第223話 全てを守る覚悟 前編
【叡智の瞳】で分かったのは、ほんの僅かな希望だった。
グラファルトか、それともプレデターか……そんな二択を消し去り纏めて救い出せるかもしれないと言う、僅かな希望だ。
でも、それでも良いと思った。
大切な存在を代償に手にする確実よりも、全てを守れる可能性を選んだんだ。
そうして俺は【叡智の瞳】で知り得た可能性を求めて行動に移した。
【漆黒の略奪者】の管理者権限を奪い、ウルギアを守る。
ウルギアの安全を確保する事に成功した後は、【漆黒の略奪者】と二人で話をする為にウルギアを一旦外へと出して、外部からの干渉を一時的に遮断した。
そうして準備を終えた後は【漆黒の略奪者】と向き合い協力を要請。
【漆黒の略奪者】が快諾してくれた所で、停戦を申し出て少しだけ休ませてもらう事にした。
正直【叡智の瞳】の副作用である激しい頭痛は立っているのがやっとの状態だったから、【漆黒の略奪者】が意外と冷静で友好的だったことには助かった。
少しだけ休むと宣言してから数十分ほどその場に座り込んでいると、次第に収まって来た。副作用である頭痛がいつまで続くのか心配だったが、使用時間が短かったからかそこまで深刻なダメージにならずに済んだ様だ。まあ、これ以上使うと間違いなく深刻化すると思うので今は控える事にする。
いや、別にあれだよ?
休んでいる間に二回目の【叡智の瞳】を使おうとして激痛に襲われた訳じゃないよ? その様子を見ていた【漆黒の略奪者】に怒られたりとかもしてないから……。
『おい、まさかとは思うが……また使ってみようとか思ってないだろうな?』
「……思ってません」
心の中で誤魔化している最中に、俺の前で胡座を組んでいる【漆黒の略奪者】から疑いの眼差しを向けられてしまう。
否定してみたのだが、その疑いの眼差しは更に険しくなるばかりだった。
『お前って、意外と頭悪いからな』
「酷い……」
この言われようである。
『副作用に襲われてたのに”ワンチャン……あるか?”とか言ってまた【叡智の瞳】を使い始めた奴が何言ってやがる?』
「……まあ、そんな雑談は置いておいてそろそろ本題に入ろうと思う」
俺がそう告げると【漆黒の略奪者】は大きく溜息を吐いた後で了承してくれた。
小さい声で『誤魔化したな』とか聞こえたけど知りません。
俺はまず、【漆黒の略奪者】に【叡智の瞳】で調べた事柄について説明した。
【叡智の瞳】は知りたいと願った情報の全てを手に入れる事が出来る。それは逆を言えば知りたいと思わなければならないと言うことだ。まずはキーワードとして俺が少しでも調べたい事柄について知っていなくてはいけない。全てを知れる便利なスキルではあるが、万能とう訳ではないのだ。
俺が調べたのは”大切な人たちを失わずに呪いを消し去る方法”と”ウルギアを【漆黒の略奪者】から守る方法”の二つだ。
後者は簡単に情報を知る事ができたが、前者はそうは行かなかった。全ての情報を読み込む途中で激しい頭痛が俺を襲い、同時に右目が熱を持ち始めたのだ。
だが、激しい頭痛に耐えながらも俺は必死に耐え続けて、そして情報を手に入れた。
唯一、大切な人たちを失わずに済むかもしれない方法を。
だからこそ、その方法へと至る為に必要なものがある為、俺は【漆黒の略奪者】にこれからの事についてかいつまんで説明をした後、それがいま何処にあるのかを聞いた。
『ああ、あれか。ちゃんと保管してあるぜ?』
「本当か!?」
俺の言葉に頷いた後、【漆黒の略奪者】は右の掌を上に向けて漆黒の魔力を解放する。そうして漆黒の魔力が掌の上でサッカーボール程度の大きさで丸くなると、忽ちその色を変えて黄金に輝く球体へと変わった。
「これがそうなのか?」
『まだ未使用の状態だから球体になってるが、間違いなくこいつがそうだ』
ライナのしか見た事がなかったから形なんてわからなくて不安だったけど、目の前にある黄金の球体は【漆黒の略奪者】が言うには間違いなく俺が求めていたもの……【神装武具】で合っているらしい。
「良かった……今後の作戦には絶対に必要なものだったから」
『まあ、お前の話を聞いた限りだと確かに重要だわな。だけどよ、今のこいつは武器でもなんでもねぇただの球体だぜ? オレは管理者権限は奪ったものの、こいつの使い方に関しちゃ全く理解できなくて分からねぇけど、本当に使えるのか?』
「ああ、大丈夫だ。こいつにはちゃんと使い方があってな? ちょっと俺に渡してくれ」
俺の言葉に頷いた【漆黒の略奪者】は、ぽいっと右手に持つ球体を投げ渡してきた。もうちょっと丁寧に扱えよとか言いたいけど、とりあえず話を先に進めたいから我慢しといてやろう……。
「ライナの言葉を借りるなら、【神装武具】は使用者の願い……この場合は俺になるな。俺の心の底から願っている事を形にして武器に変化するスキルなんだ」
『なるほどなぁ……通りでオレが何をしても形を変えねぇ訳だ』
「まあ、本来なら自分自身と向き合い、心の底から願うものは何かを見つめ直したりしなきゃいけないみたいだけど、今回は裏技を使わせてもらおうと思う」
『裏技だと?』
首を傾げてそんな声を上げる【漆黒の略奪者】に頷いて、俺は裏技について説明をする。
「【叡智の瞳】で知った情報の中に、【神装武具】に関しての情報もあったんだ。その情報によれば、詠唱を口にすることで今後の作戦に必要な武器を必ず手に入れることが出来るらしい」
『どういう事だ?』
「俺もよく分からないんだけど、多分逆算してるんじゃないか? ライナが【神装武具】を使ってる所を見ていたけど、詠唱を唱える事は必須事項みたいだったから、先に詠唱を唱えてしまうことで、願いを固定化。つまりは望む武器を作れるんじゃないかな?」
『ふぅーん……よく分からねぇけど、本当に上手くいくのかぁ?』
まぁ、その疑問は尤もだと俺も思うよ?
