第218話 代償の天秤②





 藍が【神装武具】を使用して直ぐに、見守っていたファンカレア達に緊張が走る。フィオラに抱えられていたロゼも”浮遊魔法”を使い地面へ降りると、藍の方へと真っ直ぐに視線を向けて、その動向を見守り始めた。


 そして、そんなファンカレア達の前でその異変は起こり始める。


「――そんな……!! 一体何が起きているんですか!?」


 目の前の光景にファンカレアからそんな声が漏れる。


 微かに周囲の空気が変わったと思った矢先の出来事。

 藍の体から漆黒の魔力が溢れだし、一瞬にして藍の体を飲み込んで行った。


『ッ……!!』


 藍の体が飲み込まれて直ぐに、藍を見守って居た全員がその魔力を解放し臨戦態勢を取る。

 その中でも一番早くに行動したのが、紫黒の魔力を纏ったミラスティアだった。ミラスティアは紫黒の魔力を藍へと向けて放ち、同時に特殊スキルである【吸収】を発動させる。

 しかし――


「ッ……なるほど、これは厄介ね……」


 紫黒の魔力が藍の体へと届くことは無かった。

 藍の体から止め処なく溢れ出る漆黒の魔力が、ミラスティアから放たれた紫黒の魔力を飲み込んで行く。

 そうして、何事もなかったかのように漆黒の魔力は再び藍の体へと戻っていった。


「自我があるとは分かっていたけれど、これほど面倒な相手だとは思っていなかったわ」

「ならば、我の【白銀の暴食者】で――「それは駄目よ」――ッ……」


 グラファルトがスキルを発動させるのを、ミラスティアは制止した。


「忘れたの? あなたの【白銀の暴食者】だって自我があるかもしれないのよ?」

「ッ……だが……」

「大丈夫よ、いざとなったら私達が全力で止めるわ。私の【吸収】で藍の魔力を全て奪えば、藍の体に纏わりつくあの魔力は――あら?」


 ミラスティアとグラファルトがそんな話をしている最中、漆黒の魔力に覆われていた藍にある変化が起こる。

 漆黒の魔力が、徐々に藍の体の中へと戻っていったのだ。

 そうして、遂に漆黒の魔力はその姿を消し、覆われていた藍の体だけが残こる。


「危ない――ッ」


 残された藍の体が揺れ始めた直後、藍は膝から崩れ落ちる様に倒れ始めた。その様子を見ていたグラファルトは”転移魔法”を使い、瞬時に藍の両肩を後ろから支える。

 グラファルトが支えたお陰で何処にも怪我をせずに済んだ藍であったが、その瞳は閉じたままの状態であり、グラファルトが何度揺すっても目を開く事はなかった。


「グ、グラファルト……藍くんは?」

「……呼吸はしている。だが、体を揺らしても反応はない」

「私に診させてください」


 ファンカレアはそう言うと、黄金の瞳に魔法陣を出現させて藍の体を隅々まで観察し始める。


「――特に体内に関しても異常は見られません……いえ、もしかしたら魂の内部で何か起きているのかもしれませんが、そうなると私でも……」

「それか、【漆黒の略奪者】が隠している可能性もあるわね。”創世”の力を持つファンカレアの【神眼】を欺く事なんて出来ないとは思うのだけれど、あのスキルは特異性に関してはずば抜けているから」


 自身の力を以てしても分からない事態に不安になるファンカレアに、ミラスティアは冷静にそう答えた。


 そんな二人のやり取りを聞いていたグラファルトは、正座をした自分の膝に寝かせた藍の頭を乗せて、その頭を優しく撫でる。


 そうして、藍の頭を撫でながらも、心の中では複雑な想いを募らせていた。


(我は……役立たずだな……なぁ、藍。我はこんな無様なままで、お前の傍に居る資格があるのだろうか……?)


 それは誰にも届かない、悲痛な叫び。

 悲しみに打ちひしがれるグラファルトの表情は、その長く綺麗な白銀の髪に隠れて誰にも気づかれることはなかった。

 そうして、それぞれが不安と悲しみを募らせながらも、時間は刻々と過ぎ去っていく。




















 ――あれ、俺は……。


 ぼーっとしている意識の中、ゆっくりと今までの出来事について考えてみる。

 確か……みんなが見守ってくれている中で【神装武具】を使って……。


 って、そうだ!!

 そしたら漆黒の魔力がいきなり出て来て、それで……


「俺は、一体どうなったんだ……?」


 意識がはっきりとしてきたのと同時に目を開いてみる。

 目を開いたはずなのに、視界の先に広がるのは真っ暗な闇の世界だった。

 次に一歩前へ片足を置いてみると、しっかりと平な地面を踏みこんだ感触が伝わって来た。どうやら、ちゃんと地面はある様だ。

 手を握ってみてもやっぱりちゃんと感触はあるし、夢って訳じゃなさそうだな……。


「というか、この感じ……なんか既視感があるんだけど……」


 うん、どことなく……似ていると言うかまんまと言うか……。


 そんな事を考えていると、暗闇だった視界に頭上から一つの光が灯される。

 いきなり降り注がれた光に眩しさを覚えて目を細めると、正面の方から聞き覚えのある声が聞こえて来た。


『――おぉ、どうやら無事連れて来れたみたいだな』

「…………」

『なんだ? もしかして、オレの声が聞こえてないのか?』


 いや、聞こえてるよ。

 十分に……嫌という程聞いて来た声だから……。

 でも、それよりもさ……。


「何でまた俺の真似なんてしてるのさ……プレデター」


 ようやく目が慣れて来た視界の先に映る人物。

 漆黒の髪を揺らして、不敵な笑みを見せる青年。その服装は、俺が【漆黒の略奪者】を使った際に纏う”魔力装甲”。

 声も、見た目も、服装も……全てが瓜二つなその人物。


 この場所も相まって俺は目の前の存在の正体に関して、もう分かってしまっていた。流石に二度目だからね、天丼はバレるさ。


『は? プレデター? 確かにオレは【漆黒の略奪者】だが……』

「あーもう、そう言うの良いからさ。俺は娘だろうが甘やかしたりはしない、さあ……正体を現せ」

『いや、だから……っておい!! なに人の頭を掴んでやがる!?』


 なんだ? もうバレてるんだからいい加減、本当の姿を見せても良いだろうに……。

 プレデターが偽装している俺そっくりの姿へと近づき、その頭を両手で掴んでぐしゃぐしゃと撫でる。


「あっこら暴れるな!! というかお前、今まで何処で何をしていたんだ!! この数年、俺と黒椿がどれだけ心配していたと思ってんだ!!」

『だーかーらー!! オレはプレデターなんかじゃねぇぇぇぇ!!!!』


 頭をぐしゃぐしゃと撫で続けていると、俺にそっくりな顔をしたプレデターがいきなり怒鳴り出した。

 往生際が悪いなぁ……そんな悪い娘にはお仕置きが必要だな。

 そうして、俺は両手を横腹辺りへと移動させて、くすぐり攻撃を開始する。


『~~!?!? あはははは、いひっ……や、やめ……あはははは!!』

「おら、いい加減正体を現せ!!」

『だ、だから……いひっ、ち、違う……ひひひひ……』

「よし、後十分追加だな」

『~~~~!?』


 その後も、いつまで経っても本当の姿に戻ろうとしないプレデターをくすぐり続けた。

 しかし、本当にしぶとい……もしかして、本当に違うのか……?






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            【作者からのお願い】


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