第260話 灰色の鎮魂歌⑤
<<制空藍からの承諾を確認しました。これより、魂の共命作業を実行します。>>
<<二つの魂の存在を確認しました。二つの魂の繋がりを確認しました。>>
<<過去の<共命>を参照に、より強固な繋がりを確立します…………種族:”共命者”への進化に成功しました。>>
<<”共命者”の効果によって、制空藍の種族名に基本種族である人間種の他に竜種が追加されました。これにより、竜種の固有スキルの使用が可能となります。>>
<<制空藍とグラファルト・ヴァヴィラ・ドラグニルのレベル・魔力量・スキル(通常・固有・特殊)・称号の結合を開始…………成功しました。>>
<<魂の結合と同時に、肉体の再構築を開始…………制空藍の魂に損傷を確認しました。損傷の修復を開始…………完治までに時間を有します。時間が掛かると予測される損傷の修復を中断し、魂の結合、並びに肉体の再構築を開始します…………>>
…………。
……。
『――全く、いつまで我を待たせるつもりだったのだ?』
「ッ……」
無機質な声が響く中、呆れた様に呟かれた声が、俺の背後から聞こえて来た。
その声に思わず驚いてしまったが、それが誰の声なのかを理解して直ぐに胸いっぱいに様々な感情が駆け巡る。
『――おい、我の声を無視するつもりか? 随分と……薄情者になったのだなぁ』
「……ご、めん」
揶揄うように話す可愛らしくも気高さを感じる声。
その声を聞いていると――自然とあの白銀の少女の姿が思い浮かぶ。
そんな少女の姿を思い出し、何かを話さないとと思った俺が口にしたのは……たった一言の謝罪だった。
『それは、何に対しての謝罪だ?』
「何も相談せずに勝手に決めて行動をした。きちんと話す事もなく、不意打ちみたいな形で別れてしまった。お前の気持ちをちゃんと考えようとしなかった。許可を取る事なく<共命>を断ち切って、お前を不安にさせた。他にも――」
『も、もう良い!! 言い過ぎだ馬鹿者!! 全く、どれだけ謝るつもりなのだお前は……』
俺としては、まだまだ足りないくらいだけどな……こうして声を聞いただけで、沢山の後悔と罪悪感が込み上げてくる。
そう思ったら、自然と謝るべき事が次々と浮かんでいた。
「謝っても、謝り切れないと思ってる。いくら守る為とは言え……恨まれても仕方がない様な事をしたからな」
『……そうか』
「……」
いま、後ろに居るのであろう白銀の少女がどんな顔をしているのかは分からない。
怒っているかもしれない。
恨まれているかもしれない。
俺に出来ることは、その怒りや恨みを受け止めて誠心誠意謝る事だ。そして、残りの人生を掛けてしっかりと償い――
『――自覚しているのなら、もう良い』
「……え?」
優しく語りかけられる言葉と共に、背中に小さな温もりを感じる。
『確かに、お前との繋がりが無くなったのだと分かった時は悲しかった。それに、何もしてやれぬ事を無力に感じていた。お前にとって、我は守らねばならぬか弱き存在なのかと思い……それがとても苦しかった』
「……」
『でも、もう良いのだ。お前はそういう性格だ。大切なものを守る為ならば、誰の力も借りようともせずに一人で進んでゆく、それがお前という存在なのだ』
まるで吹っ切れたように、楽しげに少女は話し続ける。
背中に感じる小さな温もりが心地よくて、気づけば俺は背後に居る白銀の少女に体を預けていた。
『だが、だからと言って納得した訳ではないぞ? 我は、ただ守られるだけの存在に成り下がるつもりは無いのだ』
「そんな風に見ているつもりは無かったんだけどな」
『分かっている。お前はただ必死だったのだろう。守りたいものが多すぎて、周囲の言葉が届かなくなってしまうくらいに』
「ッ……そう、かもしれない」
その言葉は、俺の胸に深く突き刺さるようだった。
守るものが多くなると、それに伴って全てを守りきるのが難しいと感じていたのは事実だ。
今回の件だってそうだ。
プレデターだけではなく、みんなを守る為に俺は自らが呪われることを選択した。
これしか道は残されていないと判断して、誰かに相談するでもなく……もうこれしかないんだと自分自身に言い聞かせ一人で行動した。
今振り返れば、色んな人達に酷い事をしたと思う。
「……みんなにも、酷い事をしたな」
『そうだな。お前が選んだ道は周囲を人間を置き去りにした。我らがどれだけ声を掛けようとも、お前は振り返りもしなかったからな』
「……」
『お前はきっと……その性格を変える事は出来ないだろう。これから先も、我らに害が及ぶような選択を避け続けて……そして、自分自身でも気づかない内に同じことをしてしまうのだろう』
返す言葉もない……。
