第217話 代償の天秤①





 昼食の準備をしている最中に「ウルギアと二人で話したい」と言うファンカレアと、俺に許可を取とってからファンカレアの後を追って行ったウルギアは、昼食を食べ始める前に戻って来た。

 どうやらそこまで長い話ではなかったらしい。


 二人が戻ってきたところで、料理や飲み物が置かれている円卓をみんなで囲んで昼食を食べ始めた。

 円卓の上には様々な料理を並べている為、昼食の準備をしている時に円卓を囲む様に置かれていた椅子は全て片付けて、立食形式をとる事にしていた。その為、全員でいただきますをした後は、各自が自由に円卓の周囲を歩き回って自分が食べたい物を取り皿に乗せて食べている。

 俺は昼食を食べながらも、足りなくなった料理を補充して常に歩き回っていた。


「ウルギア、この料理も美味しいですよ」

「この全てが藍様のお作りになった料理なのですね……余すことなく食します」

「いえ、寧ろ早い段階で色々な種類の料理を取り皿へ移して置いた方がいいですよ? 藍くんの料理は大人気なので、あっという間になくなってしまいますから」

「なんと……ではファンカレア、早速移動しましょう」


 ……気のせいでなければあの二人、戻って来てから急激に仲良くなってるよな?


 二人が戻って来てから気になっている事が二つある。

 その内の一つが、ファンカレアとウルギアの親密度の変化だ。


 一体何を話していたのかは分からないが、話し合いが終わってからの二人は異様に仲が良くなっていた。

 それこそ、今の様に二人で並んで一緒に食事をとるくらいに。


 まあ、それ自体は別に構わないと思う。仲が悪いよりは良いからな。

 その理由に関しては気になるけど。

 ただ、二つ目に関しては少しは説明が欲しいと思う……。


 二つ目の変化、それは。


「なぁ、藍。あれは一体何なのだ?」

「言うな、俺が一番困惑してるんだから……」


 暴れ牛のステーキを齧っていたグラファルトは、俺の隣に立って正面を見つめてそう言った。

 グラファルトが見つめる先には、楽しそうに笑顔を見せるファンカレアとチラチラと俺の事を見つめているウルギアの姿がある。それだけならば別に何も可笑しなことは無いのだが、問題はこっちを見つめるウルギアの表情だった。

 俺の方を見ているウルギアの表情は、今までに見せた事のない表情だった。その頬を朱色に赤らめて、目が合うとはにかむ様に笑みを見せる。


 うん、率直に言って大変可愛らしいと思う……思うよ?

 だが、初顔合わせから昼食前までのやり取りを見ていた俺にとっては正直困惑せざるを得ないと言うか……本当に、僅かな時間の間に何があったのか気になる。


「いや、本当に何があったのだ? ファンカレアと何かを話しに行ったとは聞いていたが……あの変わり様は少し気味が悪いぞ?」

「だから、俺も知らないんだって。何を話してたのか聞いても、ファンカレアには『秘密です』って言われるし、ウルギアも『特には』って言って終わらせちゃうから……でも、気になるよなぁ」


 気味悪がるグラファルトとそんな会話をしながらも、昼食を食べ進めて行く。

 結局、その後も二人に聞いてみたりしたのだが、目ぼしい成果は見られなかった。

 果たして、その真相に辿り着けるときは来るのだろうか?

 まあ、ゆっくり待つことにしよう。










 それから一時間くらい経過して、ウルギアの歓迎会を兼ねた昼食は終わり、円卓を片付けた場所で俺達は集まっている。


「よし、ご飯も食べたしそろそろ始めるか」

「本当にやるんですか……?」

「今からでも遅くはありません、やはり中止すべきでは?」


 俺の目の前には女性陣が集まっていて、その中には不安そうな顔を浮かべるファンカレアと、真剣な顔でやめる様に聞いて来るウルギアの姿があった。


 いや、これに関しては散々話し合って決めたことだと思うんだけど……。


「すみません、やっぱり心配で……」

「まあ、気持ちは嬉しいけどさ。もし危ないと感じたら直ぐに中断するから」

「……わかりました。ウルギア、藍くんの事を頼みましたよ?」

「はい。藍様の事はしっかりと御守りしますので御安心を」


 俺の意思が固いと分かると、ファンカレアは止めるの諦めてウルギアに声を掛ける。ファンカレアに言葉を返したウルギアは、その姿を夜空の様に静かに煌めく小さな球体へと変えて俺の体内へと入ってしまった。


