第256話 閑話 重なる面影





 朝から始まったプレデターを巡る騒動は大いに時間を経過させ、既に昼餉から三時間も経過していた。


 昼食を食べる事も忘れて、休憩を挟む事無く動き続けていた一同にも、疲れが見え始めている。


 それでもファンカレア達は休憩を取る様子は無く、藍とグラファルトが並んで眠る周囲を囲んで心配そうに二人の姿を見守って居た。




 しかし、そんなファンカレア達から少し距離を置いている二人も居る。


『はぁ……』

『……』


 少しの距離を置いてファンカレア達の姿を見守って居た【白銀の暴食者】は、三角座りをして大きな溜息を吐いていた。その隣では、胡坐を組んで座る【漆黒の略奪者】の姿があり、隣で溜息を吐いている【白銀の暴食者】を横目に見ている。


『……はぁ』

『随分と溜息が多いなぁ』

『……まぁな』

『大方、自分の主の事が心配なんだろ?』


 その問いに【白銀の暴食者】は主と瓜二つな顔を立てた両足で隠してしまう。その反応を見ただけでも、図星だなと言う事が【漆黒の略奪者】にはわかった。


『……変だと思うか? あれほど精神的に痛めつけて来たのに、今更心配するそぶりを見せるなど、おこがましいと』

『はぁ……そこまでは言ってねぇよ。まあ、お前がグラファルトの事を気にかけているのは何となくわかってたからな』


 少しだけ見せた顔で力無くいじける様に呟いた【白銀の暴食者】の頭を撫でて、【漆黒の略奪者】は慰める様に言葉を紡ぐ。


『まあ、そこまで自覚できているなら、どうして最初から寄り添う形で支えられなかったのかとも思うけどな』

『……単なる願望だ』

『願望?』


 頭に置かれた【漆黒の略奪者】の手を払う事無く、落ち込んだ様子の【白銀の暴食者】はぽつりぽつりと話し出した。

 自身が掲げる願いを……主であるグラファルトが願う理想を。


『我が主は同胞を失ってから、心に弱さを持つようになってしまった。自身の力を低く見て、常に安全策を取ろうとする……臆病な性格へと変わってしまったのだ。そしてそれは、我というスキルが生まれてからも変わらなかった。寧ろ制空藍と共に過ごす様になって……我が主は泣く事が多くなった』

『……』

『我が主は泣きながら言うのだ……”もう、失いたくない”、”我の前から消えないで欲しい……”、同胞たちが眠る竜の渓谷で、密かに涙を流しながらそう呟き続けていたのだ。だから、我はその願いを叶えたかった』


 その小さな体が微かに震えている事に、【漆黒の略奪者】は直ぐに気づいた。微かに両足から覗かせる瞳には涙を浮かべており、発せられる声も次第に震え始める。


『力に、なりたかったのだ……我は、力しか持たぬ……だから、我は例え我が主に嫌われようとも……所詮、ただの、スキルなのだから……』


 そして、遂に我慢の限界を迎えた【白銀の暴食者】は、その瞳からポロポロと涙を流し始める。

 泣きながら話している為、【白銀の暴食者】の言葉は所々で途切れ、聞き取りずらい状態になっていた。


 そんな状態の【白銀の暴食者】を見守って居た【漆黒の略奪者】だったが……めそめそと泣き続ける【白銀の暴食者】に盛大な溜息を吐いた後、徐にその小さな体をひょいと抱き上げ自身の足の上に乗せた。


『何も泣くことねぇだろ……』

『だ、だって……』

『あーまぁ、話ずらい事を聞いたオレも悪かったよ。だからほら、泣き止んでくれ』

『……ぐすっ』


 【漆黒の略奪者】の足を上に乗せられた【白銀の暴食者】は特に抵抗する事無くそのまま三角座りを始めて【漆黒の略奪者】の言葉にこくこくと頷いた。

 そして、横腹を掴む【漆黒の略奪者】の両手を掴んだ【白銀の暴食者】は、その右手を頭を上へと運び、左手は絡める様にぎゅっと握りしめる。


『おい……』

『……ぐすっ……ぐすっ』

『……はぁ』


 何してんだ? と言う意味合いを込めて【白銀の暴食者】へ声を掛ける【漆黒の略奪者】だったが、【白銀の暴食者】から返事が返って来ることは無い。

 【漆黒の略奪者】が足の上に乗せた少女の顔を覗くと、少女はその頬を微かに朱色に染めて未だに泣き続けていた。

 そんな様子を確認して、こりゃ駄目だと理解した【漆黒の略奪者】は抵抗する事を止めて、【白銀の暴食者】の望み通りに右手でその小さな頭を撫でて、握られた左手に力を込める。


 一瞬だけビクリと体を震わせた【白銀の暴食者】だったが、それは直ぐに治まりゆっくりと【漆黒の略奪者】にその背中を預けるのだった。




『……へへ』

『おい、お前もう泣き止んでるだろ?』

『…………ぐすっ』

『ッ……この野郎……』



























 場所は同じく、ラフィルナの花畑が広がる神界。

 結界内にて眠り続ける藍とグラファルトを見守って居た面々は、後方から発せられる甘い雰囲気を感じて、なんとも言えない感情を抱いていた。


「……ねぇ、後ろで――」

「ええ、分かってるわ、アーシェ」

「あれは……どうするべきなんだろうねぇ?」

「さ、さぁ……ですが、私たちが口を出せる雰囲気でもありませんよ?」

「フィーの言う通りー」

「……ラブラブ?」


 先程までは心配や不安が募り、後方を気にする余裕も無かった一同。しかし、変わる事のない状況が目の前で続いていると、その場に慣れてしまった人は無意識に周囲へと意識を向ける余裕が生まれる事がある。


 それは”六色の魔女”や二人の女神にも言える事であり、八人は後方から聞こえる声に気づいて少しだけ視線を後方へと向けていたのだ。


 そして、二人の男女が仲睦まじく話している姿を見つける事になる訳で……その様子を、凝視する訳にもいかずチラチラと覗いながらひそひそとその光景について話し合っていた。


「よくよく考えれば、藍くんとグラファルトから生まれた二人ですから、自然と言えば自然……なんですかね?」

「うーん……僕にも何とも言えない……。とりあえず、僕は離れた所に寝かせてるプレデターちゃんを藍の隣に運んで来るね」


 苦笑を浮かべながら【漆黒の略奪者】と【白銀の暴食者】の様子を眺めて居たファンカレアの呟きに、黒椿も苦笑でそう返すと静かな動作で歩き始めて一同が気にしている二人とは反対の場所へと向かって行った。


(でも……みんなも多分同じ事を思ってるんだろうなぁ)


 未だに眠ったままのプレデターの元へ辿り着いた黒椿は、小さく笑みを溢してそう思う。



 そうして頭の中で思い浮かべるのは――いつも仲良しであった藍とグラファルトの姿だった。












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