第215話 ウルギアの歓迎会
結局のところ、俺が【神装武具】を使う事に関しては許された。
もちろん条件は付けられたけど……。
ひとまずは、試験的にスキルを使う事となった。
「まず、必ずこの神界で使ってください。もしも藍くんの身に危険が迫っている時に、フィエリティーゼの安全が第一になってしまって藍くんを救う事が出来なくなるのなんて嫌ですから」
ファンカレアからの条件はそんな感じだった。
確かに、個人的な事情に世界を巻き込むわけにはいかないよな。神界ならファンカレアだけじゃなくてミラ達やウルギアなんかも全力で力を使えるらしいし、もし仮に俺が暴走する様な事になったとしても取り押さえて貰えるだろう。
ファンカレアから出された条件に頷いた俺は、丁度良いのでライナの【神装武具】を見せてもらう為に用意されたこの場所を使わせてもらうことにした。
「【神装武具】を使用している最中は、藍様の魂の内部で監視させていただきます。少しでも危険だと判断したら介入させていただきますので、その許可を。私にとっては【神装武具】よりも藍様の方が大切のですので」
ウルギアからの条件は、まあ予想通りって感じだ。
というか、ウルギアは元々俺の魂に宿る存在だったわけだし、いちいち確認する必要もないのではないかと思ったんだが、俺からの許可とかいるのだろうか?
そんな事を思いつつも、ウルギアがそれで納得できるのならと俺は強く頷いて、ウルギアからの条件をのんだ。
一応、ウルギアとの条件の確認が終わった後に二人以外にも聞いてみたけど、ほとんどが「気をつけてね」とか「油断しないように」とかの声が多く、これといって条件が提示される事はなかった。
そうして、みんなへの確認が終わり早速【神装武具】を使おうと思った時、ミラから待ったを掛けられる。
「その前に食事にしましょう? もうお昼を過ぎてしまっているわ」
「おー、さんせーい!」
「わたしも、わたしもー!」
懐中時計を取り出したミラがそう言うと、ロゼとアーシェが元気よく両手を上げてミラに続いた。
そっか、もうそんなに時間が経ってたんだな。
視線を下に向けると、普段よりは大人しくなってしまっているが、大食らいのグラファルトもソワソワと体を揺らしていた。
「それじゃあ、今日はここで昼食でも食べようか。ファンカレアも食べるよな?」
「はい! 藍くんのご飯なら食べたいです!」
「ウルギアも食べるか?」
「藍様から頂ける物であれば、有難く頂戴いたします」
幸いな事に亜空間内の料理の補給は終わらせてあるし、大丈夫そうだな。
「それじゃあ料理とか食器とか出していくから、みんなも並べたりするのを手伝ってくれ」
そうして、全員が頷いたのを確認して俺は円卓の上に大量の料理と小皿、飲み物などを並べて行く。
今日は初めてウルギアと直接会えた記念日だし、いつもの昼食よりも盛大にしようと思う。
まあ、要は歓迎会だ。
ウルギアも喜んでくれると嬉しいな。
藍達が昼食の準備をしている円卓から離れた場所に、二人の女性が立っていた。
「――それで、二人だけでしたいという話とはなんですか?」
星々が煌めく宇宙の様に美しいフィッシュテールドレスを揺らし、元神族であるウルギアは目の前の女性へと声を掛けた。
「私の我が儘に付き合っていただき、ありがとうございます」
ウルギアに笑顔でそう答えたのは、創世の女神――ファンカレア。
白く美しい装束を身に纏い、その白に近い金髪を風で揺らしている。
「いえ、お気になさらず。藍様からも許可は頂けましたから」
「ふふふ、本当に貴女の行動基準は藍くんが中心なんですね」
「当然です。私にとって、藍様こそが至高……」
そんなウルギアの返答を聞いて、ファンカレアはまた小さく微笑んだ。
ウルギアが円卓の席を離れたのは、ファンカレアに「二人だけで大切なお話があります」と言われたからだ。