(それでは、私はこれから藍様の体内で危険が無いか監視させていただきます)

(了解。よろしくな)


 球体が俺の体へと取り込まれるのと同時に頭の中でウルギアの声が聞こえて来た。

 直接話すのも好きだけど、やっぱりこうやって頭の中で会話するのも落ち着く。


 そうして、ウルギアとの会話を終えてから、俺はみんなへと顔を向ける。


「それじゃあ……発動するぞ」

「はい。私達は何があっても直ぐに対応出来るように藍くんの傍に居ますので、少しでも危険に感じたら言って下さいね?」

「まぁ、ライナの【神装武具】を見た事があるけれど、そこまで危険なモノではない筈だから。それでも、念には念を入れて常に警戒はしていなさい」


 みんなを代表してファンカレアとミラが一歩前へ出てそう口にした。

 そして、二人が一歩下がるのと同時にライナが一歩前へと歩いて来る。


「いいかい、ラン。【神装武具】は願いを形にする魔法の武具なんだ」

「願いを形に?」

「うん。だから【神装武具】を初めて使う時に、必ず自分自身と対峙する事になると思う。何を願うのか、自分自身についてよく考えさせられる。そうして、自分自身と向き合う事で、本当に欲しいものを形にする事が出来るんだ」


 優し気に微笑みながら、ライナはゆっくりとそう語る。

 そこまで話し終えると、俺の両肩を掴んでライナは俺と額を合わせた。


「いいかい? 向き合うべきはスキルじゃなくて、自分自身だ。だから、変に本心を隠すことなく、全てを曝け出せ。僕の場合は、それで上手くいったよ」

「……わかった。ありがとう」

「僕に出来るのはこれくらいだからね。でも、君の【神装武具】と僕の【神装武具】は一緒の様で違うモノである可能性があるらしいから、無理だけはしないようにね? ファンカレアやウルギアじゃないけどさ、僕は君にはあまり危険な事をして欲しくないんだ……」


 合わさった額を少しだけ離したライナと見つめ合う。

 その表情は先程見た優しい笑みとは違い、少しだけ悲しみを帯びた笑みに変わっていた。その瞳は少しだけ潤んでいて、初めて見るライナの表情に思わず息を呑む。


「ライナ……」

「ごめんよ。本当の僕は姉さん達やリィシアよりも臆病で泣き虫なんだ。我慢しようと思ってたんだけど、やっぱり不安で……。無事に終わって欲しいと、心から願ってる」

「心配かけてごめん。大丈夫、ちゃんと何事もなく終わらせてみせるから」


 震えた声で呟くライナの頭に手を置いて、その煌めく金糸雀色の髪を撫でる。


 そうして、しばらくの間ライナの頭を撫でていると、ライナはその頭を数回振って俺から一歩離れて行った。

 離れたライナの顔には、もう悲しみは帯びておらず、目元は少しだけ赤みがかっているが、晴れやかな笑みを浮かべている。


「うん、ここでみんなと待っているから。無事に終わらせて来るんだよ」

「ああ、もちろん!」


 俺の返事を聞いて満足そうに頷くライナ。

 その周囲には、不安そうな顔をしているグラファルトやファンカレアがいたり、ソワソワと落ち着きのないアーシェやリィシアがいたり、食後に眠くなってしまったのかフィオラに抱えられてウトウトとしているロゼがいたりと、それぞれの個性が出ていて賑やかだった。


「それじゃあ――始めるぞ!」


 そんな賑やかなみんなを見ながら、俺は覚悟を決めて意識を集中し始める。

 頭の中で【神装武具】を使うと念じて見ると、体内を循環している魔力に反応がある事に気づいた。

 俺の意思とは関係なく、体内から漆黒の魔力が外へと放出されて俺を包んで行く。


「――!! ――!?」


 誰かが、何かを叫んでいる様だが……その声を聞きとる事は出来ず、視界が漆黒に包まれるのと同時に、俺は急激な眠気に襲われる。

 必至に抵抗しようと腕を動かしたり足を動かしたりしてみたが、その抵抗は虚しく……膝の力が抜ける感覚を最後に、俺は意識を手放した。






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 この辺りから真面目な雰囲気になっていきます。

 宜しくお願い致します。


            【作者からのお願い】


 ここまでお読みくださりありがとうございます!


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