第216話 落星の女神 ウルスラギア
「落星の女神――ウルスラギア。かつて、とある惑星系の中に存在する一つの惑星を滅ぼした事で呼ばれる様になった、星落としを冠した二つ名。ウルギアと言う名前と、黒椿から見せてもらった貴女の別の姿を見て、私もようやくその名を思い出しました」
「…………」
ファンカレアの言葉に、ウルギアは言葉を発する事無く唯々ファンカレアを見つめていた。
「貴女が答えたくないと言うのならば、それで構いません。ですが……」
そんなウルギアの様子を見ていたファンカレアは、次第に黄金の魔力を解放しウルギアを威嚇し始める。
それは、かつての力に振り回されていたファンカレアではない。”創世”の力を完全に制御下におく事に成功したいまのファンカレアは、正しく神々の頂点に君臨する事が出来る絶対者である。
その力の片鱗を神々しい魔力として、ファンカレアはウルギアへと見せつけた。
「……ほう、驚きました。以前とは比べ物にならない程に洗練された魔力制御。この数年で、成長した様ですね」
「ええ、私には……絶対に守りたい大切な人が居ますから」
「……そうですか」
素直に称賛を送るウルギアに、ファンカレアは真剣な表情で返事を返した。
その返事を聞いたウルギアは口では素っ気なく返したが、その口元には小さく、目の前に居るファンカレアさえも気づけない程に小さく笑みを浮かべている。
(貴方様は、本当に多くの方々に愛されているのですね……)
心の中でウルギアは、ここには居ない青年を想う。
ウルギアが見せた小さな笑みは、ファンカレアの成長を促す要因となった青年に向けられたものだった。
「貴女が誰であろうとも、それを理由に貴女を拒絶する様な事はしません。ですが、もしも藍くんに……私が一番に愛する夫に危害を加えるのなら、私は貴女を決して許しません。創世の名に懸けて、私は貴女の存在を消し去ります」
腰から生やした双翼が、その折りたたまれた翼を大きく開く。
そして黄金の魔力はファンカレアの背中へと集まり、腰から生えた純白の双翼とは違う、黄金の双翼を生み出した。
瞳に輝く黄金には白い魔法陣が描かれ、ファンカレアを中心に大きな風が吹き荒れる。
そんな光景を目にしても、ウルギアは臆することなくファンカレアを見つめていた。
「……貴女は、藍様が好きなのですか?」
「はい」
「……それは、今後も揺らぐ事のない永遠の物ですか?」
「当然です」
ウルギアの問いに即答するファンカレア。
そんなファンカレアの回答を聞いて、ウルギアは小さく頷いた。
「貴女の気持ちは理解しました。ご安心を、私が藍様に危害を加える事はありません。私は、藍様に忠誠を誓っていますから」
「……本当ですか? そもそも、貴女が何故藍くんに固執しているのかが分かりません」
「おや、あの精霊と私の過去について詮索したのでは?」
ファンカレアの言葉に、ウルギアは首を傾げながらそう聞き返す。
「確かに、私と黒椿で貴女の過去について調べました。しかし、いいえ……だからこそ分からないのです。だって、貴女が惑星を滅ぼしたのは……その……」
ファンカレアは口ごもってしまい最後まで言い切ることが出来なかった。その視線はウルギアから外れ、少し右を見ている。
そんなファンカレアの様子を見て、ウルギアは少しの沈黙をおいた後、ゆっくりと口を開いた。
「別に、そんなに難しい理由ではありません。ただ――”似ている”と言うだけです。時々、その面影が重なるくらいに”そっくり”と言うだけです」
「え?」
「駄竜……いいえ、グラファルト・ヴァヴィラ・ドラグニルに強く当たってしまうのも、きっとそれが原因なのかもしれません。あの竜を見ていると、過去の私を思い出してしまう。守り切れなかった私自身を思い出してしまう。だからこそ、強く当たってしまうのかもしれませんね」
「……ッ」
ファンカレアは驚きを隠せずにいた。
それこそ、解放していた力を霧散させてしまう程に。
その原因は、それまで無表情だった筈のウルギアが悲し気に微笑んでいるを見てしまったからだ。
