナの花畑に居るよ)

(え? もしかして一人でか?)


 窓を見れば、そこには夜空に月が浮かんでいる。

 そこで俺は先程確認しようとしていた時間を調べる為に、左手で懐中時計を取り出して現在時刻を確認した。


(夜中の1時に一人で外かぁ……グレちゃった?)

(あはは……と言うよりも、落ち込んでるっていう方が正しいかな?)


 うーん、黒椿はなにか知っている風ではあるが、俺が聞いてこない限り自分から話してくれる様子はない。

 実際に見て判断しろって事かな?


(うーん、とりあえず心配だし気分転換も兼ねて迎えに行くか。ウルギア、少しだけ黒椿を借りてもいいか?)

(問題ありません。非常に申し訳ない事ではありますが、藍様の魂の損傷は一日や二日で治るものではありませんので……)

(あんまり気負いすぎないようにな? 全然待つことはできるから)


 申し訳なさそうに話すウルギアに、気にし過ぎない様にと忠告してから、俺はゆっくりとベッドから降りて立ち上がる。

 そして、寝室を抜け出して居間へと到着してからラフィルナの花畑へと"転移"する事にした。


(……そういえば、今更だけどプレデターって名前は違う気がするな)


 元々はあの娘を【漆黒の略奪者】と勘違いしていたからプレデターなんて安直な名前にしてしまったけど、実際は【漆黒の略奪者】では無かったし、普通の女の子なんだからもっといい名前があったよなぁ。


(本当に今更だな……)


 そんな俺の呟きに対して、【漆黒の略奪者】が呆れたふうにそう言うと、溜息をひとつ吐いた。


 いや、だってさぁ……。


(父親としてはもうちょっと女の子らしい名前をつけてあげたいと思うだろ? よし、プレデターに相談して、新しく名付けしよう)

(おー!! なら、僕も考える!! 可愛い名前をつけてあげたい!!)

(はぁ……もう好きにしてくれ、俺は修復作業に戻る)

(同じく……)


 俺の言葉に黒椿が先程の曖昧な雰囲気と打って変わって元気いっぱいに声を張り上げている。


 そんな俺達の会話を聞いていた【漆黒の略奪者】と【白銀の暴食者】はやれやれと言った感じにそう呟く。


 そんな二人に挨拶をした後、すっかり元気になった黒椿の様子に苦笑を浮かべつつも、俺は途中で止めてしまっていた"転移"を今度こそ行うのだった。























 無事に"転移"出来た視界には、月夜の下に幻想的な景色が広がっていた

 淡く光を放つラフィルナの花が地面を多いつくし、風に揺れる度に花びらが数枚舞い踊る。


 うん、朝も夜も、変わらずここは綺麗な場所だな。


「さて……黒椿」


 俺が名前を呼ぶと、背後に人の気配がする。振り返れば、そこには巫女装束を着た唐紅色の髪を揺らす少女の姿があり、それは間違いなく俺の妻である黒椿だ。


「えへへ、灰色の髪もカッコイイね!」

「ありがとう」


 レモンイエローの瞳を細めて微笑む黒椿の頭を撫でる。

 すると黒椿は小さな声で嬉しそうに「えへへ」と呟いた。

 何となく心地良さを感じる時間ではあるが、いつまでもこうしている訳にもいかない。今回の目的はあくまでプレデターだ。


「それじゃあ、プレデターの所まで案内してくれるか?」

「はーいっ!」


 元気な返事をしてくるりと後ろへ振り向いた黒椿が歩き始めたので、俺もその後に続くように進み始めた。


 歩き始めて10分もしない内に、視界の奥の方で人がたっているのが見えてくる。

 近づくにつれてその人影の細かな容姿が分かるようになり、俺は待望の相手がそこにいる事実に心から安堵した。


 実際に救えたことは分かってはいるけど、ちゃんと外の世界に存在している姿を見れて、実感が込み上げてきたんだと思う。


 ある程度の距離まで近づくと、向こうもこっちに気づいたようで上空に向けていた顔を下げて俺たちの方へと顔を向けた。


 身長はリィシアよりも低く、黒椿よりもシンプルな作りの巫女装束を着た女の子。

 肩に着くかつかないかというスレスレの長さの唐紅色の髪を揺らし、憂いを帯びた表情を見せる女の子は、ゆっくりとその口を開いた。


「どうしたの? パパ、ママ……」


 かすかに震える声で小さく呟く女の子は、不安そうな顔をしてレモンイエローの瞳を俺たちへと向けた。


 …………ん?


「どうしたもこうしたも無いでしょー? こんな時間に外へ出てる娘を心配して来たの!!」


 さも当然と言ったように両手を腰に当てて頬をふくらませた黒椿。

 怒っていますと伝えたかったようだが、俺からすれば、その仕草は可愛らしく見えてしまう。

 そんな黒椿の言葉に俺達の娘である女の子――プレデターはただ、憂いを帯びた笑みを浮かべるのだった。









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