第213話 わたしが守るから!!





「私の管理者権限を離れた三つのスキル、その最後の一つは……駄竜、貴様のみが使用できる特殊スキルの【白銀の暴食者】だ」

「我の……【白銀の暴食者】が?」

「【神装武具】に関しては【漆黒の略奪者】の介入によって管理者権限を奪われた。だが、【白銀の暴食者】は違う。【白銀の暴食者】は【漆黒の略奪者】と同様に、ある日突然に管理者権限を私から奪い去っていった……その意味が、貴様には分かるか?」


 ウルギアの言葉に、グラファルトは体を微かに震わせ始めていた。

 そんなグラファルトに代わって、俺はウルギアの方へと顔を向けて話に混ざる。

 ウルギアから語られた内容は、グラファルトの今後の身の振り方を考えなければならない可能性があったからだ。だからこそ、グラファルトの夫である俺は他の誰よりも真剣に向き合わなければいけない。愛する者を守る為にも……。


「ウルギア。まずは確認なんだが、ウルギアの言っている事が真実だとして……【白銀の暴食者】も、【漆黒の略奪者】みたいに自我を持つスキルということになるのか?」

「確証はありませんが、私が管理する事が出来なくなっている以上……その可能性は高いと思っていた方がよろしいかと思います。ただのスキルが私から管理者権限を奪うことなどできる筈がありませんから」


 うーん……でも、自我があるとしたらどうしてグラファルトは気づかなかったんだろう。

 いや、そもそも俺も自分が暴走するまでは気づかなかったし、そういうものなのか?


「まあ、【白銀の暴食者】が自我を持っている可能性が高いと言う説明は理解した。でも、俺よりもグラファルトの方が危険って言うのはどういう事なんだ?」


 さっきまでの会話の中で、ウルギアが言っていた一言が俺は気になっていた。


――寧ろ、藍様よりも貴様に使われる方が危険だ。


 同じ自我を持つ特殊スキルである筈なのに、ウルギアは【漆黒の略奪者】を持つ俺よりも【白銀の暴食者】を持つグラファルトの方が危険だと言ったのだ。

 その理由が知りたくてウルギアに聞いてみると、ウルギアは隠すことなく教えてくれた。


「両者のスキルのうち、【漆黒の略奪者】に関しては既に自我を持った存在が明らかになっています。藍様のお話をお聞きした限り、藍様に害をもたらす存在でもないでしょう。あの精霊からも問題ないと言われていましたから」

「なるほど……」


 どうやら、事前に黒椿からも何か言われていたみたいだ。プレデターの件もあるし、ウルギアが無理矢理にでも【漆黒の略奪者】を【改変】したりしないように先に手を打っていたのかもしれない。


「ですが、【白銀の暴食者】は正体を現すことなく、未だにその姿を隠し続けています。そんな未知の存在だからこそ、私は【神装武具】は藍様が使うよりも、駄竜……グラファルト・ヴァヴィラ・ドラグニルが使う方が危険だと発言しました」

「うーん……そもそも、可能性が高いっていうだけなんだろう? もしかしたら俺の【漆黒の略奪者】が【白銀の暴食者】の管理者権限も奪ったって事はないのか?」

「それは無いと思います」


 お、即答か。


「これは感覚的なお話になってしまうのですが……」


 そうしてウルギアが説明してくれたのは、【漆黒の略奪者】と【白銀の暴食者】の管理者権限が奪われた時の状況についてだった。

 のだが……


「――管理者権限が無くなった時の感覚が違う?」

「はい、分かりずらいお話で大変申し訳ありません」


 どうやらそれは当事者であるウルギアにしか分からない話の様だ。

 ウルギアから管理者権限が離れた時、二つの特殊スキルでは感じ方が違ったらしい。


「そうですね……このクッキーを使って例えるとしましょう。藍様、決して粗末には致しませんので、よろしいでしょうか?」

「ああ、無駄にしないなら問題は無いよ」


 俺から許可を貰うと、ウルギアは一枚の四角いクッキーを自分の目の前の円卓へと手繰り寄せてカップを乗せていた小皿の上に乗せる。

 そして小皿のクッキーを手に取ると「これを持っていてください」と言って、俺に渡して来た。


「手に持ってれば良いの?」

「はい。そのクッキーが管理者権限で、私の右手が【漆黒の略奪者】、左手が【白銀の暴食者】だとお考え下さい。では、まずは【漆黒の略奪者】の場合を再現します」


 そう言うと、ウルギアは俺が持ち上げているクッキーへと右手を伸ばし、おもむろに俺からクッキーを取り上げた。


「【漆黒の略奪者】は”奪う”と言った感じでしょうか。この様に一瞬にして管理者権限を奪われました」

「ふむふむ……」

「では、次は【白銀の暴食者】の場合を再現します」


 ウルギアから返されたクッキーを受け取り、俺は再びクッキーを片手に持ち上げた。そして、ウルギアは俺が持つクッキーへと今度は左手を伸ばして来る。

 伸ばされた左手はそっとクッキーに触れると、ひし形の状態で持ち上げていたクッキーの上を向いている角を折り、それを口へと運んでしまった。

 そうしてクッキーの一部を食べ終えたウルギアは、再び俺が持ち上げているクッキーの一部を折っては食べてを繰り返し、遂に俺の持っていたクッキーはウルギアによって全て食べられてしまった。