これまで、満面の笑みやグラファルトにだけ向けられた冷ややかな視線は見た事あったファンカレアだが、それ以外の表情……それも複雑な想いを表す様な表情を見たのは初めてだった。
悲しみを感じながらも、それでもその過去を懐かしむ様にウルギアは語った。
そんな彼女に、ファンカレアはこれ以上忠告する必要はないと判断して、一歩ウルギアの傍へと近づく。
「……愛していたのですか?」
「はい……心から」
「……その想いは、今でも?」
「どう、なのでしょうね……。今は亡きあの方を想うと……不思議と藍様の顔が思い浮かぶのです。そして、藍様の事を想うと……あの方の顔が思い浮かぶのです」
その胸に右手を置いて、ウルギアは瞳を閉じながらもそう語る。
そんなウルギアに、ファンカレアは優し気に微笑みながらも声を掛けるのだった。
「貴女にとって、藍くんとその人は同じ存在なのですね」
「……同じ存在、ですか?」
「ええ。その人を想っていたのと同じ様に、藍くんの事も想っていると言う事です。つまり、貴女は藍くんを愛しているのですよ」
「ッ……」
ファンカレアの言葉に、ウルギアはその両目を見開いた。
そうして、納得するように何度も頷いてその胸に置いていた右手をぎゅっと握りしめる。
「そう、ですか……私は藍様を……敬愛ではなく、一人の異性として愛していたのですね……」
「ふふふ」
「……? 何か可笑しかったですか?」
「いいえ、すみません。ウルギアの発言に可笑しな所はありません。ただ――ウルギアも、そんな顔をするんだなと思っただけです」
「……??」
ファンカレアを言葉を聞いても、理解が出来ないと言った様子で首を傾げ続けるウルギア。
しかし、それは仕方のない事でもある。
何故ならその変化は、鏡が無いとウルギアには確認する事が出来ないからだ。
愛おしそうに語るウルギアは、その頬を微かに赤らめ微笑んでいた。
――私はファンカレアの様に完璧な感情を持ち合わせている訳ではない。
少し前にそう口にしていたウルギアだったが、ファンカレアからしたら十分に思える程に感情豊かだと思えた。
「貴女にも、しっかりと感情が備わっていると思いますよ? ただちょっとだけ、表に出にくいだけで」
「そうなのでしょうか……?」
「ええ、本当です。創世の名に誓いましょう!」
「は、はぁ……」
自信満々に胸を張りそう口にするファンカレアに、ウルギアは困惑気味に言葉を返す。
そんなウルギアの言葉を気にすることなく、ファンカレアはうんうんと頷いてから、再び口を開いた。
「さて、私からはこれ以上お話する事はありません。お時間を取らせてしまって、すみませんでした」
「もう良いのですか?」
「ええ、私は貴女が藍くんに危害を加える可能性があるのか確認したかっただけですから。今までの会話でその結論は出ました」
そう言うと、ファンカレアは少しだけ前かがみになりウルギアを見上げて笑顔を見せた。
「貴女は私と一緒です。つまりはお友達であり、仲間ですね! それを知れれば私は満足ですから!」
それだけ言うと、ファンカレアはくるりと後ろへ体を向けて、円卓のある場所へと歩き出した。
そんなファンカレアの後ろ姿を、ウルギアは見つめる。
「……全く、突然呼び出したかと思えば突然話を終わらせて去っていく。騒がしい女神ですね――私の友は」
そう呟いたウルギアの口元には笑みが浮かんでいる。
ウルギアがその事に気づくのは、もう少し先……円卓の置かれている場所に戻り、藍に言われてからだった。
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予約投稿、間に合いました!!
ウルギアに関しては今後のお話でもちょくちょく掘り下げていきますので、是非是非お楽しみにしていてください。
【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!
ご感想もお待ちしております!!
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