第233話 『精神世界』 失った<共命>






――【神装武具】を使い魂の回廊へと入る事が出来た俺は、暗闇の中で待っている筈の人物が現れるのを待っていた。


 そうして数十秒程その場で待っていると、暗闇が支配する空間の上から幾つものスポットライトが灯り始めて、目の前に見覚えのある二人が立っていた。


 ウルギアと【漆黒の略奪者】だ。


『よう。お別れは済んだようだな』

「ああ、でもまだやる事があるんだ」


 こっちに向かって正面から歩いて来る二人、その一人である【漆黒の略奪者】が右手を上げて挨拶をしてきたので、俺はそう言葉を返した。

 そして、【漆黒の略奪者】に話し終えて直ぐに特殊スキルである【改変】を発動させて……グラファルトとの共命を断った。


『ッ!?』

「おぉっ……」


 一瞬だけ訪れた脱力感によって、俺はその場に倒れそうになる。

 しかし、俺の体が地面に倒れる前にウルギアが支えてくれたお陰で助かった。


「藍様、大丈夫ですか?」

「うん。ありがとう、ウルギア」

『おい……やるならやるって言えよ』


 まあ、俺の前では【漆黒の略奪者】が倒れているけど。


「ごめんごめん。着いたら直ぐにやるつもりだったから……”ステータスオープン”」


 不満げに俺を睨む【漆黒の略奪者】に謝った後、俺はステータスを開いてみた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


名前 制空藍 


種族 人間(転生者)


レベル ―――


妻 グラファルト・ヴァヴィラ・ドラグニル

妻 黒椿

妻 ファンカレア


スキル:


固有スキル:


特殊スキル:【改変】【漆黒の略奪者(一部制限中)】【叡智の瞳】【不老不死】【状態異常無効】【精神汚染耐性S】【物理耐性EX】【神装武具】【冷静沈着】


称号 【精霊に愛されし者】【黒椿の加護】【異世界からの転生者】【女神の寵愛を受けし者】【魔法を極めし者】【魔竜王の主】【略奪の主】【厄災を打ち砕く者】【超越者】【料理の達人】【カミールの加護】【魔竜王の伴侶】【女神の伴侶】【精霊の伴侶】

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 開いたステータス画面を見て、俺はほっと溜息を吐いた。

 事前にウルギアと話し合い、複製できるスキルと出来ないスキルの説明を教えて貰った俺は、今回の作戦に必要なスキルの中で複製できるスキルは複製して残りのスキルに関しては全てグラファルトへと渡す事にしたのだ。

 そうして選ばれたのが【不老不死】【状態異常無効】【精神汚染耐性S】【物理耐性EX】【神装武具】【冷静沈着】の六つである。この六つのスキルは複製品の方をグラファルトへと渡し、元々持っていた方を俺が持つ事となった。

 複製品だと【神装武具】が初期状態に戻ってしまうらしいので、ウルギアの提案でそうなったのだ。


 ちなみに魔力量に関しては共命状態の頃のものをそのまま引き継いでいる。

 スキルが複製できる様に、魔力量もまた複製できる様だ。


「……うん、ちゃんと事前に考えていた通りの状態だな」

「あの、藍様……」


 スキル欄を見て無事に【改変】出来た事を確認した俺がそう呟くと、俺の隣に立つウルギアが少しだけ言いにくそうにしながらも声を掛けて来た。

 その声にステータス画面を確認していた俺がウルギアへと視線を移すと、ウルギアは何故か心配そうに俺の事を見ていた。


「どうしたんだ?」

「その……グラファルトの事です。本当に……これで良かったのですか?」

「ああ、そう言う事か……その質問、ファンカレアにもされたよ」


 言いにくそうに話すウルギアに、俺は苦笑を交えながらもそう答えた。


 ウルギアの言葉と似たような事を魂の回廊へと入る前、結界を張った後の僅かな時間の内にファンカレアに言われていた。


――藍くん、本当にこれで良かったのですか?