「【白銀の暴食者】は”喰らう”と言った感じでした。【漆黒の略奪者】とは違い少しずつ喰らい尽くす様に私から管理者権限を奪っていったのです」

「だから、【白銀の暴食者】にも自我がある可能性が高いって事か……」

「はい。さらに、藍様の【漆黒の略奪者】と違い【白銀の暴食者】の自我はその詳細な情報もありません。もしかしたら、また邪悪なる神格の様に体を乗っ取られることもあるかと。ですので、いつ暴走するかも分からない駄竜に【神装武具】を使わせるのは――「やめろ、ウルギアッ!!」――ッ」


 俺は慌ててウルギアの話を止めた。声を荒げて申し訳ないとは思ったが、今のウルギアの発言はまずいと思ったのだ。

 その予想は正しかったようで、俺の右隣りでは体を震わせていたグラファルトがその顔を更に青くしていて自分の体を両腕で抱きしめる様にしている。


「ッ……我が、また……」

「グラファルト、大丈夫だから」

「で、でも……我の所為でもし、また何かあったら……」


 普段とは違い、弱々しく話すグラファルトは怯えているように見えた。

 その瞳にも涙を溜めて、次第にポロポロと溢し始める。


「わ、我は、もう嫌なのだ……大切な者達に迷惑を掛けたくない……我は、我は……皆と居ない方が……」


 グラファルトは、邪悪なる神格に体を乗っ取られている時の記憶もしっかりと残っていると言っていた。だからこそ、彼女は同胞たちを裏切る様な行為にでた自分自身への強い後悔と、仲間である俺達に危害を加えた事に関して強いトラウマを抱えていたのだ。


 このままでは、グラファルトの心が壊れてしまうかもしれない……。

 そう思った俺がグラファルトに声を掛けようとした時、俺よりも早く動く人影があった。


「――大丈夫だよ、グラちゃん」

「……アーシェ?」


 瑠璃色の髪を揺らし、グラファルトの背後に転移していたアーシェは静かな動作で目の前に立つグラファルトを抱きしめる。

 グラファルトを抱きしめているアーシェは、何故か泣いていた。


「ごめんね、グラちゃん」

「何故、アーシェが謝るのだ……?」

「わたし、グラちゃんが苦しんでいるの知ってたのに、自分の事でいっぱいいっぱいで、邪神になってからも何もしてあげられなくて……わたし、グラちゃんの親友なのに……本当に、ごめんね……」


 泣きながらそう語るアーシェはグラファルトの体を強く抱きしめる。


「わたしね、ずっと後悔してたんだ。あの時、わたしが傍に居てあげられたら……グラちゃんの傍で一緒に悲しみも、喜びも共に出来たら、グラちゃんがこんなに苦しまないで済んだんじゃないかって……わたし、知ってるよ? グラちゃんが夜な夜な外に出て泣いてたのも、竜の渓谷に行ったときには家族のお墓の前で謝り続けているのも……全部知ってるよ」

「ッ……」

「だから、今度は守る!!」


 グラファルトの体を振り返らさせて、正面から再び体を抱きしめたアーシェはその声を上げてそう口にした。


「今度こそ、わたしがグラちゃんを守って見せる!! 間違った事をしそうになったら止める!! 力を制御できなくなって、暴走したとしても、わたしの命を懸けてグラちゃんをまもるからぁ!!!! だからぁ……もう一人で抱え込まないでよぉ……」

「アー、シェ……」

「わたしが守るからぁ……もう、何処にもいかないでよぉ……」

「アー……シェ……ッ……」


 そうして、二人の泣き声が円卓の席に響き渡る。

 そんな二人の様子に、ウルギアを除いた全員は笑みを溢していた。


 そうだ、グラファルトはもう一人じゃない。

 アーシェだけじゃなく、ミラも、フィオラも、ロゼもライナもリィシアも、ファンカレアだって居る。

 もちろん俺だって、全てを懸けてでもグラファルトを守る覚悟があった。


「アーシエルが救ってくれたわね」


 そう声を掛けて来たのは、いつまにかウルギアの傍に立っていたミラだった。

 ミラは優し気に微笑み、グラファルトとアーシェの様子を見守って居る。


「そうだな」

「もちろん、アーシエルだけじゃないわ。私も、それにファンカレアや妹達だってグラファルトの事は気に入ってるの。だから、もしグラファルトに何かあったとしても、必ず守って見せるわ」

「ああ、俺もそのつもりだ」


 そうして、俺とミラは会話が終わると今も尚泣き続けている二人の元へと近づいて行った。俺達の行動を見て座っていたファンカレア、フィオラ、ロゼ、ライナ、リィシアも立ち上がり二人の元へと歩き始める。


 心が挫けそうになっていたグラファルトを救ったのは、心強い――かけがえのない親友だった。





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            【作者からのお願い】


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