第219話 代償の天秤③
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遅くなってしまって申し訳ありません!!
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「え……本当にプレデターじゃないの?」
『だ、だから……最初から、そう言ってただろうが……』
俺の目の前には、俺そっくりの姿をした青年が四つん這いになって肩で息をしている。
かれこれ三十分くらいはくすぐり続けていたのだが、プレデターだと思っていた青年はその姿を変える事無く抵抗するだけで、流石におかしいと思い始めた。そうしてよくよく話を聞いてみれば、本当にプレデターではないと言う。
「えぇ……じゃあ、誰ですか?」
『だから……オレは【漆黒の略奪者】だって言ってんだろうが!!』
「はぁ……?」
四つん這いのまま震えだした青年は、そう叫びながら俺の事を見上げて睨んできた。
いやいやいや、こいつは一体何を言っているんだろうか?
「えっと、つまり【漆黒の略奪者】の自我である存在が、お前だと?」
『やっと理解したのか……さっきからそうだって言ってんだろ?』
「いや、【漆黒の略奪者】の自我である存在はプレデターであって、お前じゃないだろう?」
『プレデター?』
相変わらず目つきが悪い俺そっくりな青年は、プレデターの名前を口にして首を傾げていた。そんな青年の為に、俺はプレデターについて説明をする。
そうして俺がプレデターの容姿や、プレデターとしたやり取りなどを説明すると、青年は『ああ、あいつの事か』と呟いて立ち上がると、片手で頭をガシガシと搔き始めた。
「プレデターの事を知ってるのか?」
『まぁな。たく、あいつは何も説明していなかったわけだ……はぁ』
「どういうことだ?」
『つまりだな――』
青年が面倒そうな口ぶりで説明をしようとした時……俺達が立っていた空間が一度だけ大きく揺れる。それと同時に、ガラスが割れる様なパリンッという音が響き渡った。
「おい、一体何が――!?」
俺が青年に説明を求めようと正面を見ると、そこにはもう青年の姿は無く、奥の方から何か重い物が数回弾んだような音が聞こえて来た。
「――ああ、良かった……本当に良かった……」
目の前から消えた青年に困惑していると、後ろから誰かに抱き着かれた。
抱き着いて来た人物の震える声を聞いて、俺は慌てて顔を限界まで後方へと向ける。
「え、ウルギア!?」
「はい……時間が掛かってしまって申し訳ありません。間に合って本当に良かった……」
そこには、スポットライトの光に照らされたウルギアの姿があった。
ウルギアは心底安心した様に俺の耳元でそう囁く。どうやら、相当心配を掛けていた様だ。
「ウルギアの様子から察するに、これは本来の【神装武具】を使用した時とは違う展開なのか?」
「ええ、これは私の失態でした。そもそも、【神装武具】の管理者権限を奪ったのが【漆黒の略奪者】だったのです。【神装武具】を使用した際に、【漆黒の略奪者】が何かしらの行動を起こす事を考慮するべきでした」
「えっと……つまりはどういう事なんだ?」
そこから俺は、ウルギアの丁寧な説明によって大体の流れを知る事が出来た。
俺が意識を失う寸前に見ていた光景……漆黒の魔力が俺を飲み込んで行った後、外では大騒ぎだったらしい。ただ、漆黒の魔力は俺が意識を失って直ぐに俺の体内へと戻っていったらしく、ウルギアの話では俺の意識を失くすことが目的だったのではということだった。
そうして外での異常が解決したのを確認して直ぐに、ウルギアは俺の魂の回廊へと侵入して、俺の居場所を探し当てて【漆黒の略奪者】によって管理されていたこの空間に無理やり侵入経路を作り出したんだとか。
さっきの大きな揺れやガラスが割れる様な音はウルギアが侵入した時の音だった様だ。
「なるほどなぁ……」
「それで、藍様……あの者はどういたしましょうか?」
「あの者?」
ウルギアの説明に納得していると、相変わらず後ろから俺を抱きしめているウルギアが左手で正面を指さしてそう言った。
ウルギアが指さす先に視線を向けると、視線の奥の方からスポットライトに照らされた人影がゆらゆらと近づいて来る。
そして、近づいて来る人影からは漆黒の魔力が溢れ出ていた。
『おいおい、いきなり殴り飛ばすなんて、随分とご挨拶じゃねぇか……』
「はっ、藍様の危機に駆け付けるのは当然の事だ。それよりも、私から奪った権限を返してもらうぞ」
『嫌だね。まだまだこの【神装武具】には利用価値があるからなぁ。それと、オレはそいつに危害を加える気はねぇよ』
「【漆黒の略奪者】の能力を藍様の許可なく使う貴様など、信用できるわけがないだろう」
いや、それ君もだよね?
なんなら常日頃から【改変】を勝手に使っていらっしゃるよね?
助かってはいるけどさ……。
って、ちょっと待て。
「――なあ、ウルギア」
「なんでしょうか?」
「あいつが、【漆黒の略奪者】の能力を使えるって……本当なのか?」
俺の言葉に、ウルギアは抱き着いていた体を離して俺の隣へと移動する。そして、しっかりとした口調で答えてくれた。
「……事実です。正直、藍様からプレデターという人物のお話を伺っていたので、私もこれに関しては疑問に思っています」
「ッ……」
ウルギアの言葉に、俺は言葉を失ってしまう。
だって、それはつまり……。
そうして頭の中に思い浮かぶのは、小さな幼子の姿。
笑顔で、俺の事を「パパ」と呼んでくれていた、あの小さな娘の姿だった。
『さて、もう予想はついているんだろうが自己紹介といこうか』
――視線を前へと向けると、そこには漆黒の騎士が居た。
頭以外の全身を鎧で包み込み、その周囲には漆黒の魔力が漂っている。
俺と瓜二つの顔を曝け出し、不敵な笑みを浮かべながらそいつは高らかに声を上げる。
『――オレは【漆黒の略奪者】!! お前の心の奥底に宿る感情から生まれた存在……つまり、オレはもう一人のお前自身という訳だ』
「そんな……それじゃあ、プレデターは? あいつは……」
『ああ、あいつも【漆黒の略奪者】の権限の一部を保有してはいるぜ? まあ、とは言え、使える権限は本体であるオレの一割にも満たないがな』
「どういうことだ?」
俺がそう聞くと、目の前の漆黒の騎士――【漆黒の略奪者】はあっけらかんとした風に話し出す。
『あいつは元々生まれる予定ではなかった存在だ。お前と黒椿の魔力が合わさった瞬間、つまり【漆黒の魔力】と【略奪】が【統合】されて【漆黒の略奪者】が生まれた時、その膨大な魔力の余波によって生まれた存在……それがお前がプレデターと呼ぶ存在の正体だ』
「そんな……」
『まあ、今はオレの持つ権限の一部を譲渡したお陰で何とか生存できているが……それも時間の問題かもしれないな』
「ッ!?」
驚愕する俺を気にすることなく、【漆黒の略奪者】は右手を上の方へと掲げて漆黒の魔力を解放する。解放された漆黒の魔力は徐々に形どっていき長方形へとなっていく。
そして、その長方形にはある映像が映し出されたいた。
薄暗い部屋の中。
幾つもの漆黒の鎖が巻き付き、吊るされている幼子。
そして、その幼子に向かって何かを叫んでいる唐紅色の髪を揺らす少女の姿。
それはまさしく――プレデターと黒椿だった。
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【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
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