本来であれば藍の傍を離れたくないと言い断るウルギアなのだが、ファンカレアの真剣な顔を見て多少の興味を抱いたのと、藍から「ファンカレアの話を聞いてあげる様に」と言われたので、ファンカレアの話を聞く事にしたのだった。
とはいえ、ウルギアとしてはなるべく藍の傍に居たいと思っているのも事実。
自分の返答を聞いて楽しそうに微笑んでいるファンカレアをしばらく眺めていたウルギアは、話が進む様子がない事を確認すると「話はそれだけですか?」と口にして円卓の席へと戻ろうとした。
「わー!? ま、待ってください!! すみません、ちゃんとお話ししますから!!」
「……では、手短にお願いします」
円卓の席へと戻ろうとするウルギアを、何とか止める事が出来たファンカレアは安堵した表情を浮かべて大きく溜息を吐く。
そして、数回の深呼吸をした後でその顔を真剣なものへと変えていくのだった。
「――では、本題に入らせていただきます。話というのは他でもありません、貴女の過去についてです」
「私の過去ですか?」
真剣な表情を浮かべるファンカレアを見て、ウルギアもその居住まいを正す。
ウルギアに聞き返されたファンカレアは、ゆっくりとその首を縦に振ると再び話を始めた。
「まず、初めに謝罪させてください。私は黒椿と共に、貴女の過去について詮索してしまいました」
「……」
「本当にすみません」
謝罪の言葉を述べたファンカレアは、深々とその頭を下げる。
そんなファンカレアを見下ろしていたウルギアの表情に、特に変化は見られなかった。
「そうですか」
「……怒らないんですね?」
怒られると思っていたファンカレアは、その頭をゆっくりと上げて、淡々と一言だけ呟いたウルギアに驚きそんな言葉を漏らす。
それに対してウルギアは、「怒る?」と無表情で首を傾げるのだった。
「……いずれは気づかれると思っていましたから。あの精霊は諦めが悪いので」
「そ、そうですか……ふぅ」
変に気を張っていたファンカレアは、ウルギアが怒っていないと分かるや否やその肩を盛大に落とし、大きく溜息を吐いた。
そして、それは独り言を言う様に、ポツリとファンカレアの口から零れる。
「……噂とは、当てにならないものですね」
「噂ですか?」
「ええ、私はこの宇宙の彼方に辿り着くまでに、多くの惑星系を渡り歩いてきました。その中で一つ……ある惑星系でとある噂話が流れていたのですよ」
そうしてファンカレアは、真っ直ぐにウルギアを見つめる。
ファンカレアに見つめられても、ウルギアは顔色一つ変える事無く唯々ファンカレアを見つめ返していた。
「――ある日、突然にその女神は現れた。それは静かなる憤怒。怒りに身を任せ一つの惑星を、その周囲に群がっていた神々も含めて滅ぼした凶悪なる女神」
「…………」
「貴女の事ですよね? ウルギア……いいえ」
そこで話を区切ると、ファンカレアはその瞳を閉じる。
そして、覚悟を決める様にゆっくりと閉じた瞳を開くと、その黄金色の瞳を静かに光らせて……その名を口にするのだった。
「――
それは、とある惑星系で広く知れ渡っていた女神の名前。
突如として現れた星落としの女神。
ある日を境に消えたその落星はいま……創世の前に姿を見せる。
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「星落とし」か「落星」で悩んだ結果、落星に決めました。
そして、明日は諸事情により投稿できるかどうか微妙なところで……もしかしたらお休みの可能性があると言う事を頭の隅に入れて置いていただけると助かります。
【作者からのお願い】
ここまでお読みくださりありがとうございます!
作品のフォロー・★★★での評価など、まだの方は是非よろしくお願いします!
ご感想もお待ちしております!!
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