でも、実際に【叡智の瞳】で調べた結果の答えがそれだったんだから仕方がない。とりあえず、【漆黒の略奪者】に証明する意味も込めて俺は【叡智の瞳】で覚えた詠唱を唱えることにした。
「”――我が名は、制空藍”」
魔力を込めた言葉に黄金の球体が一度脈を打つ。
「”――漆黒の王が命じる。【神装武具】よ、その力を示せ”」
『おおっ動いたぞ!?』
【漆黒の略奪者】の言う様に、黄金の球体は俺の目の前に浮かび上がり点滅するように光り始めた。
「”我は全てを奪う『略奪』の王! 悲劇を奪い、終焉を奪い、選択を奪う王である!!”」
やがて黄金の球体は、漆黒の闇へと変わり始める。
そしてその全てが漆黒へと染まると、球体は二つへと別れた。
「”【神装武具】よ、我が願いを叶えよ。我が家族を――大切な者を守る力となれ!!”」
『うおっ!? おいおい、こりゃキツイな……ッ』
詠唱が終わった瞬間、体の中から魔力をごっそり持って行かれる感覚を覚えた。それは俺の魔力を基に活動している【漆黒の略奪者】も同様であり、俺が魔力を持って行かれたのを感じたのと同じくらいのタイミングで【漆黒の略奪者】はその場に膝を着いた。
「これでも、魔力量には自信があったんだけどッ……大丈夫か?」
『ッ……ふぅ……まあ、これくらいなら、しばらくすれば魔力が回復するだろうし、大丈夫だ。それに――膝を着かされた価値はあったみたいだからな』
苦しそうに息をする【漆黒の略奪者】は、それでもニヤリと笑みを浮かべて俺の目の前にある物へと視線を向けていた。
そこには二本の剣が浮かんでいた。
漆黒の刃に幾何学的な白い線が刻まれている二本の剣は左右で長さが異なっていた。左側の剣はおよそ刃渡り90cm、右側の剣はその三分の一である30cmくらいだ。
「うん、見た目は情報通りだ。さて……」
空中に浮いている二本の剣を俺は掴み、握られた剣へと視線を向けて【万物鑑定EX】を使う。
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名前
能力 魔力を剣へ込める事で現世と精神世界を渡り、装備者をこの剣と共に行き来する事が出来る。魔力を剣へ込める事で万象を封印することが出来る半径5m程の大きさのドーム型の結界を指定した場所を中心に作りだせる。剣に近ければ近いほど、結界の強さは強固なものになる。
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名前
能力 魔力を剣へ込める事で現世と精神世界を渡り、装備者をこの剣と共に行き来する事が出来る。剣を握り魔力を込める事で、指定した万象を剣の中へと封印できる。解放する際には込めたのと同等量の魔力を剣へと流し、”解放”と口にする必要がある。封印した対象を消す事も可能。封印された対象は内側から外側への干渉を一切できなくなる。
――――――――――――――――――――――――――――
……うん、【叡智の瞳】で調べたのと同じ能力だ。
大きいのが外封、小さいのが内封らしい。
「問題ない。間違いなく、これが求めていた【神装武具】だ」
『へぇ……そいつが』
俺がまじまじと双黒の封剣を眺めていた間に、【漆黒の略奪者】は普通に立てるくらいには回復したらしい。今は俺が握っている双黒の封剣を興味津々な様子で眺めていた。俺が両手を右へ移せば右を見て、左へ移せば左を見る。
そんな【漆黒の略奪者】の様子を面白く思いながらも、触りたいと言う気持ちはわかる。
「分かったよ。ほら」
『ッ!! サンキュー!! 話が分かるなぁ~』
俺が肩を竦め両手を【漆黒の略奪者】の前に出すと、【漆黒の略奪者】はニッと笑顔を浮かべて俺から双黒の封剣を取り上げた。
『おおー!!』
俺から双黒の封剣を取り上げた【漆黒の略奪者】は手に持った剣を上へと掲げて興奮した様子で眺めている。
そんな【漆黒の略奪者】に俺は双黒の封剣の能力について説明をした。
『へぇ、そいつは凄ぇな』
「それを使えば、プレデターもグラファルトも、誰も傷つける事無く済むと思う」
『確か、お前があのガキの居る部屋に入って呪いを引き付けて、あのガキから呪いが離れたのを確認して直ぐにこっちの外封を使うんだったか?』
