第214話 ツンデレ?だったウルギアさん




 アーシェによって何とか落ち着きを取り戻したグラファルトは、現在俺の膝の上に座っている。グラファルトが泣いていた時はいつもそうしていたから、つい癖でやってしまったが、泣き止んでも自分の席に戻ろうとしないのでそのままにしているのだ。

 膝の上に乗ったグラファルトは俺の方へと体を向けてしがみついている。

 そんなグラファルトの頭を撫でながら、俺はグラファルト以外の八人の女性陣と話しを続けていた。


「ねぇ、結局どうするつもりなの?」

「何が?」

「何がって……【神装武具】の事に決まっているでしょう?」


 俺の返事に呆れた様に溜息を吐きながらミラはそう返してきた。


「ああ、その事か」

「元々ウルギアに来てもらったのだって、【神装武具】について説明してもらう為だったじゃない。それで、あなたの中ではもう答えは決まっているのかしら?」

「まあ、一応は……」


 俺がそう答えると、ミラだけではなく紅茶を飲んだりクッキーを食べていたりしていた全員が俺へと注目し始める。その中には俺の服を握り不安そうな顔で見上げるグラファルトも居た。

 緊迫した空気が流れる中、姿勢を正したミラがゆっくりと口を開く。


「――それじゃあ、聞かせてもらってもいいかしら? あなたの答えを」

「……とりあえず、【神装武具】を使ってみようと思う」

「「「「ッ!?」」」」


 俺の言葉に驚いた表情を見せたのは、ファンカレア、ウルギア、そしてグラファルトの三人。それ以外の六人は”やっぱりね”と言わんばかりに微笑んでいた。


「ちょ、ちょっと待ってください!! どうして、そんな結論に至ったんですか!?」

「藍様、どうかご再考願えませんでしょうか? 藍様に未知のスキルを使わせるわけにはいきません!」

「二人とも、落ち着いて……」

「藍、やめた方が良いのではないか……?」


 二人に捲し立てられて慌てていると、俺の服をくいくいと引っ張るグラファルトが青い顔をして止めて来る。

 勿論、三人は心配してくれているのは分かっているけど……それでも、俺にはどうしてもスキルを使ってみたい理由があったのだ。


 俺は青い顔をしているグラファルトの頭を撫でつつ、その理由を説明する。


「いや、別に興味本位とか楽観的に考えている訳じゃないんだ」

「では、一体なぜ……」

「それはな、ウルギア。管理者権限を奪ったのがプレデターだったから、そして……グラファルトを守る為だ」


 【神装武具】の管理者権限を奪ったのは【漆黒の略奪者】……つまりはプレデターだ。だからこそ、俺はずっとプレデターの意図を計りかねていた。

 プレデターが嫌がらせで管理者権限を奪ったとも考えられないし、何か理由がある気がするんだよな……。それを知る為にも、一回だけでも良いから【神装武具】を使ってみようと思ったんだ。


 それに、グラファルトの件もある。

 グラファルトは、自分だけが使える特殊スキル――【白銀の暴食者】に自我が存在すると知ってしまってから酷く怯えてしまっていた。

 今ではアーシェの言葉もあって泣き止んではくれたが、今後は【白銀の暴食者】の使用はなるべく避けるつもりらしい。それほどに怯えてしまっているグラファルトの為にも、早く【神装武具】に問題がないと分かるようにしてあげたいと思った。


「藍……我の為に……」

「この際だから言っておくけど、お前の事を心配しているのはアーシェだけじゃないぞ? ファンカレアやミラ達、それにここには居ないけど黒椿やカミールだって、みんながお前を大事に思っているんだ。もちろん俺もな。だから、謝ったりなんかするなよ? 俺達は、お前に幸せに暮らして欲しいと願っているから、全力で出来る事をするんだ」


 言い聞かせる様に、グラファルトの頭を撫でながら俺はそう言った。

 俺の話を聞いていたミラ達をうんうんと強く頷いている。


 そんな中で、ウルギアだけが顔を顰めて俺の方を見ていた……え、なに?


「えっと、ウルギア?」

「あの、藍様は何か誤解をされていませんか?」

「誤解……?」


 ウルギアの言葉が理解できずそう聞き返すと、ウルギアは真剣な様子で一度だけ頷いて話し始めた。


「まず、私は別にそこの駄竜――グラファルト・ヴァヴィラ・ドラグニルを貶めたり、心の底から嫌っている訳ではありません」

「えっと……?」

「確かに、邪神へと化したこの竜が藍様に危害を加えた事に対しては怒りを覚えていますし、許し難い行為をしたと思っていますが……だからと言って、それだけでグラファルト・ヴァヴィラ・ドラグニルの全てを否定している訳ではありません。私はファンカレアの様に完璧な感情を持ち合わせている訳ではないようですので、分かりずらいとは思いますが、それでも……」


 マシンガントーク……。

 真顔で淡々と語り続けるウルギアの様子に、俺もファンカレアやミラ達も、そしてグラファルトも困惑していた。

 えっと……つまりそれって……。


「――つまり、ウルギアもグラファルトの事を心配していると?」

「…………」

「おい、視線を逸らすな」


 俺がそう聞いてみると、先程まで開いていた口をグッと閉じて、ウルギアは視線を俺達から逸らしてしまった。

 ツンデレかお前は!? 多分、ウルギアが思っているよりも人間に近い感情を持ち合わせていると思うんだけど……。


 どうやら、ウルギアはウルギアでグラファルトの事を気にしてはいたらしい。そう言えば、俺が声を荒げた後も心配そうにグラファルトを眺めていた様な……。

 俺に対して危害を加えた事に対しては怒っているが、あれが邪悪なる神格とグラファルトに起こった悲劇が原因だと言う事はウルギアも理解している様で、別に泣かせるつもりも怯えさせるつもりも無かったのだとか。


「なら、あんな言い方しなければ良かったんじゃ……」

「私としては、そこまで厳しく言っていたつもりはなかったのです」

「えぇーそうかなぁ……? わたしでも、あんなことを言われたら泣いちゃうかも……」


 アーシェの言葉に淡々と返すウルギアは、本当に厳しく言っていたつもりは無い様子だった。

 多分それは、人との関り自体少なかったのも原因なんじゃないかな?

 元は神族であったウルギアがどんな生活を送っていたのかはしらないけど、聞いた話では、宇宙空間を転々としていて一つの世界に滞在する期間も短かかったと言っていた。多分、あまり深く人と話すことも無かったんじゃないかな。


「なるほど……では、これからは気をつける事にします。すまなかった、駄――グラファルト・ヴァヴィラ・ドラグニル」

「……いや、良い。元はと言えば我にも原因はあるのだ。お前が謝ることではないだろう」

「そうか。では、謝罪を撤回しよう」

「ッ……お前なぁ……」

「……?」


 グラファルトとウルギアの仲は険悪という訳ではなさそうだな。

 まあ、ウルギアはもう少しだけコミュニケーション能力を鍛えた方が良いとは思うけど、それについてもこれからの交流次第で変わっていくだろう。


 イライラとした様子でウルギアを睨むグラファルトと、そんなグラファルトに首を傾げるウルギアを眺めながら、俺はそんなことを考えていた。





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            【作者からのお願い】


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