ここでいくら”もうしない”と誓ったとしても、実際に同じような事が起これば……俺は迷うことなく同じ選択をすると思う。
それでも、相談するくらいはするだろうけど、結果的には同じ選択を押し通してでも行うだろう。
「俺は――『だからな、我は決めたのだ』――ッ!?」
俺の言葉を遮る様に、白銀の少女の声が重なり響く。
そして、背中に感じていた温もりが消えたと思った直後、俺の左側を通り一人の少女が姿を現した。
「グラ――ファルト?」
『うむっ!! 我は魔竜王――グラファルト・ヴァヴィラ・ドラグニルだ!』
微笑みを浮かべる少女の名前を呼ぶと、元気な返事が返って来た。
しかし、俺はそんな彼女の声もあまり頭に入って来ないくらいに驚いている。
何故なら……俺の目の前に居るグラファルトの姿が変わってしまっていたからだ。
グラファルトの揺れる長い髪は、美しい白銀がくすみ灰色へと変わり果ててしまっていた。
その変わり様に驚き、俺は言葉を失う。
『ん? ああ、この髪の事か。恐らくだが、我と藍の魂が共命した影響だろう。前よりも強い繋がりを得た事で、見た目にも影響が出ている様だな』
「……」
特に気にする様子を見せず、グラファルトは自身の揺れる長い髪を見てそう呟いた。
つまりは、俺との共命が原因でグラファルトの姿が変わってしまったと言う事か。
「……」
『藍? 一体どうしたのだ?』
目の前に立つグラファルトの灰色の髪に軽く触れる。
手に感じる感触を実感して……これは現実なのだと理解した。
「ッ……ごめん、俺の所為で」
『何故謝るのだ? 我は特に気にしていないぞ?』
「だけど、お前の白銀の髪が、俺の所為で……」
グラファルトの白銀色の髪は、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
昼間は陽の光に照らされて光り輝き、夜は月明かりに照らされて煌めく。
それはミラ達も知っている事実であり、グラファルトの白銀色の髪はトレードマークとも言えるだろう。
そんな彼女の白銀を、俺が変えてしまったのだ。
――白銀の少女の白を、俺が灰色へとくすませてしまったのだ。
それが申し訳なくて、俺はグラファルトに頭を下げて謝罪をした。
しかし、頭を下げた俺を見てグラファルトは責める事無く、溜息混じりに俺の顔をその小さな両手で支えて上へと向ける。
『気にするな。これは我が望んだことなのだ。それに――我は、お前とお揃いになれて、嬉しいぞ』
「お揃い……?」
上へと向けられたことで、グラファルトの満面の笑みが俺の瞳に映る。
その表情を見る限り本当に怒っている様子はないと思った。
そして、上機嫌なグラファルトが放った一言が気になり、俺は初めて自分の前髪へと視線を向ける。
『なんだ、もしかして気づいていなかったのか?』
「ああ……お揃いって、そう言う事か」
楽し気に微笑むグラファルトの声と共に、俺の視界に灰色の前髪が映る。
それは紛れもなく自分の前髪であり、恐る恐る自分の額の少し上辺りを左手で強く抑えると、自分の前髪が良く見える様になった。
見えるようになった前髪は、全てが灰色に染まっていた。
それはグラファルトと瓜二つであり、俺が自分の髪色を確認し終えるとグラファルトは嬉しそうに『お揃いだっ』と笑顔を作った。
『我はお前とお揃いで嬉しいぞ? それに、髪色などいつでも変えられるのだ。そこまで気にする必要はないだろう?』
「た、確かに……」
『それとも、藍は我とお揃いじゃあ嫌なのか?』
不安げにそう聞いて来るグラファルトに、思わず俺は笑みを浮かべそうになる。
さっきまではあんなに嬉しそうだったのに、相変わらず表情豊かだなと思った。
「そんな訳ないだろう? グラファルトが気にしていないのなら、それでいい。それに、俺もグラファルトとお揃いになれたのは嬉しいと思うよ」
『そ、そうか……うむ、ならば良いのだ!』
グラファルトの頭に左手を置いて、俺は優しくその頭を撫でる。
撫でる度に不安げだったグラファルトの表情は柔らかな笑みに変わっていき、最終的には満足そうにニッと笑みを浮かべていた。
うん……このやり取りも、なんだか懐かしく感じる。
見た目は変わってしまったけど、その心は変わらないグラファルトに俺は心から癒されていた。
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【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!
ご感想もお待ちしております!!
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