 結界内でファンカレアとのお別れの挨拶をした後の事だった。

 別れの挨拶を交わしていた時までは微笑んでくれていたファンカレアが急に真面目な顔になってそんな事を言い出した。


 俺はファンカレアの言葉を聞いて、一瞬だけ視線を端へと向ける。

 そこには、涙を流しながらも結界を叩くグラファルトの姿があった。

 泣きながらに”行かないでくれ!”、”嫌だ”と叫ぶグラファルトを見て、俺は罪悪感で押しつぶされそうになったのを覚えている。


 そして、それは今でも変わらない。

 ウルギアにファンカレアと同じ質問をされている今も、俺の脳裏にはあの涙ながらに訴えるグラファルトの姿が強く残っている。

 しかし、だからこそ俺はウルギアに答えた。


「ファンカレアにも言った事だけど……これで良いんだ。これでグラファルトの安全は保障された。俺との繋がりは、グラファルトの身に危険を及ぼす可能性があるからな。そういった不安要素はなるべく排除しておきたかったんだ」

「……グラファルトは、怒るでしょう。恨まれるかもしれませんよ?」

「なんだ? ウルギアって、グラファルトの事を嫌ってなかったっけ?」


 やけにグラファルトの事を心配するウルギアに、俺は正直驚いていた。

 そんな俺の言葉にウルギアは少しだけ口をむっとさせると、すかさず反論してきた。


「前にもお伝えしましたが、私はグラファルトの全てを嫌っている訳ではありません。藍様に危害を加えた事に関しては許せませんが、それ以外に関しては寛容なつもりです」

「その割には、やけにグラファルトに突っかかっていた様に思えたけど?」

「…………そんな事はありません」


 あ、これ自覚あったな?

 俺の言葉にやや遅れ気味に返したウルギアは、決して俺と目を合わせようとはせずに視線を逸らしていた。

 それでも俺がジーッと見つめ続けると、観念した様子でウルギアは話し始める。


「……確かに、藍様の仰る通り私のグラファルトに対する態度は厳しいものでした。グラファルトがその……過去の私と似ていたのです」


 そうして話してくれたのは、ウルギアの過去についてだった。


「今のグラファルトは過去の私と似ています。大切な者を失い、嘆き悲しみ、そして――世界を恨んだ過去の私と……だからこそ、私はグラファルトに対して態度が厳しい物になってしまったのでしょう。同じ過ちを二度と繰り返させない様にする為に」

「ウルギア……」


 先程とは違い、しっかりと俺の目を見て語るウルギアが嘘を吐いている様には見えない。

 今までのグラファルトへの言動は、全て過去の自分を叱責する意味も込められていたのかもしれない。自分と同じ末路を辿って欲しくないからこそ、ウルギアは厳しい口調でグラファルトと接し続けていたのだ。

 そんな話を聞いて、俺は心から嬉しく思えた。そして、グラファルトの事を思って行動してくれるウルギアが居れば安心だと、そう確信する事が出来た。


「ウルギアがそんなにグラファルトの事を思ってくれているとは知らなかったよ。ウルギアが居れば、グラファルトは大丈夫そうだな」

「……? 私は藍様とずっと居るつもりですので、グラファルトの事に関しては手出しできませんが?」


 しまった……ウルギアの言葉が嬉しくてつい口を滑らせた。


「こ、今後の話だよ。無事今回の事が片付いた後で、仮にグラファルトが暴れたりしていたら、なんとかしてくれるだろう?」

「ああ、そう言う事ですか。ご安心を、藍様のことは全力でお守りいたします。そして、あの駄竜が暴れていようものなら私が直々に躾けますので」


 咄嗟に思いついた嘘を信じてくれたウルギアは胸を反らせて自信満々にそう答える。


 ……ありがとう、グラファルトの事は任せたぞ。


 そんなウルギアの様子を見て、俺は心の中でそう呟いた。











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             【作者からのお願い】


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