「そうだ。そして、黒椿とウルギアにプレデターの安全を確保して貰って、プレデターの内部に呪いが潜んでいないかの確認が終わったら、直ぐに魂の回廊から外へと移動してもらう。最後は内封を使って呪いを全て剣へと封印すれば終わりだ」
呪いは一生外へ出る事は出来ず、後は無事に魂の回廊から出ればそれですべては片付く。
そう……これで大丈夫の筈だ。
『――それで、何を隠してる?』
「え?」
『オレが気づかねぇとでも思ってんのか? お前は【叡智の瞳】を使ってから明らかに雰囲気が変わった』
先程までの楽し気な様子とは打って変わり、【漆黒の略奪者】は真剣な眼差しを俺へと向けている。
『最初は覚悟が出来たんだと思っていた。全てを守る覚悟を決めたんだとな。だが、そうじゃねぇ……小休憩を挟んでいた時から今までの間でそれに気づいた』
「…………」
『お前の雰囲気は明らかに別の覚悟を決めている奴の雰囲気だ。だからこそ、もう一度聞く――お前は、一体何を隠している?』
……どうやら、【漆黒の略奪者】は勘が鋭いらしい。
このまま知らぬ存ぜぬで逃げ切る事も出来るんだろうけど……それで今後の作戦に影響が出るのは避けたい。
俺は隠し通すことを諦めて、【漆黒の略奪者】に全てを話すことにした。
「お前からは誰にも話さないでくれ」
『内容によるな』
「約束じゃない、これはお願いだ」
『…………善処する』
【漆黒の略奪者】の言葉を聞いた後、俺は全てを話した。
「実は、双黒の封剣を使ったとしても本当にプレデターを救えるのかは分からないんだ。副作用の影響で【叡智の瞳】で知り得た情報は途中までしか読み取れなかった」
『……』
「双黒の封剣を使った作戦は、あくまで俺が考えた作戦で成功するかどうかは分からない。というより、さっき話した作戦は他のみんなに説明する際に安心させる為に考えていた物で、俺が双黒の封剣を求めたのは別の作戦を実行する為だったんだ」
俺の言葉を【漆黒の略奪者】は遮ることなく聞き続けている。
何も返事が返って来ないのを確認して、俺は続きを話す事にした。
「まず、成功するか分からないけど俺が考えた作戦を実行してみる。成功すればそれで良い。でももし、失敗した場合は……確実に成功するプランBに移行する」
『プランB?』
そこで一度話を区切り、深く息を吸う。
そして、深呼吸を終えてから俺は【漆黒の略奪者】に話した。
「――――、――――」
『ッ……そう言う事かよ』
俺の話を聞いた後、【漆黒の略奪者】はバツが悪そうな顔をして吐き捨てる様にそう言った。
「――大丈夫、俺はみんなを守って見せるから」
『そうじゃねぇだろうが!!』
俺の言葉を聞いた【漆黒の略奪者】がその場に双黒の封剣を落として俺へと詰め寄って来た。俺の胸倉を両手で掴み、鋭い視線を向けて来る。
『分かってんのか? お前がやろうとしている事は、黒椿も、あのガキも、そしてオレでさえもッ誰も望んでいない事だ』
「それでも……プレデターを救う方法はこれしかないんだ!! お前だって分かってるだろう? もう、プレデターには時間が無いんだって」
『……【叡智の瞳】か』
「もし、俺が駄目になった時は頼む」
俺の胸倉を掴む手の力はより一層強くなる。
しかし、それと同時に【漆黒の略奪者】の体が震えている事に気が付いた。
『ふざけんなよ……確かにオレはお前の魂の一部から生まれた存在だ。だけどな、オレとお前は同じじゃねぇ!! オレは、お前の代わりにはなれねぇんだよ……!!』
顔を上げた【漆黒の略奪者】は、今にも泣きそうな顔をしていた。
ああ、本当にこいつは良い奴なんだな……。
【漆黒の略奪者】に告げた作戦――プランB。
その内容は、自らを犠牲にした長い長い戦いを強いられる作戦だ。
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書いていて長くなりそうだと思ったので、前編と後編に分けることにしました。
説明が入るとどうしても長くなりますね……。
【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!
ご感想もお待ちしております!!
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